目覚めてみれば、赤ちゃんスタートですか?
困った。
まるで映画を見てるような気分。現実味がないって、正にこういうことなんだろうな。
うっすらと霞がかかったような視界に、思うように動かない手足。
遠くから『起きろ來祢!』と声がするのに。
すぐ目の前の誰かは私をライネリアと呼ぶ。
う~ん? 何がどうなったの?
ちょっと混乱中だけど、声を上げようとしても自分の口からは言葉とは呼べない様な微かな吐息しか出てこない。
『まだ聞こえてるか?來祢は今新しい生を得た。今生はライネリアと言う名で生きるんだ。』
『來祢。幸せになりなさい、ひとり遺したことを許してほしい。これが君の家族からの伝言です。今日からはライネリアとして幸せに。君の幸せをわたしたちも見せてもらいますね。またいつか逢いましょう。』
「えっと、色々ありがとうございました。私頑張ります。またいつか。」
そうして、私は100年の眠りから目を覚ましたらしい? のだが。
100年ぶりの世界は、私の知る日本とも地球とも違う異世界だったのである!!
とは言うものの、私はなんでか赤ちゃんに逆戻りしていて、異世界だとは感じるものの詳しいことは何もわからない状況だった。
なぜ異世界と感じたか?と聞かれたら、家族と思われる人やメイドさん?乳母っぽい人?みんなが地球では見たこと無い人たちだったから、としか答えられない。
何が違うか?
まずは見た目が違う。
みんな身体が外国人ですか? ってくらいにデカイ! 筋肉質でとにかくデカイ!
そしてもふもふ!
どの人も色んな色や形のもふもふな耳が頭に付いていて、尚且つぴるぴると動く! だから間違いなく本物だとわかる。
ちなみに時間が経過してハッキリと見えるようになってから、ずっとそばに居る女性が母親みたいなんだけど、母には三角の黒い耳が付いていて長くて細い尻尾もある。
一際ガッシリとした男性が父親らしく、毎晩必ず私を見に来る父にはもしゃもしゃした薄茶色の大きな三角耳と、ふっさふさの太い尻尾があり、私の前では常にブンブンと縦揺れしていて、思わず手を伸ばしてしまった時には自分でもヤバイかも?とか思ったのだが、父は嬉しそうにふさふさ尻尾を私のベッドに乗っけて触らせてくれたのである!
お日さまの匂いがして幸せなさわり心地にうきゃうきゃしちゃいました♪
他にも私には家族がいて、カッコいいお兄ちゃん2人に可愛い美少女なお姉ちゃんもいました。
3人ともちょっとづつ違う耳と尻尾をしていましたが、じっくり見れるほど一緒には過ごせなくて、私はひたすらあぶあぶ言いながら天井を見てるしかなかったのです。
少しずつ成長して寝返りを覚えてからは、視界がちょっと変わりました。
うつ伏せになると床が見える!
人の足も見える!
私が知る日本とはやっぱり違いました。
筋肉質な太い足ばかりが見えます。
女性の足もしっかりと筋肉がついていて、みんな走ったら速そうだなぁって感じ。
そして尻尾が良く見える!
母のはすらっとして床に届く位に長いのです!
真っ黒かと思いきやうっすらと斑点があるので、もしかしたら黒豹かもしれません。
父はやっぱり根本からがぶわっと極太
で、先の方にむかって細くなっていて、犬かな?でも薄茶に焦げ茶色や黒も混じっていて複雑な色合い…狼でしょうか?
最初の頃より動けるようになった私は、目にするもの全てが珍しくてワクワクして大興奮!
早く歩きたくて自主的にベッドの柵につかまって立つ練習を始めました。
もちろん狐さんぽい乳母が居眠りしてたり、誰も部屋に居ないときだけです。
さすがにまだ生後3ヶ月くらいな自覚があるので、立つのは早すぎると考えたのですが、どうやら日本の赤ちゃんとは成長速度が違うらしく、運悪く父に見つかったのに逆に誉められてしまいました。
「すごいな!ネリは頑張り屋だ。ひとりでたっちの練習か?そろそろ庭で練習を始めようと思ったのだが、遅かったな。明日からはみんなと庭で練習しような!」
わっしゃわっしゃと尻尾を振りながら父は私を抱えてクルクル回るので、あっという間に目を回した私は、その夜はそのままぐったりと眠りについたのだった。
翌朝は起きるなり家族に囲まれていてびっくりした。
「父さま?本当にネリは立ったんですか?私も見たかったわ!」
「あぁ本当だ!昨夜覗いたらベッドの柵に掴まって上手に立っていたぞ!きっと庭でも見せてくるから大丈夫だフィーナ!」
「それは楽しみですね!ネリは小さく生まれたから、まだまだ時間がかかると思ってました。でも、3ヶ月で立てるなら獣化もすぐに覚えるかもしれませんね?」
「それはさすがにまだよ!私だって半年はかかったんだから!小さいネリにはもっとゆっくり大きくなってもらわないと、小さくて可愛いままのネリが良いわ♪私の妹は可愛いんだから!」
「フィーナだけの妹じゃないよ?僕や兄さんにとっても、ネリは可愛い妹だからね?」
「わかってるわ!」
なんだか兄妹ゲンカが始まってる雰囲気?
ここはひとつ私がひと泣きして場をおさめなくちゃ!
「うぅぅ、うわぁ~ん びゃぁん。」
思ったより大きな声が出て自分でも驚いたが、兄も姉も私を宥めようと必死になって変顔したり、くすぐるので、泣き声より大きな笑い声がでてしまって恥ずかしい。
「ふふっ。フィーナが小さい頃も可愛いかったけど、ネリは本当に可愛いね。ライオルと同じで母上に似たんだろうね。でも色合いはお祖父様かな?」
「そうだな、ハインツの言う通り真っ白なところは白狼の父上ゆずりだな。だが、種族はラフィと同じ豹族だろうな。尻尾が同じだから間違いないと思うが獣化するまでは分からないからな。」
「ハインツお兄さまと私が父さまと同じ狼族でライオルお兄さまとネリが母さまと同じ豹族だなんて素敵ね♪それにネリはお祖父様と同じ真っ白!本当に素敵で可愛いわ!」
どうやら私の家族のなかでも姉のフィーナが一番私を好きらしい。
なんだか楽しい家族だなぁ~
私は賑やかな家族に囲まれて、この日初めて外に出たのだった。
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