めざせ淑女な幼児!です
お待たせしております。
今日はうららかな小春日和。
私の庭ではお気に入りの桜に似た木が、薄ピンク色の花を咲かせ、小さな花壇ではスミレやパンジーに似た花も咲き始めた。
庭師さんに教わりながらバロックと一緒に植えた苗が無事に花を咲かせてくれて、本当に嬉しくなる。
私の庭は兄や姉に比べるとかなり地味なんだよなぁ~生け垣代わりのモッコウバラも良い匂いがして気に入っているけれど、大輪のバラには興味がわかないし、東屋を建てるほど広くもないし、ベンチが無くてもロロがいれば無問題♪
なので、私の庭は家族のなかで一番シンプルになっちゃったんだよね~てへっ。
それでもかなりお花も増えたし、幼児な私が走り回って遊ぶのにはピッタリのお庭になってきたと思うんだけど、バロック的にはまだ何かが足らないらしいんだよね?
まぁゆっくり整えていけば良いんじゃない?って感じ。
元が日本人でセンスが無さすぎな私には、庭作りはちょっと難しい。
なんてのんびり現実逃避しながら過ごせるのも、あと数時間……。
無事?に3才になり、祝福も受けた幼児な私は、今日から淑女をめざすべく教育が始まるらしいのです!
この国や世界の知識や教養、地理や歴史など知りたいことはいっぱいあるんだけど、いざお勉強ってなると緊張しちゃうよね。
先生とも今日初めて会うし大丈夫かなぁ?
「そろそろお時間です。いつまで現実逃避してるおつもりですか?大丈夫っすって、俺の姫さまに勝てる奴はいませんから♪」
「ちょっとまって、それはどう言う意味なのバロック?」
「……。まぁそのまんま?深く追求しないでくださいよ、説明しずらいんで…。ねぇ?」
バロックが同意を求めるようにリリとロロを見ると、2人まで意味ありげに頷いてみせる。
「もう!訳わかんない!行くわよバロック!リリとロロは取りあえず影に入っててね。」
私の言葉に腰をあげたロロと飛び立ったリリがひゅんと私の足もとに消えていく、それを見送って手を差し出したバロックのエスコートで私は庭から今日からのお勉強会場となった我が家の図書室へと向かう。
辺境伯家の図書室は王家や公爵家には劣るんだろうけれど、歴代の辺境伯とその家族が収集した本がびっしりと詰まった本棚が並ぶ2階建ての別館になっていて、1階に辺境伯家の子どもが家庭教師から学ぶための学習室があるのだが、すでに私以外の兄姉は学びが終わっているため、今日からは私専用の教室ってことになる。
母からあらかじめ聞いた内容では、家庭教師は男性と女性のふたり。
女性は一般教養やマナー、ダンス、刺繍や簡単な生活魔法を教えてくれるらしく、男性は地理や歴史、体力作り、体術、剣術なども教えてくれるという。
とは言えまだ3才になったばかりなので、無理をしない程度にのんびりやりなさいと言われてしまった。
私的には色々学びたいからワクワクもしてるし、ドキドキもしている感じ。
図書室には何度か訪れているので、本の管理をしている司書のような人たちとも顔見知りだ。
いつものように声をかけてから、奥にある学習室へと入る。
約束の時間より少し早くついたのでまだ先生は来ていない。
真ん中に3人くらいは座れそうな丸テーブルと向かい合わせにイスが2つ。
回りはぐるっと低めの本棚で囲われていて、本棚には辞書や図鑑が多く、壁には地図らしきものが数枚貼られている。
明かりとりの窓は天窓だけなので、少し薄暗い気がするが、大切な本を損なわないためだろう。
バロックがテーブルの近くのランプに灯りを付けてくれた。
図書室は火気厳禁なのでランプの光源は魔力である。
生活魔法のひとつだから私も勉強すれば自分で灯りをつけられるようになるかも?
うん!やっぱりワクワクするね♪
楽しみで落ち着かない気分で部屋を見渡していると、不意にノックの音がした。
すぐにバロックがドアに手をかけて誰何の声をかける。
「ナターシャ先生をお連れしました。」
と、聞きなれたメイド頭の声がしたのでバロックに頷いてドアを開けてもらう。
入口に立っていたのは、やはりメイド頭のハンナだったのだが、体格の良い熊獣人のメイド頭の後ろには、ぴるぴると小さな耳を震わせている誰かがいる。
その隠れている方が私の先生?なのかな?
そのまま、待つ。
ひたすら待つ。
でもなかなか先生がハンナの後ろから出てきてくれない。
私から見えているのはせわしなく動く小さな茶色い耳だけだから、何の獣人なのかも分からない。
「えっと。先生?あのぉ?う~んどうしようバロック?ハンナ?何とかしてよ?」
めざせ淑女!は早々に暗礁にのりあげたようである……。
読んでいただけて
ありがとうございます。




