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黒田長政

黒田長政は左門と根性論者の対決の話を聞くと、根性論者を呼び出した。

「その方は、左門と木刀仕合をして負けたということだが、果してその通りか」

「御意の通りでございます」

「若い者にはその位の勇気がなくてはならぬ。左門であろうとも、打ち込んでやろうという勇気は感心なものだ」

長政は称賛した。

「林田左門は世間に知られた兵法の名人であり、負けたことは恥ではない。これから左門の弟子となって兵法剣道を学ぶが良い」

根性論者は長政の有難い言葉に涙をこぼした。すぐに左門のところに行き、子弟の契約をなし、昼夜勉励したところ、剣術の上手になった。

「あの時、殿様のお言葉を頂戴しなかったら、わしは今頃どうなっていたことか……」

根性論者はしみじみと語った。

「なるほど、そういうことがあったのか」

左門はうなずきながら言った。

「あの時は申し訳ありませんでした」

「何を謝るのだ?」

「いえ、兵法者の風上にも置けぬような醜態をお見せしたことを恥じております」

「そんなことか。気にすることはない。敵を知り己を知れば百戦危うからずと言うではないか」

「全く仰せの通りです」

「敵のことはよく調べているのか」

「いえ、あまり……」

「ではまず敵を知らねばならぬぞ」

「はい、肝に命じました」

「ならばよし」


「ところで先生、今夜お暇でしょうか」

「別に用事はないが……何の話があるのだ」

「実は、某の家内の実家から、ぜひ一度お越し願いたいと申しておりまして」

「結構じゃないか。お伺いしましょう」

「ありがとう存じまする」

根性論者は深々と頭を下げた。


左門は根性論者に連れられて、彼の実家に行った。

「お待ち申し上げておりました」

「これはご丁寧に」

左門は恐縮して挨拶した。

「さあ、こちらへお上がり下さい」

「はい、失礼いたします」

「お酒をお持ちしました」

「おお、かたじけない」

「お料理もご用意致しましてあるので」

「恐れ入ります」

「では、ごゆっくりなされませ」

「はあ」

「お風呂も沸いておりまするゆえ」

「それはありがたい」

左門は根性論者の両親に勧められて、酒を飲み、食事をし、風呂に入った。そして床についたが、なかなか寝つかれなかった。

(はて、何か変な感じがする)

左門は起き上がって廊下に出た。

「あら、どちらに行かれますの?」

女中が声を掛けて来た。

「ちょっと散歩をしてくるよ」

「こんな真夜中にですか」

「そうだよ」

「危のうございますわ」

「大丈夫だ。心配ない」

左門が庭に降りると、月の光が冴えて辺りは明るかった。

(なるほど、満月の夜か。これならば安心だ)

左門はほっとして歩き出した。しばらく行くと、前方にぼんやりと灯が見えた。左門はその光の方に向かって行った。やがて、大きな屋敷が見えてきた。その前に根性論者の両親が立っていた。

「あれ、どうしてここにいるのだい」

左門は驚いて尋ねた。

「実は、先生をここに連れて来るようにと頼まれたので」

「誰に頼まれたのかね」

「はい、この家の主人でございます」

これが左門と栗山大膳の出会いとなった。


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