6.目覚めた力 その2
灯りに照らされてそこに現れたのは2体の狼のような生物だった。狼のようなという表現をするのは見た目が普通ではないからだ。2体とも1つの胴体から2つの頭部が出ており、その頭部の口元から異常な大きさともいえる鋭い牙が生えている。こいつらは狼というより、もはやモンスターと呼ぶ方が正しいのかもしれない。
「クライン兄さんどうしよう・・・?」
そのモンスター達は一定の距離を取って、こちらの行動を監視するようにじっと見ている。
「さっきこいつらは何か攻撃をしてきた!もしかしたら、ここはやつらの縄張りだったのかもしれないな・・・」
「え、じゃあ私達が縄張りに踏み込んでしまったってこと?」
「分からない。でもこのまま黙って見過ごしてはくれなさそうだ」
様子を見ていた片方のモンスターが、フレイル達の方に向かって大きな口を開けて飛びかかってきた。
ガキン!
クラインがかばうように前に立って剣でモンスターの攻撃を防いだ。
さっきと同じ音。さっきの音も、クラインの剣とモンスターの牙がぶつかり合った音だったんだ。
俺から見ていても、余裕をもって攻撃を防いでいるように感じられるクラインの剣は、モンスターとあれども通用しそうではある。しかし、そのモンスターが1体ならまだしも、ここには2体いる。
少しでも何か力になれればと俺も剣を抜こうとした、が手が震えて鞘から上手く引き抜くことができない。
「ルイズ!お前は無理せずに後ろに下がっとけ!」
クラインの一言でこの調子じゃ邪魔になりそうだと感じて後ろに下がった。
緊張感が走る中、モンスターがまたもや攻撃をしかけてきた。狼のような四肢をしているだけあって動きが俊敏である。だが、それに対応するクライン。やっぱりすごい。
交互に何度か攻撃をしかけてきたが、クラインには通用しないと悟ったのか、モンスター達の動きが一時的に止まった。
クラインはそれをチャンスとみたのか、その場で息を吐き出して上体を右に捻り、身を屈ませその体勢で溜めた。ふっと最後の息を吐ききるとともに足で強く地面を蹴り出した。
クラインの得意技である疾風撃だ。
すぐに「ギャオォォ!」と悲鳴が聞こえてきた。
モンスター1体の片方の頭部に剣が突き刺さっている。
クラインはその剣をすぐに引き抜く。だが、片頭部のモンスターはまだ動いている。
どうやら頭部を両方破壊しないとだめらしい。
しかも、モンスター達が2体同時に攻撃を繰り出すようになってきたので、さすがのクラインといえども防戦一方になってきた。
その様子を見ていたシャルが俺の隣で口を開いた。
「フレイル、ルイズ君。このままじゃまずいから私が扱える中でも高位の魔法をぶつけるわ。でもこの魔法を撃つと今の私じゃ魔力が空になって倒れるかもしれないからその時はお願いね!」
フレイルはこくんとうなずいた。
シャルはその場で目を閉じ、杖を握り自分の前に差し出した。
「青き水の精霊よ。我が誓約に基づき・・・」
しかし、クラインが1体の攻撃をさばいている間に、もう一体がまるでそれを見計らっていたかのようにクラインの脇を抜けシャルに襲いかかろうとした。
シャルは目を閉じて集中している。
「シャル!危ない!」
俺の横にいたフレイルが飛び出してシャルを押し出した。
代わりにモンスターの体当たりを喰らう形になったフレイルはその衝撃で後ろの岩に叩きつけられた。
「えっ・・・!?フレイル!!」
フレイルに押し出されたシャルも体勢を立て直しすぐにフレイルの元に近づいた。
俺も駆け寄る。
良かった!気を失っているが息はあるようだ。
「・・・・・・フレイルに何するのよ!!」
シャルは立ち上がりモンスターの方を向いた。
怒りの表情を向けている。
「青き水の精霊よ。我が誓約に基づき、この魔力を今御身に捧げん!」
シャルが杖を上に掲げると、その杖から青い光が放たれた。その光が消えるやいなや頭上の空間に、白い霧状の冷気のようなものが出てきたかと思えば、それがどんどんと凝固化されていき、あっという間に先端が尖っている氷塊が5つ作り出された。
何もないところからこんなものが!
まわりの温度も下がっているのか寒気がしてきた。
はじめてみる。これが魔法の力・・・!
掲げていた杖をモンスターに向かって振り下ろす。
「氷槍で貫け!アイシクルγ(ガンマ)!」
5つの氷塊はそれに呼応するように急速にモンスターに向かっていった。
その氷塊が見事1体の胴体と頭2つに突き刺さるとそのモンスターはその場に倒れ動かなくなった。
だが、片方の頭をなくしているもう1体は上手く避けたようだった。
「2体とも仕留めようと思ったのに・・・」
シャルはその場に倒れ込んだ。
さっき自身で言っていた魔力を消費してしまったからか、一時的に気を失っているだけのようである。
だが、残すは手負いの1体のみ。
今はクラインと対峙している。
このままじゃ本当に役立たずだ。何でもいい、俺にも何かできることはないかと考えながら様子を見ていたが、急に立っていられないほどの頭痛が襲ってきた。両手で頭を抱えてしゃがみこむ。
なんだ、一体・・・こんな時に・・・!?