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短編まとめ

だって記憶にないんだもん!

作者: よもぎ

アイリーン・ベルティア公爵令嬢には前世の記憶があった。

といっても、それは朧気なもので。

言ってみれば数年前のことを思い出そうとするようなふわふわしたものでしかなかったし、思い出せることも限られていたので、技術革命よ!だなんてとてもじゃないができなかった。

しかしまあ都合の悪い記憶はふんわり残っていた。

なんか王子の名前とかその側近の名前に憶えがあるのよねぇ、から連鎖して、ああこれ乙女ゲームだっけ?となったのだ。


ちなみにアイリーンはそのゲームに一切出演していない。

ネット小説でよくある悪役令嬢というものではありはした。

しかし名前だけ出てきて、その下っ端というか取り巻きというか、そういうのがヒロインをハブったりする程度。


あとはアイリーンは手紙を出してきて、みたいな存在だったのだ。

そして婚約者である王子はエンディングで「アイリーンとは婚約破棄してきた、きみと連れ添いたい」みたいにプロポーズしてきて……みたいな。

覚えているのはそれくらいである。

立ち絵もクソもないモブ以上出演キャラ未満だったな、と。



乙女ゲームのことをちゃんと思い出した頃は十四歳の春先。来年には学園に入学ですわねなんて、王子と話した帰り道にちょっとだけ寄ってもらった学園の外見を見て思い出したのだ。

それまでは「何かそういう話があった気がする」程度だった輪郭を把握はした。



したが、だから何?というのがアイリーンの正直な感想である。



王子そのものとの関係もきちんと良好で、王陛下や王妃陛下とだって同様である。

次期王妃としての教育も順調だし、外交にも同席して他国の重鎮との縁も既にある。

そして王族の結婚式ともなれば一大イベントなので、着々と準備は進んでいる。

礼装の布地だって既に今から製造が進んでいるはずだ。

装飾品のための宝石だとかそういうのも選定のため集めている最中だと聞いている。


要するに、結婚式直前となる、学園卒業年度になって、土壇場で花嫁を取り換えるだなんて。

とてもじゃないができない。

花嫁によって布地の種類さえ変わることもあるし、花嫁の髪や目の色で装飾品に使う宝石やその色合い、煌めきさえ決める。

なのに別人になるということは結婚式が数年先になることを意味する。

既に予定を立てて他国の重鎮を呼んでいるのに、だ。


それに、王子は次の王なので、花嫁はきちんとした家柄の令嬢で、きちんとした教育を受けていなければならない。

しかしヒロインは確か男爵令嬢である。

しかもしかも、大した家の娘ではなかったはず。


ということは、八歳から教育を受け続けているアイリーンの足元にも及ばない教育水準に身を置いてきていて、王妃となる基礎の部分さえおぼつかないのだ。

そんなのを嫁にするんだい、と王子が主張したところで、王も王妃も受け入れないだろう。

アイリーンを完全に凌駕するバケモノみたいな才覚を持った令嬢ならまだしも、あるのは愛だけとか、笑わせるなというのが王侯貴族の感覚だ。





そういうわけで、アイリーンは淡々と今まで通りな生活をして、そのまま学園に入学した。

時には年齢相応にはしゃぐ取り巻きたちに令嬢たれと手本を示しながら暮らしていたのだが、しかし忍び寄るヒロインの影もない。

なので、外見と実家の爵位を元に調べたところ。

ヒロインは、ごく普通の男爵令嬢として慎ましく暮らしていた。


なのでアイリーンは「ははーんこいつさては転生者仲間か?」と、食いつきそうな――というか、転生を思わせて「分かるなら話しよっか♡」というお手紙を出した。

そうしてやってきたヒロイン、リナ・レインハートは大変ビクビクしていた。


学園内のカフェテリアにある予約制個室で向かい合った二人は、ひとまずホットココアなど飲む。

そうして一心地ついたところでアイリーンは疑問をぶつけることにした。



「殿下は攻略なさらないの?」

「えっと。私、このゲーム……世界については、ほんとぽやっとしか覚えてないので……。

 制服を試着した時に見た時にちょっと思い出した程度だけなんですよね。

 なので攻略対象の顔とか名前もうっすらとしか覚えてなくて」



あら。

アイリーンは内心で「そこまで仲間なの?」とビックリした。

しかし顔には出さず、「続けて?」と促す。



「そもそも私、自分がキラキラのイケメンとお付き合いって身の程知らないなと思ってて……。

 ゲームの事思い出す前に、婚約者も出来ちゃったりしてるし。

 隣の領地の跡継ぎさんと婚約しちゃってるんです。

 だから尚更今更で」

「なるほどね。私もあまり覚えていなかったの。

 だけどあまりに日常が続くものだから何か変だなと思って。

 お互いに憶えてない事だらけでイレギュラーが起きていたなら納得よ」

「ええ……それに私、そんなことよりリザレクション・アイドルにサ終まで付き合えなかった事がくやしくて……」



心底悔しそうに言うリナに、アイリーンはカッと目を見開いた。


「リザルのこと知ってるの」

「はい。毎年冬のライブにはちゃんといってました…」

「誰推し?誰推し?」

「え、アイリーン様も……私は天道ミカルちゃんです」

「よかった、被らなくて。私は一井アキラちゃんよ」



二人は男子アイドルゲームの愛好家という縁から、そこから友情を芽生えさせていった。

何分二人はたぶんこの世に二人きりの共通の趣味持ち。

そして二人は覚えている限りのシナリオを書き出し、出版した。


それはもう売れた。


アイドルという概念がない中に突如生み出されたアイドル。

歌って踊って乙女を鼓舞するイケメンたち。

波乱万丈の彼らの人生をサポートする指導者。


二人は原作者として、舞台化までしちまったのである。

この世界はカラフルな髪色目の色が揃っていたので、まずはそこを基準に役者を選別し、更に歌声の特徴で選別し。

この世界風にアレンジしたストーリーの演劇部分と、今ある技術全てを駆使してのライブ部分とを同じ舞台の上でやる目新しい劇を完成させた。


結果、「アイドル」というものがこの国に爆誕し、二人の推しが所属していたユニットは伝説と化した。

イラストが得意だったというリナは、あらゆるアイドルのアニメ風イラストを描くことで一財産築いたし、無限にアイドル曲を製造できるようになったアイリーンは、王妃業の傍ら無限に楽曲を提供し、アイドルたちに歌い方をビシバシ指導した。


そうして二人の住む国は一大アイドル国として有名になり、アイドルたちは大陸中をツアーしまくることになったのだが、それはまだ未来の話である。




リザレクション・アイドル。なんとなく思いついた名前ですけど、ゾ〇ビランド・サガとかそういう系統なのか、それとも一度崩壊したアイドルグループが復活するストーリーなのか。

謎です。

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