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空から落ちてきた皇帝を助けたら近衛騎士&偽装恋人に任命されました~元辺境伯令嬢の男装騎士ですが、女嫌いの獣人皇帝から無自覚に迫られ大変です~  作者: 甘酒ぬぬ
第5章 真実

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5-3 皇帝の願い

 アズールが倒れた。


 その一報をビリーが受けたのは、料理を作り終えて半日が過ぎてからのことだった。儀式後に突然意識を失ったのだという。それ以上の情報は入ってこなかった。


 ビリーがアズールに会うことができたのは、そこからさらに半日後。容態が落ち着いたということで、ようやく面会が許された。


「アズール様!」


 ビリーが飛び込むようにしてアズールの寝室に入ると、


「あ」

「あ」


 お忍び用の服に着替え途中のアズールと目が合った。


「……何やってんですかあんたは!」


 ビリーは耳隠しのための頭巾をひったくり、アズールを叱りつける。


「気分転換のためにちょっと散歩を……」


 アズールは耳をさすりながらもごもごと言い訳をした。尻尾は完全に委縮している。


「どこまで散歩に行くおつもりですか? まさか一人で行こうなどとは考えていませんよね? 一番最初にした約束は覚えていますか? 『決して一人で行動せず、どこかへ行く場合は必ず私を供に付けることを厳守してください』と。よもやお忘れではありませんよね?」


 ビリーの迫力に気圧けおされたアズールは後ずさり、ぺたんとベッドに座り込んだ。


「まったく……。倒れたって聞いて、でもなかなか部屋に通してもらえなくて……心配だったんですよ……」


 ビリーはアズールの肩に手を置き、力が抜けたようにうな垂れた。


「……すまない」


 アズールは控えめにビリーの後頭部を撫でた。


「――『すまない』じゃ、すみませんよ?」


 ビリーは眉をきりきりと吊り上げ、アズールの手首をへし折る勢いで握った。


「仮病ですか? それとも本当に具合が悪いんですか? もしも仮病であったなら、どうして前もって教えてくれないんですか。ルルちゃんと二人で料理食べきるの結構大変だったんですよ。本当に具合が悪くて倒れていたのなら、おとなしく寝ていてください。体調不良を押してでも行かなければならない場所があるなら私が代わりに向かいます」


 言いたいことを一気に吐き出し、ビリーは肩で息をする。


 二つの可能性を挙げたが、ビリーにはアズールが仮病でないことはすぐにわかった。

 昨日見た時よりも隈が濃く、はっきりとわかるほど顔色も悪い。


「たまにな、癒しの手を使うとひどく疲れることがある。本当にたまに、だぞ」


 アズールは自分の手のひらを見つめた。握ったり開いたりを繰り返す。


「その『たまに』が昨日起こったんですよね。おとなしくしててください。散歩もダメです」


 ビリーは力ずくでアズールをベッドに寝かせ、布団をかぶせた。


「先ほども言いましたが、私でよければ代わりに伺いますよ」


 お忍び用の衣装から察するにアズールは城下に用事があるのだろう。単純に気分転換がしたかった、と言い出すほど愚かでないことをビリーは祈る。


「いや、いい」


 アズールはかぶりを振り、目蓋を伏せた。


「なあ、ウィルマ」


 出し抜けに本来の名前で呼ばれ、ビリーはどきっとする。


 アズールはあきらかに名前を呼び分けていた。それが具体的にどんな時なのかまではビリーに判断できない。しかし、なんらかの意図があることは確かだ。


「アズール様、前にも言ったかもしれないんですが、気が緩むというか、なんか調子が狂うので『ウィルマ』って呼ぶのやめません?」


 ビリーは指に髪を巻き付けながらお願いした。

「ウィルマ」と呼ばれるとどうしても思考が一時途切れる。


「なるほど。調子を狂わせたい時はウィルマと呼べばいいんだな」


 アズールはくつくつと悪漢のように喉を鳴らす。だがすぐに、表情が真面目なものへと変わった。


「一つ頼みがある」

「……なんでしょうか」


 ビリーは姿勢を正す。


「転落事件について、これ以上調べないでくれ」

「犯人が見つかったんですか」


 尋ねながら、ビリーは違和感を覚えた。


 ――これ以上「調べないで」くれ。


「いや……もういいんだ」


 アズールは力なく首を横に振る。


「まさか、私が手傷を負ったことを気に病んでいるのですか。あれは私の不注意によるもので――」

「そうじゃない」


 強く否定し、アズールは自分の額に手を当てた。


「理由を、聞かせてはもらえないのでしょうか」

「俺が始末をつけなければならないことだからだ」

「要領を得ません」


 ビリーは眉をひそめた。

 アズールは何かを隠している。体調の悪い相手を問い詰めたくはないが、せめて納得できるだけの情報は欲しい。


「いずれはお前の耳にも入ることだ。だが俺は、少しでも先延ばしにしたい。結果、うらまれたとしても、構わない」


 アズールはまばたき一つせず、ビリーを見つめた。


(私に知られるとまずいこと、なんてあるのかな。アズール様は悪意をもって隠そうとしてるんじゃなくて、私のためにあえて伝えないんだと思う。自惚うぬぼれかもしれないけど)


 ビリーは顎に手を当てて考え込む。問題の輪郭りんかくだけはぼんやりと見えるが、詳細はまるで見えてこない。


「アズール様が私に伝えても良いと判断した時。もしくは、私が理由に気付いてしまった時。アズール様の口から、すべてを教えてもらえますか? うなずいてくださるのなら、今はもう、尋ねません。アズール様の意思に従います」


 ビリーは立膝たてひざをつき、アズールの返答を待った。


「……ああ。その時までに、言葉を用意しておく」


 アズールは困惑と安堵あんどがないまぜになったような顔をし、ビリーに手を伸ばす。

 ビリーはアズールの手を取り、唇を寄せた。

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