第20話 腐女子率高めです
期末テストの一週間前から、期末テストの作成にサトシは取り掛かっていた。
サトシは一年生の英語、同僚の工藤は二年生の英語のテスト問題を作っていた。
パソコンに入力していると、隣の席の工藤が覗き込んできた。
「期末テスト問題ってさ、サトシはかなり進んでる?」
「いや、普通に進んでるけど。どうして?」
「心配してやってるんだよ。慣れない環境で無理しているんじゃないかと」
工藤の言葉を聞きながらも、手を止めることなく、さとしはキーボードで入力し続けていた。
「気遣いしてくれて、ありがとさん」
「あれー、その長文読解は量が多いんじゃないか? もうちょっと少なくしてもいいと思うけど」
「いや、いや、これでも授業で教えた範囲内で問題を作るから。それに、これくらいの長文を読めないと二学期がキツイからなぁ」
「いいけど、サトシ。時間内に解ける問題にしろよ」
「わかった。あとで、この問題を解いてくれる? 不備があるといけないから」
「いいよ。模範解答も付けておいてくれよ」
「お前、英語の教師だろ。ところで、工藤は問題を作り終えたのか?」
「ああ、だいたいな。あとは、解答用紙を作ってプリントアウトするだけだ。
サトシも俺の問題を解いてチェックしてくれよな」
「オッケー、いつでもドンと来い」
職員室で、同じ教科の先生が友人であるのは心強い。
これが、先輩の先生だとなかなかチェックを頼みづらい。
先輩の先生は、多くの業務を抱えていることが多いから、頼んだら負担になるのではないかと遠慮してしまう。
その点、サトシは白金女子学園に来て、工藤のお陰でとても恵まれた環境の中にいた。
テスト問題作成には、だいたい10時間かかる。
だが、これだけ時間をかけて問題を作っていることを、生徒たちは知らない。
サトシは、それを生徒の前で正直に打ち明けることにしている。
「期末テストの問題を作るのに、先生は10時間かけて作っています。それを自慢したいわけではないですよ。それだけ、作る側は時間をかけているのだから、テストを受ける側も、それなりの時間をかけて勉強してほしいということです。授業で教えた範囲内から出題します。つまり、ちゃんと授業を受けて復習さえしていれば解ける問題しか出しません」
教壇で説明するサトシの話を聞いている生徒たちの中から、小さなつぶやきが聞こえてきた。
「先生、かっこいい」
それは誰でもない、桜井美柑だった。
テスト準備中は、テスト問題について話し合う工藤とサトシの姿が生徒たちによく目撃されていた。
二人の男子教師が、親密に話していると変な噂をする女生徒がいるのは、女子校あるあるだ。
「ねぇ、見て。工藤先生とサトシ先生って、また一緒にいるわ。あの二人って、本当に仲がいいわね」
「ええ、とても」
「あのまま、付き合っちゃえばいいのに」
「素敵ねー、それ。尊い!」
「あの二人、先生同士で禁断の恋。なんだか背徳感があって、ドキドキしない?」
「BLコミックになりそう」
一部の腐女子の間で、工藤とサトシのツーショットは盛り上がりを見せていた。
午後5時
生徒たちが下校してからも、職員室は問題作成している先生や、保護者の対応している先生などで忙しい。
工藤とサトシは、期末テスト問題の解答合わせをしていた。
「ここさぁ、ちょっと難しすぎないかなぁ」
「いやいや、俺としてはこれくらいの壁を越えて欲しい訳よ」
「そうはいってもなぁ、平均点が低いとまた何か言われそうだしなぁ」
すると、教務主任の五十嵐先生がやって来た。
教務主任は、校長と教頭に比べると生徒にとって存在感が薄いが、実は学校の管理職トップスリーだ。
校長、教頭、そして教務主任の三人が学校の管理職だ。
「工藤先生とサトシ先生、ちょっとお話があります。応接室までいいですか?」
(このクソ忙しいときに、なんだろう。別室に呼ぶということは、俺たちはなにか悪い事でもしたのか?)
応接室に通され、教務主任にソファーに座るように促された。
(座るんかい。これは話が長くなるという意味か)
「最近、生徒たちの間で、噂になっているんですが、工藤先生とサトシ先生は仲がいいと」
「はい、五十嵐先生、そうですね。それが何か問題でも」
「いいえ、いいんですよ。お二人が友人関係というのを知っていて、サトシ先生を採用したんですから」
「はい、ありがとうございます」
サトシは、それはありがたいことだと思っていたので、素直に礼を述べた。
「それで……、ちょっと言いにくいのですが、生徒たちの噂の内容を知っていますか?」
「いいえ、知らないです」
「サトシ先生は?」
「わたしも知りません」
「そうですか。二人は何かこう……、特別な関係とかですか?」
「教務主任、おっしゃっている意味がわかりません。はっきりとおっしゃってください」
「はっきり言うのも何ですが……、性的な嗜好について、とやかく言うつもりはありません。
とにかく、生徒たちから誤解を招くような親密さは、控えてください」
「誤解ってなんでしょう……」
サトシは、女子校で良く流行るBLや腐女子については本当に無防備だった。
「サトシ、あれだ、あれ」
「はっきり言ってくれないとわかりませんよ!」
不機嫌になるサトシを制して、工藤が弁明した。
「五十嵐先生、わたし達は先生が想像しているような関係じゃありません。わたしには、身重の妻がいるんです。恋愛対象は女性です!」
工藤の言葉で、サトシはやっと理解できた。
工藤と親しい=恋人同士と誤解されている。
教務主任は、工藤の説明に納得した。
「そうですよね。わたしも工藤先生は奥さんもいらっしゃるし、そんなことはないと思っていました」
「え? じゃ、わたしですか? ただ結婚していないだけで、ゲイだと疑われているんですか?」
「そんなズバリと言わなくても……。もちろん、サトシ先生を責めるつもりはありません。生徒たちの間で盛り上がっているだけ……と、いうことでいいんですよね」
「もちろん誤解です。やめてください!」
「こんな噂が教頭の耳にでも入ったら、卒倒しますよ」
教務主任の忠告を、工藤は素直に受け入れた。
「すみません。今度から気を付けます」
工藤が謝ったので、サトシも怒りを鎮めてとりあえず謝ることにした。
「申し訳ございませんでした」
「では、そういうことでお願いしますよ」
教務主任が応接室を出ようとしてドアを開けると、ドア越しに聞き耳を立てて聞いていた女性教員たちが、あわてて職員室に戻る後ろ姿が見えた。
(これが腐女子っていうやつか。腐女子は生徒だけではないんだな。女性教員まで腐女子なのか)
女子校の見えざる実態をまだ知らないサトシに、工藤は申し訳なさそうに教えた。
「悪かったな、サトシ。共学校よりも女子校のほうが腐女子率高いってこと、教えていなかったな」
「謝るな。教えてもらったとしても、俺は工藤と友達だから仲良くするのは変わらないし」
「サトシ……、お前って……いいやつだな」
「俺と工藤が、ただ話しているだけで、妄想して喜んでいる生徒たちを考えると、かわいいじゃないか。よし、もっと親密になって、生徒を喜ばせてあげなきゃな」
「おい、……、まだ後ろに教務がいる」
教務主任の五十嵐先生は、サトシの後ろで仁王立ちしていた。
「サトシ先生、もう一度応接室でお話を伺っていいですか?」
「すいませーーーん、冗談でーーす!」




