宴会で気絶
左門は次第に頭がぼんやりとしてきた。
(あれ?)
左門の視界がぼやけてきた。そして、そのまま意識を失ってしまった。
「おい、大丈夫か?」
左門は誰かの声を聞いたような気がしたが、それが誰のものなのか分からなかった。気が付くと、左門は自分の部屋にいた。どうやら布団の上に寝ているようだ。
「ここは……」
左門は小さくつぶやいた。
「確か、宴会をしていたはずなのに」
「目が覚めたか?」
左門が体を起こすと、部屋の隅にいた人物が声を掛けてきた。左門はそちらを見た。
「あなたは?」
左門は戸惑いの表情を浮かべた。
「俺は、佐助だ」
「佐助さんですか」
左門はその名前をつぶやくように繰り返した。
「覚えました。よろしくお願いしますね」
「おう、こちらこそな」
佐助は満足げに微笑んだ。左門は改めて相手の姿を眺めた。背丈はかなり高いようだ。百八十センチ近くあるだろうと思われた。体格もよく引き締まっているようであった。年齢は二十代後半くらいだろうか、精力的な感じの男性だった。服装は着物姿である。しかし、どこか違和感があった。着慣れていないせいか、妙にちぐはぐに見えるのだ。まるで借り物でもしているかのように思えた。髪形も同じだ。肩まで伸びた髪を後ろで一つにまとめているだけだ。そのため、全体的に野暮ったく見えたのであろう。
「えっと……」
左門は戸惑っている様子だ。
「某を助けてくれたんですね?」
「ああ、そうだ」
佐助と名乗った男はうなずいた。
「急に倒れるもんで驚いたぜ」
「そうですか。ありがとうございます」
左門は礼を言った。だが、すぐに不思議そうな顔になった。
「ところで、どうして僕はここで眠っていたんでしょうか? それに、なぜ僕の部屋にいるんですか?」
「いやぁ、それはな」
佐助は頭を掻いている。
「実は、あんたが倒れちまった後、ここへ運び込むことにしたんだ」
「なるほど」
左門は納得したように何度もうなずいていた。
「それで、どうしてあなたの部屋に?」
「ああ、それはな」
佐助は少し困り顔をした。
「その前に聞きたいことがあるんだけどさ。お前さん、名前は何ていうんだ?」
「名前?」
左門は首を傾げた。
「林田ですけど」
「違うってば」
佐助は苦笑した。
「下の名前だよ」
「ああ、そういうことですか」
左門は得心すると、自分の名前を告げた。
「左門といいます」
「そうか」
佐助はうなずいた。
「じゃあ、左門。ちょっとこっちに来てくれないか?」
「いいですよ」
左門は立ち上がって相手の側に移動した。
「何か用ですか?」
「うん」
佐助は真剣な眼差しを向けてきた。
「単刀直入に聞くぞ」
「はい」
「お前、あの宴会に参加してないよな?」
「えっ!?」
左門は驚いて目を丸くしていた。
「どういう意味ですか?」
「つまりさ」
佐助はため息をついた。
「俺には分かるんだよ。なんとなくだけどな」
「……よく分かりませんが」
左門は困惑気味に答えた。
「もしかすると、酔っぱらって幻覚を見ていたんじゃありませんか?」
「まあ、そうかもしれねえな」
佐助はあっさりとうなずいた。
「ただ、お前がここにいる以上、俺が見たことは事実だと思うわけだ」
「そうですね」
左門は同意してみせた。
「確かに某は宴会に参加していませんでしたから」
「やっぱりか!」
佐助は嬉しそうに大声を上げた。
「いや、良かった!これで安心できるってもんだぜ」
「えっと……もしかして、あなたは某が嘘をつくと思ってたんですか?」
左門が尋ねると、佐助は照れくさそうに笑い出した。
「悪いな。俺にも色々と事情があってさ。つい疑っちゃったんだよ」
「はぁ」
左門は曖昧な返事をした。