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冨田勢源

林田左門は武者修行の旅を続け、越前国に至る。越前国では雪の深さに驚いた。九州でも雪は降ったが、越前の雪は音を立てて舞った。

「すごいなぁ」

左門は感動した。

「これが雪国か」

左門は感心して歩き続けた。


「あれ? ここはどこだろう?」

見覚えのない場所に来ていた。辺り一面真っ暗である。

「おかしいな……。迷ったぞ」


「わあ」

歩きながら、ふいに左門は声をあげた。竹藪の向こうに小ぢんまりとした庵がある。軒先には小さな瓢箪の形をした風鈴がぶら下がり涼しげな音をたてていた。

「あの庵は?」

「あれかい? あれは……」

左門の声を聞きつけて冨田五郎右衛門尉勢源とだせいげんが出てきた。勢源は冨田流の創始者である。冨田流は後に戸田流と称されることになる。勢源自身は中条流の継承者と位置付けていた。イエス・キリストが自身をキリスト教徒、仏陀が自身を仏教徒と位置付けていないことと重なる。中条流は鎌倉の僧慈音が創始者である。中条兵庫助長秀が相伝を受けて中条流を称した。

「この先にある庵じゃよ」

「ほう」

庵に近づくと左門の顔つきが変わった。目がきらりと光り口元には笑みを浮かべている。どうやら好奇心がくすぐられたらしい。庵の中に入ると床の間に掛け軸がかけられており、山水花鳥図が描かれている。

「これは見事なものだねェ」


左門は勢源に身の上を話した。

「お主が越前へ来た理由が分かった気がする。どう考えても有馬家に仕える道はないからのう」

「そうじゃろうな。有馬家にしがみついても最下層の下っ端として扱われるに違いない。それで旅をしたのか」

「まあ、そういうわけだ」

「ところで、お主は何を食っていたんだ? やはり米か?」

「うん。飯を炊いたものを塩水に浸して食うことが多かったようだ。ときには麦も混じったようだが、たいていは雑穀だな」

「そんなものばかり食べていてよく身体が持つものだ」

「それが不思議でしょうがないよ。とにかく、ひもじくて仕方がなかった。だから、どんなものでもいいから食いたいと思ったのだろうな」


左門は腕を組んだまま何度も首を振った。それから急に立ち上がって言った。

「よし。決めたぞ。おれはこれから、お前の弟子になろう」

「えっ?」

これにはさすがに驚いたらしく、勢源は目を丸くしている。

「いや、本当だよ。嘘じゃない」

「しかし……」

「但し、槍働きはできない。弓矢も下手糞ときている。できるのは剣だけだ。それでもよいか?」

「それは別にかまわんが……」

「あと、料理もできるし洗濯だって得意だ。掃除も嫌いではない。何しろ、生まれつき手先が器用で何でもうまくこなすことができるのだ。こんな弟子はめったにいないぜ」

「それは、まあ……」

「どうだ? これでも文句があるか?」

左門は畳みかけるように言う。

「ない。文句はない」

勢いに押されるように勢源は答えた。こうして左門は勢源に弟子入りすることになった。勢源は左門を自分の屋敷に連れて帰った。左門はそこで修行を積んだ。


「よし、今日からは実戦形式の訓練を行うぞ」

「はい!よろしくお願いします」

「初めに、お前の実力を見たいと思う。そこで、模擬戦をやろう」

「わかりました」

「それじゃあ、始めるか」

「はい!」

左門は勢源さんと向かい合った。そして戦いが開始した。

「行くぜぇ!!オラァッ!!!」

勢源の拳が迫ってくる。それをギリギリで避けてから反撃をする。しかし、簡単に受け止められてしまった。

「まだまだ甘いぜ!こんなんじゃ、すぐに死んじまうぞ?」

左門は必死になって戦った。だが、全く歯が立たなかった。

「はあ、はあ……。くそぉー!全然勝てないじゃないか!」

「当たり前だ!普通に考えて儂に勝つのは不可能だ!」

「そんなことわかってるよ!」

左門は勢源から気合を掛けて一瞬動きを鈍らせ、一撃で倒す技を会得した。


左門は小太刀を得意とした。これは中条流や戸田流の主流に沿ったものである。勢源は美濃国を訪れた際、梅津力助から試合を挑まれたことがあった。力助は常陸国鹿島出身の神道流の達人で、美濃国の戦国大名・一色治部太輔義龍(斎藤義龍)の兵法指南役であった。勢源は一尺三寸(約三九センチ米)の薪を得物として力助を一撃で倒した。



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