7.目覚めた力 その3
「ルイズ!!」
しゃがんで頭を抱えていると、叫び声とともに強い横からの力が加わり、その場から吹っ飛ばされた。何が起きたかわからないまま、片手で頭を抑えながらも起き上がると、俺がさっきいたであろう場所にクラインがいて、モンスターの牙がクラインの脇腹に食い込んでいた。
しかし、クラインはその体勢を利用して、逃げられないよう左手でモンスターを掴むと、そのまま剣を振りおろし、そのモンスターの最後の首を斬り落とした。
その場でクラインが倒れ込む。
横たわったクラインに駆け寄る。
「クライン兄さん!どうして!・・・どうして僕なんかを!!」
致命傷ではなさそうだが脇腹の傷がひどい。
これは俺の身代わりになって受けた傷だ。
「・・・ぐぅぅ、ルイズ・・・お前は覚えてないだろうけど、お前が産まれた時に・・・・お前を守るって約束したんだ」
覚えてる。あの時の事だ。まだ、産まれて間もない頃、フレイルと一緒に手を握ってくれたあの時。あんな約束をずっと覚えてくれていたなんて。
自然と目に涙が溜ってきた。
「・・・お前も男だろ、泣くな。それに俺は腹をやられただけだから大丈夫だ。だが、少しだけ休むな」
そう言うとクラインは静かに目を閉じた。
モンスターが現れてからずっと気を張っていたのだろう。
「クライン兄さん・・・」
俺なんかのために。
俺が足手まといだったために。
周りを見るとフレイルもシャルもまだ気を失っているようだった。
俺が奥に行こうなんて軽はずみに言ってしまったから・・・
しかし、反省している暇はない。
早くみんなを助けないと。
だが、今の俺は子供だ。
子供1人の力ではどう頑張っても1人ずつしか運べない。
誰から運ぶべきか?
いや、炭鉱を出てからも、また山を下りないといけないから、いっそのこと1人で戻って何人かの大人を呼んでくるべきか?
俺はどうやってみんなをここから連れ出すか、終わった後の事ばかりを考えていたのだが、その考え自体が甘かった。
「「「ぐるぅぅぅぅ・・・・!」」」
「「「ぐぅぅ!」」」
奥の暗がりから、さらなるうなり声が聞こえてきた。
しかも、さっきよりうなり声の量が多い。
ゆっくりと、暗がりから灯りのある方へ、同様のモンスターが10体程姿を現した。
やっぱりここはやつらの縄張りだったのか?
さっきの2体だけでも手こずって、みんながやっと倒してくれたところなのに・・・
俺はさっき何も出来なかった。
周りを見渡す。
3人が横たわっている。
俺だけ逃げるか?
頭の中の選択肢が囁く。
1人でも生存の可能性。
逃げるというのも1つの方法ではある。
その場で立ち上がる。
さっき助けてもらったんだ。
身体が震える。
思考も行動もばらばら。
こんな時にまだ頭が痛い・・・
痛みをこらえる度に目を閉じてしまう。
なんなんだ。
シャルの魔法を見てからだ。
考えがまとまらない。
その間にも、モンスター達はこちらににじり寄ってきている。
みんな死ぬ?
それだけは嫌だ!
でも何もできない。
何もしない?
でもみんなを守りたい!
それはずるい。
考えが全然まとまらない中、気がつくといつの間にかモンスターにまわりを囲まれていた。その円の内側には俺と倒れた3人がいる状態だ。
頭の痛みも徐々に上がっている。
一斉に飛びかかられたらもう終わり・・・
そんな時だった。
頭の中で急に声が響いてきた。
―― 守りたいのか?――
えっ!?お前は誰だ!?
いや、誰か分からないけど今は誰でもいい!
みんなを守れるのか?
―― あぁ。だがお前が後悔することになるかもしれない――
後悔?言ってることがよく分からないが・・・俺は後悔はしない。
この世界では後悔しないって決めたんだ。
―― そうか。それならば――
頭の中の声が止んだ。
聞いたことのない男の人の声だった。
「ん!!?ぐううぅぅぅっ!!!」
頭の痛みが一気にさっきの倍以上になった。
これは耐え切れない。
もう頭が割れそうだ。
あぁっ!くそっ!もういい!こんな頭なんか割れるなら割れればいい!
だが、その前にみんなを守れる力があるなら、それを今すぐ俺によこしやがれ!!!!!
その時、頭の中で何かがプツッと切れたような気がした。
それを皮切りに頭の中にイメージが洪水のように湧き起こってきた。
なんだ、これ・・・?
意味はわからないが理解はできる。
そんな奇妙な感覚。
無意識に右の手のひらをモンスターの群れに向ける。
頭の中で反芻される言葉を口に出す。
「アイシクル・・・Ω(オメガ)」
先程のシャルの魔法の何倍の威力だろうか。轟音が炭鉱に鳴り響くと無数の氷撃が円の外側にいるモンスターの群れを襲った。一瞬ですべてのモンスターが氷漬けになるとそれが全部粉々に砕け散った。
そして俺も気を失った。
後書き
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