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選別の儀

二話目を投稿しました。


どうやら私は死んだらしい。


ここまでは理解した。


「でもなんで死んだんだろう?事故って言ってたけど、なんか思い出せないなぁ?」


朝はまずお弁当屋さんのパートに行く。

昼まで調理補助として唐揚げや白身フライを揚げたり、きんぴらとか根菜の煮物なんかを作り、遅い昼食に賄いを食べたら仕事は終わり。

お弁当屋さんは家族経営で五十代後半のご夫婦と調理師免許取立ての息子さん。

パートは私とあと2人のご近所主婦さんが交代で働いて、私は朝の仕込みからランチタイムまで、

主婦さんたちはランチタイムから夕方の仕込みまで。

夕食タイムはお昼よりは比較的ゆったりお客さんが来るので、息子さんとご夫婦が受け持つ。

 そんな感じで私は高卒で自立してからずっと働かせてもらっていた。


 で、次は自転車で15分くらい移動して、3時から夜8時までペットショップで生体と呼ばれる仔犬や仔猫たちのお世話をしたり、掃除や品出しなんかをするのが仕事。

もふもふな動物が大好きな私には幸せな時間だったりする♪

ペットショップのオーナーさんが凄く良い人でこまめに声をかけてくれて、本当に働きやすい職場だった。


でも死んだらしいからもう働けないんだよなぁ~みんなにも会えないのかぁ


なんか、寂しいなぁ。


 お父さんやお母さん、姉の頼祢よりねちゃんは寂しくなかったのかなぁ?


『大丈夫。みんなもう生まれ変わって新しい家族と過ごしてるよ。3人とも君のことを凄く心配してた。良かったって言うのはダメなんだろうけど、君のご家族を選別したわたしが、君の選別にも参加できたのは幸運だった。』


また頭に声が響く。

不意に目の前に青く光る何かが近付いてくる。


『ちょっと移動するから動かないで。』


私はその声に小さくうなずく。

すると私ごと虹色の球体がフワッと動き始めた。

それと同時に周りのざわめきや悲鳴が遠退いていく。


『この辺で良いかな?ちょっとは静かになったから、ゆっくり話ができるね。そのまま聞いてね?君は來祢らいねだよね?』


「はい。笹山來祢です。えっと、あなたは私を知ってるんですか?」


『うん。わたしは神々の一柱で、名前は教えられないんだけど、以前に君のご家族の選別をした神のひとりだよ。ちなみにわたし以外にも何人かここに神々が同席している。君からは見えないけど、話を聞いているだけだから気にしないで。』


虹色の球体の向こう側から青い光だけでなく、幾つか別の色の光がうっすらと感じられた。


「はい、わかりました。両親と姉がお世話になりました。私までご迷惑かけてすみませんが、ひとつだけ。私の家族は今、幸せなんですよね?」


『もちろん。決まりがあって逢わせてはあげられないけど、3人ともそれぞれが幸せな新しい生を生きているから安心して。それと、迷惑かけてるのは……たぶんわたしたちの方。君はまだ死ぬ運命じゃなかったみたいなんだ。』


「へ? そうなんですか? でも死んじゃってるんですよね?」


『なんだコイツ?ずいぶんと落ち着いてるな?他の連中はギャアギャアとうるさくわめいてるのに?』


青い神さまではない感じの声がする。

黒っぽい光かな?なんか激しく点滅してる?


「すいません。なんかわめいた方が良いんでしょうか?」


『別に、じいさんやばあさんみたいに達観してんのが珍しいと思っただけだ、お前、まだ若いよな?』


本当に神さま?なんかチンピラみたいな口調だな?と思いながらも返事を返す。


「はい、26歳です、いちを。たぶん死んだ時の事が思い出せないし、実感がわかないから騒ぎようがないんじゃないかと?」


『ふぅん。なら教えてやるよ、お前はバスの運転手がおこした居眠り運転事故に巻き込まれて、バスと民家の塀に挟まって自転車ごとぺしゃんこになって死んだ。本来はお前が通り過ぎてから起こる事故だったんだが、新人の死神がタイミング間違えたみたいでなぁ、悪かった。わたしの管理不足だった。』


激しい黒っぽい点滅がちょっとゆっくりになる。

お詫びの気持ちなのかな?


「気にしないでください。新人さんなら失敗も仕方ないです。とりあえず痛い思いはしないで死んだみたいな気がしますし、ぺっちゃんこが私だけで良かったです。えっと、周りの人は皆さんバスの乗客?大丈夫なのかな?」


『えぇ、大丈夫。彼らは定められた死ぬ運命に従って事故に遭われた方たちですので、今後のことは神々の選別で決まりますからご心配なく。それで君はどうしたいですか?』


「ん? どうしたい? あれ、それは神々の選別で決まるのでは?」


 突然聞かれて、私はちょっと混乱した。

今のは青い神さまの声だけど、黒っぽい神さまも似たようなことを言ってくる。


最初に神々が魂の選別をする場だって聞いたし、私も選別されるんだよね?

 なんで「どうしたいですか」なんて聞かれたんだろう?


『すみません、君もちゃんと混乱してるんですね?落ち着いていたから失念していました。』


『さっき言っただろ、お前は間違いで死んだんだ。そう言う場合は一応、希望を聞く事ができる。ただし希望通りになるかはあくまでも選別次第だが、考慮はされる。で、生まれ変わるか? 眠るか? 消えたいか?』


 黒っぽい神さまがまた激しく点滅しだしたのを感じながら、私は考えた。


 両親も頼祢ちゃんも生まれ変わって新しい家族と幸せに生きているらしい。


 私は?


まず、消えるのはやだ!

眠る?う~んちょっと疲れたし眠るのも良いかも?それで元気になったら、新しい優しい家族と幸せになるためにまた頑張る?


『なるほど。わかりました。君の希望を極力叶えられるように選別の儀を始めましょう。神々もよろしいですね?』


青い神さまがそう言うと、私の意識は深い闇に沈むみたいにゆっくり落ちていった。

 でも、不思議と怖くはなかった。



『起きろ!選別は終わった。お前は100年眠り、次の生をお前の好きなもふもふとやらになって生きろ。次の家族は丈夫で簡単には死なんから安心しろ!眠りについている間はわたし達が護るから心配はいらん。』


『100年後に起こしますから、ゆっくり眠って疲れを癒してください。』


「はい⋯⋯ありがとうございます⋯⋯おやすみなさい⋯⋯?」


 ねむくてねむくて、何とか返事をした気がするんだけど、わからないまま私の意識は闇に引き込まれていったのだった。


『眠りましたね。良い夢を』

『あぁ。全く欲の無い魂だな、次の生はちゃんと幸せだから安心しろよ!』


そうして、虹色の球体に包まれてやわらかく光る來祢は、球体の中で懐かしい家族の夢や職場のその後を見ながら100年の眠りについた。


しかし、その後も騒がしく混乱したバスの乗客と運転手の選別は続いていた。


死ぬ運命だった彼らは選別により、数人は生まれ変わり、残りは終りが定められていない眠りにつき、そのうちの2人が静かに消滅した。


 そんなことを知る由もない私は、『來祢』の死を悼む職場の人たちの声にちょっとだけ涙したり、幼かった頃の家族との楽しかった思い出を懐かしく回想しながら、ひたすら100年眠りこけた。


『── そろそろ來祢を起こす。次の生の準備は整ってるか?』


『はい!次は絶対に間違いのないようにきちんと確認済みです!!』


『本当に大丈夫なのか?まぁ、こいつなら大丈夫だろうけどな、幸運を司る神のあの方と生命を司る神のわたしが、慈しんだ魂だからな。』


『わたしも!死神ではありますが助力いたしました!必ず次生こそは幸せに永く生きてくれるはずです!』


『待って、起こすのはわたしの役目ですよ。來祢?起きてください時が満ちました。』


『じゃあ起こすか、起きろ來祢! 次の生が始まるぞ!』


『どうか幸せに。本当にごめんなさい!!』



読んでいただけてありがとうございます。


ちょっと直しました。

誤字脱字報告ありがとうございました。(2024.5.13)

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