加齢臭の香水
一人の男がインタビューに応じている。彼の体からは強烈な加齢臭が漂っているが、誰も気にしていないようだ。
「私は、なぜ人は年を取ると加齢臭を発するようになるのか若いころから疑問に思っていました。『なぜ』というのは皮脂成分の酸化といったメカニズムの話ではありません。私は加齢臭そのものにも何らかの存在意義があるのではないかと考えていたのです」
「ようやく答えを見つけたのは三年前のことでした。ヒントとなったのは自然界の嫌われ者、カメムシです。彼らは悪臭を放つことで有名ですが、それは捕食者への防御のためだとされています。加齢臭も同じなのです。では、年老いた人間の天敵とは何か……そう、死神です」
「当時、同僚たちは私をバカにするもの、正気を疑うものばかり。ついには研究室を追い出されることになりました。ですが、私には真実にたどり着いたという確信がありました。加齢臭の主成分を抽出、濃縮し、ついに香水を完成させたのです」
「医者に匙を投げられた余命間近の病人たちに接触し、かれらに無償で香水を提供しました。結果はご存じの通り、末期患者たちが嘘のように健康になり、今でも彼らはわが社の社員として元気に働いてくれています。現在、化粧品メーカーではトップの売り上げを誇っていますが、ゆくゆくは医療品として認可されるよう申請を続けていく予定です」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数年後。
「社長! 昨日より、さらにクレームが増えています! 香水の効果が全く表れず、そのまま病気が悪化、死亡するケースが相次いでいます!」
「わかっている! くそっ! どうしてこんなことに!!」
興奮して血圧があがった男は、ふらふらとよろめく。
「……俺は……大丈夫だ……市販品よりさらに強力な10000倍加齢臭の香水なんだぞ……絶対に死神は……近寄ることが……できない……はずなの……に……」
ばたりと無様に倒れる男。耳障りな鼻声がどこからともなく響いた。
「おばえは、しにがびをなべすぎたんだよ」




