仕官
左門は大名家に仕官することもあった。
「ふむ……。ところで、そちの家はどこかの大名に仕えておるのか? それとも浪人か?」
「いえ、家には仕えておりません」
「そうか。ならば、我が家臣になれ」
「え? よろしいのですか?」
「ああ、もちろんだ。そちのような腕利きの剣士は歓迎だ」
「ありがとうございます!」
「殿、この男は一体何者でございましょうか?」
側近の一人が尋ねた。
「さあ、分からぬ」
「この男、只者ではないような気がするのですが」
「確かにそうだが、まあいいだろ。それより、あの男が欲しくなった」
「欲しいとは?」
「あれほどの使い手が無名なのは惜しいではないか。それに、何だか面白い奴だしな」
左門は領内の整備を行った。
「何か問題はないですか?」
「今のところは特にないな」
「そうですか」
「ただ、一つ問題があるとすれば、領民たちがあまり税を納めてくれないことだな」
「確かにそうですね」
この時代では、領主に対して税金を払う義務がある。ところが、農民たちは納税を拒否したり、納めなかったりした。そのため、左門は困っていた。
「どういたしましょうか?」
一人が尋ねた。
「うーん……。そうだな……、とりあえず、今年は様子を見よう」
「様子見ですか?」
「ああ、そうだ。それで駄目なら、また考えればいいだろう」
「分かりました」
左門の仕官は長続きしなかった。左門には主君を選ぶ戦国時代の気風を持っていた。その根底には有馬家から切り捨てられた不信感があった。
「士は己を知る者のために死す」
これは封建的な忠義の言葉と扱われるが、逆に言えば自分の真価を認めてない人のためには働かないということである。
左門には自分の実力を試してみたいという欲求もあった。そのため、仕官した大名家が気に入らない場合はすぐに出奔してしまったのだ。そのようなことを何度も繰り返した。
左門は別の家に仕官した。
「おお、左門ではないか。よく来てくれたな」
「お久しゅうございます」
「うむ。ところで、お主の身分だが、武家ということにしておいた」
「武家ですか?」
「そうだ」
「それはありがたいことですが、よろしいのでしょうか」
「かまわぬ」
「そうですか」
「それと、お主には剣術を教えてもらう」
「私がですか?」
「そうだ」
「どうしてです?」
「お主なら、できるはずだ」
「そうですか……私は、まだ未熟者なのですが」
「大丈夫だ。わしも若い頃はよく失敗をしたものだ」
「そうなんですか?」
「ああ、だから心配はいらんぞ」
「わかりました」
左門は剣術を教えることになった。左門は、自分が学んだことの中から、実戦的な技術を伝授することにした。
「いいですか。まず、木剣を持って、素振りをしてください。そして、相手の動きをよく見て、相手の動きに合わせて動いてください。相手が攻撃してきたら、防御するのです。それから、隙ができたところに反撃します。このようにすれば、相手を倒すことができます」
「なるほど」
「それから、毎日、稽古をしてください」
「わかった」
左門が教えたのは、あくまでも基本的な技術だけだった。