黒田藩の評定
黒田藩では評定が開かれた。左門は、黒田藩の面々の前で、ありのまま話した。
「それはまことの話であるか」
「はい。事実でございます」
「ならば、何故、生かしたままにした者もいるのか」
「それが武士の情けというものです」
「何だと! 武士の情けとはどういうことだ!」
「武士たる者は、たとえ敵であっても命を奪うべきではないのです」
「何を申すか。そんなものは言い訳だ」
「いいえ、そうではありません。ただ敵を殺せば良いというものではないのです」
「左門殿、お主は一体、何を言いたいのだ」
「はっ、つまり、相手が死を恐れずに襲ってくるような場合には、こちらも死にものぐるいで戦わねばなりません。しかし、こちらの命が危うければ、むざむざ殺されることはありません。それに、もし相手の命を奪ったとしても、その者の家族に恨まれては困ります。だから、なるべくなら殺したくはないのです」
「左門殿、それこそ甘さであるぞ。戦場においてそのような甘い考えなど通用せん。そもそも、お主には何の責任もないではないか。それなのに、なぜ、その者を庇おうとするのだ。その者が人を殺したのは、その者に責任があるからだ。その者が死んだところで誰も悲しまぬであろう。その者が死んでも、その家族の恨みを買うだけだ。それくらいのこと、わからぬはずはあるまい」
左門は、この言葉を聞いて、怒りに震えていた。そして、こう言った。
「あなた様は、自分の息子や娘が殺されても、同じことが言えるのですか。親兄弟、妻や夫、子供などが殺されたらどう思うのでしょうか。それを想像してみてください。あなた様にも、そういう経験はございましょう。あなた様には、他人の気持ちを考えるという心がないのですか。それとも、あなたの頭の中には、人の血が流れていないのではないですか。それでよくも、人に説教ができましたね。恥を知りなさい。それでも武士ですか。私はもう我慢できませぬ。失礼します。これにて御免」
左門は怒って部屋を出ていった。
「あの男は、まるで狂犬のような男じゃのう。いずれ災いになるかもしれんなあ。ま、わしには関係ないことだが」
左門と親しい林田利吉は、左門を評価した。
「お前はよくやった。あいつらは、きっと地獄に行っただろう。天罰だよ。でも、これでよかったんだ」
「ありがとうございます。利吉殿のお言葉に救われます」
「左門、これからは、一人で行動するんじゃないぞ。私と一緒に行動しよう」
「わかりました」
こうして二人は、二人で組んで動くことが多くなった。
黒田藩では改めて評定が開かれた。
「左門殿、お主の考えはわかった。しかし、お主のやり方では、敵だけでなく味方まで危険にさらされることになるぞ。それはいかがかと思うのだが」
評定に参加していた家老の一人が言った。
「はい。それは承知しております。ですから、今後は、決して一人だけで戦うことは致しません」
「うむ。それがよい」




