初めましてのごあいさつ
ゴールデンなウィークですなァ。
みなさま楽しんでますか?
私は部屋で読書しながらゴロゴロな予定です(笑)
困っちゃう、どうしたらいいのかな?
ハンナの後ろに隠れたまま出てこない家庭教師にわたしだけでなく、バロックも珍しく困り顔だし、なんならハンナまで困惑しているみたいだし…。
「うーん、とりあえずあの耳ってなんだと思う?ねずみ?ハムスターとか?それとも…リス!リスじゃない?」
「いゃぁ、どうでしょう?茶色いからタヌキとか?イタチやオコジョなんてのはどうですかね?」
事態が一向に進まないことから、わたしとバロックは早々に飽きてナターシャ先生の種族当て遊びを始めてしまっていた。
答えを知ってるはずのハンナは苦笑いだがまだ正解にはたどり着けていないようだ。
ハンナがドアを開けてから既に十数分は経過しており、その間ナターシャ先生はガッシリとハンナのお仕着せのエプロンを掴んだまま動きがなく、変わらず小さな耳だけがぴるぴるとせわしなくゆれている。
「もう、本当にどうしたらいいの?ねぇ、ハンナ!!」
「そうですわねぇ、先ずはごあいさつからではありませんか?ライネリアお嬢さま。」
「そうだった!」
わたしはハンナの指摘にあわててきちんと立ちポーズを決め、ドレスのスカートを指先で軽く摘むと覚えたての淑女の礼をする。
「はじめまして、リスナス辺境伯家の次女ライネリアと申します。3歳です。どうぞよろしくおねがいします。」
うん。決まった♪なかなか素晴らしいごあいさつだったんじゃない?
うれしくてついバロックとハンナにドヤ顔で視線を向けてしまう。
バロックはさすがひめさん!とニヤニヤ笑顔だし、ハンナもうんうんとうなずいてくれた。
で。
じ~っと3人でハンナの後ろの先生を待つ。
「うぐっ、聞いてない、聞いてない、こんな肉食動物だらけなんて聞いてない!!」
突然そう叫んだナターシャ先生は、その場にしゃがみ込むとバタンと倒れてしまった。
床に頭を打ち付ける前にバロックが受けとめてくれたのでケガはなさそうだが、まったく意識がなくて、そのあとはバロックが客間へと運んでベットに寝かせ、お医者さんを呼んでくれた。
お医者さんの話では緊張からくるストレスで気絶したのだろうからしばらく休ませれば大丈夫とのことだったのだが、本当に大丈夫なのかな?
その夜は結局先生は目を覚まさなくて、夕飯にご招待する予定だっただけに、シェフたち料理人がかなり残念がっていた。
「ネリ、ナターシャ先生はどうやら稀少な弱小種のようでな、王都で評判の方だと聞いてお呼びしたんだが、このまま帰っていただくことになるかもしれん。」
「え?そうなの?まだちゃんとお話もしてないのに?」
「うむ。先生のお気持ち次第だが、そうなる事もあると言う話だ。」
そうかぁ、そう言えば肉食動物だらけとか言ってたよね?
そう言われると確かに、我が家には戦闘に特化した種族が多いかも?
家族は狼と豹だし、シェフ長は虎だし、侍女頭は熊だな、執事さんは確か大蛇だったはず?
侍従やメイドや下働きには犬や猫が多いけど、草食系は本当にいないかも?
騎士たちは言わずもながみんな肉食動物だもんなぁ。
辺境伯領の領民にはもちろん農業や商業に従事する草食系種族も多いけれど、この邸は領民を護るための砦でもあるから、必然的に戦える種族の獣人が多くなってしまう。
でもまぁ、まだ3歳なわたしはまったく戦力にはならなくて、逆に護ってもらう立場だし、草食系だけどバロックはかなり強いんだよ?
熊なハンナはいざ戦えと言われれば戦えるけど、普段は穏和な優しい熊さん。
シェフも虎だなんて思えないくらいに気弱で料理することだけが生き甲斐みたいな人だし。
ちなみにもうすぐいらっしゃるお兄さまの婚約者さんはひつじだけど戦える山のひつじさんらしい。
だからわたしは種族だけで判断するのはどうかと思う。
「わたし、ちゃんとナターシャ先生とお話ししてみたい。それでダメならあきらめる。」
「そうだな。ではネリに任せよう。だが無理強いしてはいけないよ?バロック頼んだぞ。」
わたしの給仕としてそばに立っていた我が家唯一の草食系うさぎさんなバロックにとうさまが声をかける。
「御意。ひめさんの為になるなら。」
よし!がんばる。
もう一度、初めましてのご挨拶からやり直し。
どうかナターシャ先生が気絶しませんように。
読んでいただき
ありがとうございます。




