第14話 女生徒SIDE:お昼休み時間
お昼休み時間、一年A組の教室で桜井たちは大声で騒いでいた。
「信じられなーい! なんでハルちゃんが、わたしの作ったお弁当を持っているのよ!」
「げ! これって美柑がつくったやつ? 知らなかったわよ、美柑のお弁当だったなんて! それを言うなら、柚木くんだって。 それね、わたしが作ったサンドイッチなのよ! どうして、柚木くんが持っているのよ!」
「えええ? なんかわからないけど、サトシ先生の机にあったから交換してきちゃった。……ところで、美柑? そのメロンパンってさ、購買部で買ったの? 今日は美柑、購買部行ってないよね。もしかして、それ、わたしが買ったメロンパンじゃないの?」
「何言ってんのよ! 違うわよ。それとも何? 購買部のメロンパンに名前でも書いてあると言うの? ふざけないでよ、これはわたしのメロンパンなんだから! ちゃんとサトシ先生と等価交換したんだからね!」
「ああー! やっぱり美柑、サトシ先生のところに行ったんだ」
「当然でしょ。わたしの気持ち知ってるくせに。おかしいのはハルちゃんじゃないの。なんで、ハルちゃんがサトシ先生のところでわたしのお弁当と交換しているのよ」
「そ、それは……、美柑の応援よ、応援。ね、柚木くん」
「そうだよー。わたしたち、美柑の応援してるんだよー」
「信用できないわ」
あまりの騒がしさに、とうとう学級委員の夏梅は我慢できなかった。
桜井たちに向かって、注意しに来た。なぜか、自分のお弁当を持って。
「ちょっと、騒ぎすぎよ! いくらお昼休み時間だからと言って、ここまでうるさいと他のみんなにも迷惑だからやめてくれる?!」
「夏梅さぁ、あなたのお弁当も、まさか……」
「夏梅、さっさと白状しなさいよ!」
「あなたたちと一緒にしないでよ! これは、わたしのお弁当よーーー! やめてー!お弁当を奪わないでぇ!」
柚木が夏梅を押さえ込み、桜井と桃瀬は無理やりお弁当を奪った。
「お弁当の中身がサトシ先生らしいおかずだったら、タダじゃ置かないからね」
「やめて!」
「お見せ!」
「いやぁ~」
お弁当のふたを開けて中身の確認をして、桜井たちは戸惑った。
「お? 日の丸弁当? と、しらすの佃煮か」
柚木が日の丸弁当と認識すると、桃瀬は珍しいものを見たというな表情になった。
「これって、いつの時代……映画でしか見たことない古典的なお弁当。サトシ先生らしくなーい」
桜井は、日の丸弁当は夏梅の性格に合っていると思った。
「梅干しとご飯って……。夏梅って、清貧とは思っていたけど、食生活まで清貧だったのね」
お弁当を見られた夏梅は、桜井たちからお弁当を取り戻し、言い返してきた。
「こういう質素な食生活が、一番健康的なのよ! 人のお弁当を見てバカにするなんて、あなたたち最低よ! 先生に言いつけてやる」
「先生って、何先生? 夏梅さんお気に入りの教頭先生?」
「担任のサトシ先生に決まってるでしょ!」
サトシ先生と聞いて、桜井たちの態度が変わった。
「やめましょ。こんなくだらないこと。ねっ、桜井さん」
「ええ、桃瀬さん。そうね、人のお弁当を見て楽しむなんて、ちょっと度を超えた遊びだったわ」
「わたしたち、黙食いたしましょ」
急に遊びを止められると、なぜか寂くなる夏梅だった。
「ちょ、ちょっと、勝手に冷めないでよ。さんざんわたしのお弁当で弄んだくせに……」
「夏梅、もういいよ」
それからしばらくは、黙食していた三人だったが、思い出したように、桃瀬が興味深い話をし始めた。
「あ、そう言えばさぁ。今朝、学校来るときにね、サトシ先生が運転したあの車。あの青い車が止まっている家をみつけたんだけど」
「先生の実家じゃなくて?」
「うううん、学校の近くの小さな平屋の一軒家よ」
「ヤダわ。同じ車種なんてどこにでもあるんじゃないの?」
「美柑、そんなこと言わないでよ。本当に先生の車だった。わたし、あの日にナンバープレート見て覚えたもん」
「ハルちゃん、探偵かよ」
「確かに同じ車種で、同じ色とナンバーだった」
桃瀬の名探偵ぶりに、桜井は喜んだ。
「ハルちゃん、でかした! そんな重要なニュースをなんで早く教えないのよ! 帰りに寄ってみようよ!」
寄り道する気満々の桜井を、柚木が止めた。
「でもさ、美柑。あれは先生のお姉さんの車って言っていなかった? もしかして、先生のお姉さんが、用事があって立ち寄ったお宅かもしれないじゃん」
「あ、そっか……」
桜井は、がっくりと肩を落とした。
「そうだよね、ごめんね。ハルちゃんも柚木くんも、サトシ先生のことが好きだったんだね。それなのに、わたし一人で盛り上がっちゃって」
「わたしは別に。遊び半分だからね、美柑。だって、サトシ先生ってルックスがいいんだもの。学生時代の思い出づくりとしては、いい相手だと思うわ」
桃瀬は、サトシは思い出つくりの相手と言った。
「そうよね。ここ女子校だからさ、つい目がいっちゃうんだよね。わたしみたいに男っぽいだけで、キャーキャー言われるんだもん。遊びたくなるよ。そりゃ」
柚木は、女子校だから遊びたくなると言った。
「いいのよ、ハルちゃんも、柚木くんも無理しなくていいから」
「美柑……」
桜井は、焼きたてメロンパンを半分残した。
「なんか、食欲なくなった」
柚木は、桃瀬の作ったサンドイッチを頬張りながら、桃瀬に確認した。
「ハルちゃんさぁ、その青い車がとまっていた家って、間違っていない自信ある?」
「家はどうだか自信ないけど、車に間違いはないわ。絶対、先生のお姉さんの車だった」
「美柑が言った通り、放課後サトシ先生の家の可能性があるところへ、寄ってみない? 気になる事をそのままにしておけないタチなの。美柑もハルちゃんも一緒に行こうよ」
「うん、いいよ。美柑、わたしも応援するから、一緒に行こう!」
「え、いいの? 二人とも。じゃ、行こっかな」
結局、恋する担任追っかけ隊のメンバー三人揃って、放課後にサトシの自宅を探しにいくことになった。
関係ないふりをして何気に話を聞いていたのは、夏梅だった。
「あなたたち、そんな暇あるの? もうすぐ期末試験よ」
「え、夏梅も来る? ってか、わたしたちの話を聞いていたの?」
「聞きたくなくても、耳に入ってきてしまうのよ。あなたたち声が大きいから」
「そうだ、夏梅、先生の家で勉強教えてよ」
「美柑! それ、いいね!」
「わたしは、寄り道なんかしません。そんな、非行少女みたいな行い。わたしは、まっすぐ帰宅しますから」
「非行少女って言葉、何語? 昭和の香りがするわ」
夏梅は、興味ありませんという態度で、桜井の誘いを断った。
しかし、そのあと桜井たちが打ち合わせを始めると、耳をダンボのようにして聞いていた。
「ふむふむ、校門を出たら左に進む……で?」
しっかり、メモまでしている夏梅だった。




