初めての庭と知恵熱
いざ外へ!の前に
ちょっとここで家族を紹介します。
と言うか、父から玄関ロビーで紹介してもらったので。
えっと。
父の名前はハイネン。この辺境の地を統べる領主の辺境伯で、辺境の砦を守る辺境騎士団の総長さん。狼獣人らしい。
母はラフィーネ。美しい黒豹の獣人で女騎士でもあって、父と一緒に戦うこともあるらしいです。
長兄がハインツ。狼獣人で騎士団の副団長として父の補佐をしています。
次兄がライオル。黒豹の獣人で騎士団の見習いとして入隊したばかりらしい。
姉はハルフィーナ。とっても可愛い狼獣人の女の子だけど、強いらしい?
他にも乳母のマリラと父の執事のマーク、二人の息子で侍従のマイクを紹介してもらった。
他の人達は私がちゃんと妖精と契約してからお披露目するんだって。
よし!今度こそ、いざ外へ!!
バーンと音がするくらいに開いた扉に、ちょっとびびってひくっと泣いた私でしたが、父は気にせずにずんずんと外へと歩いていきます。
当然抱かれたままの私も外へ!
初めての異世界。
ちょっと緊張したんですが、扉の外は意外と普通な庭園でした。
うっすらと遠くにうっそうとした木々が見えるから、あれが未開の森かな?
外には今まで会ったことの無かった人がいっぱい働いていたみたいで、みんなが私を見て手を止めて挨拶してくれます。
私はどう返したらいいのかわからなくて、ひたすら笑って誤魔化しましたが、それがかなり好印象だったらしく、あちこちから可愛い!と雄叫びや呟きが聞こえてました。
ちょっと恥ずかしい!
父はそんなことにはお構い無しでずんずん歩いていきます。
そして到着したのは、芝生の小さな広場のような庭でした。
「ここはネリの庭だよ!ネリの好きなようにお花を植えたり遊具を置いて良いからね♪僕たち兄妹で整備したんだ!気に入った?」
とライオル兄さまが得意気に言うと、ハルフィーナ姉さまが競うように
「この芝生は小石もちゃんと排除したから、安心して歩いて良いのよ!もちろん私も手伝うわ♪」
と楽しそうに話してくれました。
どうやらこの芝生広場は私のために兄たちと姉が作ってくれた私専用のお庭のようです!
すごい、異世界ってスケールが違うわ。
さぁそれならば歩かねば!
さぁ降ろして!!
と父の顔をねだるような視線で見つめると、父も観念したかのような顔をしながらしゃがみます。
「いいかネリ。お前がこの地に足をおろした瞬間に妖精がやってくるからな?驚いて泣くなよ?」
苦笑いしながら父が私を芝生に降ろして支えてくれました。
次の瞬間。
突然目の前の景色が霞むように歪み、次に視界がはっきりとしたと思ったら、目の前にたくさんのもふもふな動物たちが立っていたのです!
犬、猫、ネズミにウサギや馬に狐やライオン、虎もいます。
他にもインコに猛禽類っぽい鳥やキラキラ光る蛇や蝶々まで色々!
もちろん狼や豹も、イタチや蛙までいます。
すごい!ここはパラダイスですか?
はぅぅ~ともふもふ動物パラダイスに浸っていたんだけど、不意に頭のなかに響くような優しい声がしました。
『おめでとう。新しく生まれた命よ。我らの友となりしもの。』
えっと。もしかして動物さんたちが妖精さん?
『そうだ。きみの誕生を祝って祝福するためにきみの庭に集まった。我々がきみの国で妖精と呼ばれるものだよ。』
わぁすごい!
じゃぁみんな私の友だちになってくれるの?
そう言ったら、動物さんたちから驚きの声がした。
『きみはみんなと友だちになりたいのかい?』
うん!ダメだった?
『いや、ダメではないが。そんなことを言われたことがないからなぁ。きみの国の人は我々のなかから気に入った一人を選んで契約するのが普通だし、取りあえず我々のなかから一人を選んでくれ。そのひとりを通して我々と友だちになるというのではダメかい?』
うん、わかった。
でも、うーん悩む!
改めて周りの動物たちを見ていく。
みんな優しそうで可愛いし、格好いい!
そのなかでも気になる子を見付けた。
一人をと言われたけど、一匹と一羽?
なんかすごく仲良しそうなんだよなぁ。
そう思いながら見ていたからか?
相手も気が付いてそばまで近付いてきてくれた。
目の前にいるのは、すらっとして大きな日本でならドーベルマンに似た感じの黒い犬さんなんだけど、大きさはドーベルマンの2倍くらいはありそう。
そして、その背中に乗っかってる空色の青い鳥。
インコよりも大きいからオウムかな?
頭の飾り羽がとっても綺麗ね♪
『きみは我々を選んだのだな。』
えっと。ふたりでも良いの?
『いいんじゃない?たまに複数選ぶ人もいたよ。よろしくね♪さぁぼくらに名前教えて!そして、ぼくらにも名前をちょうだい。我が主』
名前?
うん!
私はライネリア。ネリって呼ばれてるの。
う~ん。
じゃあ鳥さんはフェリリス!
リリって呼ぶね♪
犬さんはケロロノス。
ロロって呼ぶね♪
『決まった。これにて契約は交わされた。我はケルベロスのケロロノス。主にロロと呼ばれ、精霊となりしもの。』
『ぼくも契約を交わした。フェニックスのフェリリス。主にリリと呼ばれ、精霊となりしもの。』
二人が宣誓をたてた瞬間に、また景色が一変する。
さーっと動物さんたちが消えていく。
そして、私の目の前にはロロとリリが残り、家族が側に戻ってきていた。
「えっ!妖精がふたり?」
次の瞬間、困惑した兄の声が聞こえて、両親も顔を見合わせる。
「ネリ?あなたの妖精はふたりいるのね?」
母の確認するような声に、私はゆっくりとうなずきながら、一歩づつ歩く。
リリとロロに向かって。
リリとロロも私を迎えるように歩み寄ってくれたので、転ぶ前に抱きつく。
そうして振り向くと。
父の隣にはグレーの狼
母の肩には白い鷹
ハインツは銀色の大きな虎
ライオルは金色のもふもふなゴールデンレトリバーみたいな犬
そして、ハルフィーナは虹色に輝く蛇を首からさげていた。
えっと。
みんな妖精さん?
『そうだよ。あいつらはきみの家族が契約を交わした妖精たち。ぼくらも選定の庭には参加したけど。きみの守護精霊になるのが決まってたから。』
え~っと。
リリとロロは妖精じゃなくて精霊なの?
『あぁ。我らは神に祝福されたライネリアを守護するために契約と時を同じくして妖精から精霊へと進化した。』
うわぁ~マジか!?
なんか大丈夫なのか私の人生…。
そうして私は歩行練習をする前に、庭の真ん中でブラックアウトしたのである。
その後、父によって部屋へと戻された私は、3日ほど高熱で寝込んだのだが、呼ばれた医師の診断によると、おそらくは知恵熱とのことだった。
新しい事を色々といっぺんに知りすぎて頭がパンクしたらしい。
療養中は家族と過保護な守護精霊たちがそばにいてくれて、私にとってはやっぱりパラダイスでした。
読んでくれて
ありがとうございます。