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サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない  作者: 白神ブナ
第三章 一年三学期

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第99話 バレンタイン禁止令

規則の厳しい白金女子学園でも、昔ならバレンタインデーは暗黙の了解だった。

それが、今の教頭になってから、バレンタイン禁止令が発布された。


朝の職員会議で教頭は、教員の気を引き締めにかかった。


「わが校では、バレンタインデーは禁止です。女子校ですから女子同士のチョコをあげるのはアリと認めていましたが、禁止します。友達にチョコをあげるなら、学校でやらないように。そもそも、学校に関係のないものを持ってくるのは禁止です」


「教頭先生、質問があります。バレンタインデーに生徒が教師にチョコをあげるのはアリでしょうか?」


「もってのほかです! 教師にお菓子を渡す行為は賄賂に当たりますから、当然禁止です。校則違反がみられた場合、生徒に反省文を書いてもらうだけじゃ終わりません。担任教員にもどのような指導をしていたのかわたしから確認させていただきます」


もしバレンタインチョコがバレたら、生徒はもちろん教員まで責任をとらせるという。

サトシは、厳しすぎると思った。


(こりゃ面倒だ)



一年A組のHRで、サトシは朝の職員会議で話し合われたことを、生徒たちに伝えた。


「バレンタインデーが近づいていますが、わが校はバレンタインで友チョコを渡すのは禁止です。そもそも、学校にお菓子を持ってくるのは禁止ですからね。その辺は理解できますよね」


「はい、サトシ先生、質問です」


「ん、夏梅、どうぞ」


「禁止の理由をはっきり述べてください。でないと、納得できない一部の人が校則違反するかもしれません」


「はい、では説明しましょう。まず第一に、不要物を持ち込むことは校則違反です。第二に、授業に集中できなくなるから。第三、食物アレルギーによる事故を未然に防ぐため。第四、先生へのチョコは賄賂にあたるから。以上です」


サトシの説明を受けて、夏梅はクラスの皆に向かって言った。


「みんな、わかったでしょう。こういう理由でバレンタイン禁止よ。校則違反をしてサトシ先生を困らせないようにしましょう」


サトシは、最近はバレンタインを禁止している学校が多いと聞いている。

以前、公立の高校教師をしているときは、バレンタインは暗黙了解だった。

サトシも多くの女子高生からチョコレートをもらって喜んでいた。


(義理でもなんでも、チョコをもらえたら嬉しかったし、生徒たちは友チョコで、昼休み時間は盛り上がっていたものだった)


それが禁止になるのは、子供たちから楽しい青春を謳歌する機会を奪っているような気がしてならなかった。


「……という、学校側の方針だそうです。さて、ここからは先生の個人的見解を述べます。別にチョコを渡すなとは言っていない」


サトシの個人的見解がはじまって、生徒たちはざわついた。


「下校したら自由にチョコを渡していいんです。友チョコで授業に集中できないのなら、授業に集中した後に渡せばいいんです。不要物の持ち込み禁止ですが、学校の外まで禁止していません。好きな子がいたら、アレルギーがないかどうか確認してから、外でどんどん渡しなさい」


さっきと違うサトシの温度に、生徒たちはさらにざわついた。

夏梅の正義感に満ちた意見など、あっという間に脳内で消去された。


「いいですか? 本命チョコは禁止していません。友チョコだの賄賂だの言われるのは、校内だからです。学校を一歩出たら、本命には思い切ってチョコを渡し、どんどんアタックしましょう!」


クラスがわああっと湧いた。


「「「サトシ先生、かっこいい!」」」


「先生からは、以上です」


サトシは、かっこよくバレンタイン禁止令の抜け道を述べてから、桜井をちらっと見た。

桜井の口が何か言っているが、教室の騒音に消されて聞こえない。


(あ、あれは絶対に「はぁ?」と言っている。怒っている)


昨夜の酔っ払いLINEの件と、本命にはチョコを渡せ宣言で、きっと桜井は怒っているとサトシは理解した。


(ヤバい。怒ってる桜井……でも、そこが可愛い)


サトシは本命チョコをくれそうな唯一の女子を、怒らせてしまった。




―女生徒SIDE:バレンタイン特設会場にて


学校帰り。

桜井と桃瀬、柚木はデパートのバレンタイン特設会場にいた。

そこではさまざまなチョコレートが、売られていた。


「キャー、これ、かわいい! 猫ちゃんのチョコ。自分用に買いたーい」


「ね、ね、ハルちゃん、これ見て。これなんかおしゃれだよー」


「うん、ほんとだね柚木くん、いろいろあって迷っちゃうね。でも、美柑なら手作りチョコにするんでしょ」


柚木と桃瀬がテンション高めにチョコを選んでいる横で、美柑は冷めていた。

HRでのサトシの個人的見解がひっかかっていた。


(あんなこと言ったら、先生ったら退勤時に大勢の女生徒に囲まれるに決まってんじゃん。そこまでして、チョコが欲しいのか)


「しないよ。手作りなんて。どうやっても、チョコレートは市販のものに負けるんだもん」


「そっかー。え、でも美柑さぁ、サトシ先生、指輪してたじゃん。結婚したっぽいけど、チョコ渡してもいいの?」


「へ? あ、あれね。あの噂ね。平気よ」


「ダメよ、美柑。新婚の奥さんがいるのにチョコ渡したら、修羅場よ」


「平気だってば。実は、あの指輪の相手ってね……」


桜井が桃瀬たちに、サトシとの事情を説明しようとしたところへ、夏梅が顔を出した。


「あなたたち、寄り道ね。ダメじゃないの」


「なっ、何よ。夏梅だって、寄り道してんじゃん」


「わたしは、ほら、これよ。立ち寄り許可書をちゃんともらっているのよ」


「何。どんな立ち寄り許可なの?」


「母が職場で渡す義理チョコのお使いを頼まれたのよ」


「どういう理由っ!?」


桜井は、夏梅の買い物かごに本命らしきラッピングのチョコを見つけた。


「ふうーん、義理にしては本命っぽいラッピングだこと。夏梅、誰に渡すのよ。正直におっしゃい」


「おっほっほっほ……、ごめんなさいね、桜井さん。若狭くんったら抹茶のチョコレートが好きなんですって」


「ああ、あいつか。抹茶っぽいわ」


「あら、焼きもちはやめてほしいわ。桜井さんこそ、サトシ先生への賄賂はやめてね。学級委員長としてそこは注意させてもらうわ」


桃瀬は、かっとなって夏梅に向かって言った。


「夏梅! 美柑がサトシ先生に賄賂なんか渡すはずがないでしょ! サトシ先生はご結婚されたのよ」


「あら、桃瀬さん知らなかったの? サトシ先生の婚約相手は桜井さんよ」


柚木も夏梅に腹を立てて、胸ぐらをつかんだ。


「おい、夏梅。ふざけたこと抜かしてんじゃないわよ。美柑は、先生の事でずっと落ち込んでいるんだから」


「く、苦し……柚木さ……乱暴はやめて。わたしの言うことが本当かどうか、桜井さんに聞いてみればいいわ」


「美柑、嘘よね」


桜井は、柚木から視線をそらしてチョコレートを選び始めた。


「あら、これ、美味しそう。やっぱりチョコは王室御用達よね」


「美柑、正直に言ってよ!」


「だから、さっき言おうとしたのよ。なのに、夏梅に邪魔されちゃってさ。本当よ。サトシ先生の指輪は、わたしとのステディリングなの」


「きゃーーー! 美柑、マジで? やったねーー、おめでとう!!」


桃瀬と柚木は、喜んで桜井に抱き着いてきた。


「だけどあまり言わないでね。先生に迷惑かけるから」


「言わない、言わない。でも、どうして夏梅が知ってるのよ。怪しいやつ」


「だって、夏梅は教頭先生のスパイだもん」


「じゃ、今もわたしたち、夏梅にスパイされているってこと?」


夏梅は、「さあ、どうかしらー」などと言いながら、特設会場の会計の方へと去って行った。


桃瀬と柚木はそのあとを追った。


「あいつをこのまま帰してたまるもんですか!」


「おうよ! 任せてハルちゃん、わたし足には自信があるの」


教頭のスパイを追う友人二人が、人ごみに消えていくのを見送ってから、桜井はじっくりとチョコ選びをはじめた。


「やだ、これかわいい。アキラに買ってあげよ。先生にはどうしようかなぁ。先生ってナッツアレルギーは無いと思うけど……、大人だし洋酒入りという手もあるか」


すると、LINEが鳴った。

サトシからだった。


:昨夜は申し訳ございませんでした。

できましたら、チョコは洋酒入りじゃないほうがいいです。

禁酒します。ちなみにアレルギーはございません。


(先生、謝ってる。可愛い! でも、なんでわかるのよ。チョコを選んでいるって)


桜井は返信した。


:千里眼? 今チョコ選んでたところ


:俺のGPSかな


:(スタンプ)参りました


サトシとのLINEで、胸がキュンとした桜井だった。


(ヤバ! サトシ先生がしゅきすぎる~)


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