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サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない  作者: 白神ブナ
第三章 一年三学期

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第106話 クラス替え会議と誤送信

 学年主任の藤原先生は、一年担任の教員が会議室に集まると、クラス替えの会議を始めた。


「みなさん集まりましたかね。では、クラス替えの会議を始めます。まず、パソコンの共有ファイルを開いてもらって……いいですかね。大丈夫ですか」


教員は一斉に共有ファイルを開いた。


「テストの点数順に並べました。これをベースに各クラスの学力が均等になるように、エクセルで振り分けたものがあります。これをベースに考えて行きたいと思います。まずは文系クラスの方から行きます」


白金女子学園は二年生から、A,B,C組が文系に、D,E組が理系に分かれる。

進路希望調査によって、それは振り分けられることになる。



クラス替えの基本となる形は、成績順で決まっている。

5教科の総合点数を順位に沿って、クラスを振り分けていく。


白金女子学園のやり方は、成績一位の子はA組、二位の子はB組、三位の子はC組。

ここまで割り振ったら、今度は四位の子はC組、五位の子はB組、六位の子はA組と逆に振り分けて行く。

これを繰り返して集計されたデータは、エクセルで簡単に作成できる。


ただこれで終わりではない。

ここから先は、サトシたち教員の手によって、微調整していく。


「調整の前に、教頭からの要望があるのでお知らせします。桜井美柑と夏梅京子は同じクラスにすること」


藤原先生の説明に、他の先生から疑問が出て来た。


「藤原先生、どういう要望なんですか、それは」


「サトシ先生、何か教頭から言われていますか?」


「いえ、何も」


サトシは、本当に教頭から何も聞いていなかった。

しかし、その意図とすることは想像できた。


(俺と桜井を夏梅に監視させて、何かあったらすぐに俺のクビを切るつもりなんだろう)


大山先生は、サトシの心配顔に気が付いて、助け舟を出してきた。


「桜井美柑は、確か酷い月経困難症で年に何回かは倒れていますよね。身体的に配慮できる生徒がついてあげないといけないと思います。桃瀬がいいんじゃないですか?」


藤原先生は、それには異を唱えた。


「でも、それだと桜井の周辺に元A組の生徒が集まってしまいますよ。クラス替えでは、できるだけ新しい人間関係を築いて欲しいのに」


それでも、大山先生は食い下がった。


「でも、柚木は別のクラスですよね。だから、同じ人間関係になるとは限りません」


藤原先生は、平等かつ円滑に会議が進むように即答は避けた。


「そうですねぇ。教頭先生の要望もありますし、この件については他の要素を見てからにしましょうか。ベースが崩れすぎても困りますし」


そこで、古松川先生は別の観点から意見を言った。


「すみません、佐々木さんと小林さん、いじめみたいなことがあったので、この二人は離したいんですけど」


クラス替えで、人間関係のトラブルを避けたいのは、生徒だけではなく教員も同じだ。

藤原先生だって、いじめ問題は抱えたくない。

今、浮上してきた桃瀬の名前を、藤原先生が言えるように、古松川先生はうまく誘導をかけてきたのだ。


「なるほど、桃瀬と小林はどうでしたか? サトシ先生」


「小林と桃瀬は話す機会もなかったし、同じクラスでもいいかと。とくに桃瀬はコミュニケーション能力ありますから、何かあったらカバーしてくれそうです」


「じゃあ、桃瀬と佐々木を交換しましょう」


古松川先生の提案で、結果、桃瀬は桜井と同じクラスになるように調整された。

教頭からの監視役の夏梅が桜井に付くのなら、ここは桃瀬がいないと桜井がかわいそうだと口に出して言わないが、古松川先生も大山先生も配慮してくれたのが、サトシにはわかった。

それに、サトシは桜井がいるクラスに担任からは外されるだろうと、大山先生と古松川先生は予想しての配慮だった。


生徒たちはよく、「わたしたち、三年間同じクラスなんて奇跡だねー」とか言っているが、実は、奇跡ではない。

このように、先生たちによる計らいだったりもする。


「ううーーん、今の状態だと生徒会役員をやってくれそうな子がA組に偏っていますね」


「それに、注意が必要な問題を起こしそうなグループがC組に……」


「ああ、すみません。双子がいますよ、B組。見落としていました」


「うわっ、本当だ。しかも二人ともピアノが弾ける子じゃないですか」


「ああああ、それかぁ。もう少しだと思ったのに。うーーーん……」


「だったら、双子の気の強い方をA組に入れて、A組から高橋をC組に入れればどうにか……」


「でも、そうなると運動能力のバランスが……」


こんなパズルのようなクラス替え会議を、教員は通算何十時間もかけてやっているのだ。


(こんなのAI導入で早く終わらないかなぁ……)


双子や従妹同士は原則離し、クラスには一人ピアノが弾ける生徒がいないとならない。

運動能力のバランスも必要。

しかし、運動能力に関しての優先順位は低い。

生徒会役員をやってくれそうなリーダーを配置することの方が優先する。


「あああ、お疲れ様でした。これでなんとか、まとまりましたね……」


藤原先生は、疲労でよれよれになりながら一学年の教員たちを見回した。


「何かある人……いない、ですよね……」


「わたしは大丈夫です」


「わたしもいいと思います」


「では、あとは管理職にこのデータをあげて、最終チェックしてもらいます。そこで担任が決まります。お疲れさまでした」


こうしてクラス替え会議は、一月から三月まで7回にわたり、計20時間で終了した。

これだけ時間をかけても、最終的には管理職のほうからダメ出しが出ることもあるが、その時はその時だ。




 会議が終わって、サトシはやっと退勤することができた。


(あぁ……疲れた。早く家に帰ってビールでも飲みたい。あ、そういえば、桜井にプレゼントしたのに、何も言ってこないな。LINEもないし。最近、忙しすぎてかまっていないから、すねているのかな)


サトシは、校庭に沿って街灯の灯りで照らされた道路を歩いていると、桜のつぼみが膨らんでいるのを見つけた。

開花にはまだ早いが、膨らんだつぼみが春を告げているようで、サトシは嬉しくなって携帯で写真を撮ってみた。


「ああ、携帯のカメラじゃ、なんだか感動が伝わらないな」


何も伝わらない、ただ取っただけの桜のつぼみの写真を、桜井に送信した。

いつものように、何の反応もない。


「唐突に、桜のつぼみの写真だけを送っても反応のしようがないか。メッセージは……」


サトシが、何かを入力しようと悩んでいると、桜井から突然返信が届いた。


シュポ


:何?


「うわっ! いつもより返信早っ! 何って何? 相変わらずそっけないなぁ。まあ、そりゃそうか。あの写真じゃ、何を撮ったのかわからないのも無理ないか」


サトシは、ドキドキしながら入力した。


「ええーっと、つぼみが膨らんでいる……ありきたりだな。ううーん、つぼみが可愛い……いや、回りくどい。好きだと言う気持ちをどうやって伝えればいいのか……」


などど、考えているうちに指は「好き」と入力して、間違って紙飛行機を押してしまった。


:好き


「うわっ! 間違って送信してしまった……、ま、いいか。どうせすぐ返信はこないだろうし」


だが、すぐに返信がきた。


:桜が?


「今日はどうした。やけに反応が早い。桜の写真だってわかっているじゃないか」


サトシは、短いメッセージのやりとりだけで、年甲斐もなく胸がときめいていた。

また、そっけない桜井の返事を可愛いと思った。


:桜井が


「えええーい、送信しちゃえ。誤送信にまぎれて告白しちゃえ」


だが、そこからなかなか返信が来なかった。


「あれ? 返信が無い。もしかして、照れているのかなー」


すると、シュポっと返信があった。


:今日、餃子を焼き過ぎたので、食べにきますか?


:行く! 速攻で行く!


(ちょうどビールを飲みたいと思っていたんだ。なんで、ここで餃子のお誘い? どうしていつも桜井は、俺のやってほしいことがわかるんだよぉーーー!)


サトシは桜井のアパートへ向かって、ダッシュした。


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