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狙われたシアン

あかりと昨晩キスした夜の後、俺達は晴れてカップルとなった。翌朝皆にその事を告げると…


「やっとかよ!」


「遅いよ禅内君!」

などと、須上と相田に言われてしまい正直面食らってしまった俺。


あかりを含めその場にいるシアン、そして全員が可笑しそうに笑い続けていたがシアンの雰囲気には少し違和感があった。


「あーあ、とうとうあかりに仁を取られちゃったな…でもまあ人間同士の方がやっぱり良いもの!

私のことは普段通りで良いから気にしないで?それよりも早く青島に行きましょ。」

どこか気持ちがぐらついているのか、笑顔もぎこちない……そりゃそうだ、シアンは俺も大好きだしシアンも俺の事が大好きなのだから。


ただ、知ってしまった。あかりと抱き合った時のあの暖かさや、喜んでいたあの顔を思い出すとあかりも本気で俺の事を好きでいてくれたんだと…


俺はシアンに向けて何かを言いかけようとしたが、おっさんがさりげなくそれを止める。


「禅内、今は思うところがあるかも知れないが下手に気を使おうとするんじゃねぇ。そっとしといてやりな?」


「おっさん……ありがとよ。」

そばに理解してくれる人がいて止めてくれるのは、こんなに嬉しいものなんだなと俺は素直に感じた。


「……」


シアンは俺の雰囲気が過去よりも更に良くなったのを見て寂しいと切なさ、それに愛しさにも似た気持ちになるが、その気持ちは心の奥にしまうことにした。

ずっと分かっていた事だし、そうなってほしいと考えてもいたから。


けれど……


「嬉しいけどやっぱ悔しいな?私が人間だったらあかりの何倍も仁に甘えて抱きついて、キスもして……一緒にお風呂とか入ってイチャイチャしたい!」

彼女は少しみんなと離れた場所で、誰にも聞こえないよう呟いた。



シアンがそんな表情をしないよう努めていると、なんとフロットが近づいてきた。


「シアン、僕を含めて皆君の事が好きなんだ。中でも禅内仁とあかりは君の事が大好きなんだよ?だから、ショックはあっても側から離れないでくれるよね?」


「フロット……ありがとう。流石に仁からそれを言われていたらひどく取り乱していたかもね?だから、少しお願いがあるの」


「もちろん、僕にできることなら。」


「うん。時間がある時で良いから愚痴に付き合ってくれない?」


「……ははっ!あははは‼︎」


全員「?」

フロットらしからぬ溢れるばかりの大きな笑い声が、部屋中にこだました!


「ちょっと!なんでそんな笑ってんの‼︎」

シアンは思わずプリプリ怒りだす。


「あははは‼︎…ご、ごめんごめん。一瞬君も[誰かさん]と全く同じ台詞を口にだすもんだから、懐かしくなって思わず!ははははは‼︎」


「んもぅ!誰かさんとは誰よ、誰かさんとはー!」


シアンがポコポコパンチをフロットに向けて繰り返していく姿を見た禅内は物珍しさもあり一瞬戸惑った様子だったが、元の明るさに戻った気がして少し安心したようだ。


(ありがとな、フロット!)


(誰かさんって絶対私の事よね?フロット~⁉︎)

ただ一人、あかりだけはフロットの言う[誰かさん]が自身の事だと知り、恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。



楽しいやり取りがしばらく続いた後で、俺達は旅館の女将さんに今夜中に帰ることを告げた。

真矢達の剣道試合を考慮して早めに帰り、練習を本格的にしたいとの事。


実質一泊二日になってしまったが女将さんも了承してくれた為、割とスムーズに荷物の管理を含めて手続きが完了したので全員がお礼を言って出発する。

下に降りた際、ミカ達が今朝もかき氷作りの準備をしていたのが見えたので、バスを待つ間全員で自己紹介した。


「うはぁ…禅内さんこんなに大勢の人と来てくれていたのか!思ってた以上にあんた人脈あるんだな?

俺もそんくらい他人と接していれば、あんたみたいに後ろのかわいい娘達を連れて歩けるようになれるんだろうか?」


「廉も過去の付き合い下手の事なんかをいつまでも引きずり過ぎるなよ…皆さん、良かったらバスが来るまでかき氷でも食べていきません?」


「って、おい俊⁉︎」

廉のやつ、完全に遊ばれるようになったな?まあ見てて楽しいけどよ!


ところで、ミカと凱はなんでさっきからお互い間隔を開けて赤面してんだ?


「えっと、後ろのあいつらはどうしたんだ?」


「「((あー…しちゃったか))」」

真矢と幹太だけはその様子を見て心当たりがあるのか、禅内仁の後ろから密かに同類を見る目で納得していた。


「別に気にしないで良い。俺達にあのリア充共の事なんか聞くのはよしてくれ?それよりも買うんなら早くしなよ!後ろにいる客達が並び始めてっから、こっちは忙しくなるんだからよ‼︎」

若干苛ついてるな廉のやつ。まあ深い事情は聞かないほうが良いし、さっさと買って食うか!


皆とそれぞれかき氷を注文し、売店から少し避けた場所で食べているんだが、朝から食べるのもなかなか良い刺激にはなった!


その後少し経ってからバスが到着し、みんなで乗り込んでいく。バス窓の向こうから廉と俊、そして凱とミカもまだ赤面しながらだが手を振って見送ってくれていた。


「湖山池行くの楽しみだね?リオーネ!」


「ふふ…そうね佳与。どんな所かな!」


「僕達もー!」


「楽しみー!」

佳与とリオーネ、ネレとエレは本当に楽しそうだな?俺もあかりと一緒の席に座っているんだが、目の前で起きている見慣れない光景を、俺は目の当たりにした!


なんと、シアンがフロットと至近距離でくっついて会話をしていたのだ!


「ねぇフロット。前から思ってたんだけど、あなたの物理攻撃ってどうやって身についたの?」


「特に変わった事はして来なかったさ。ただひたすらに物に八つ当たりして過ごしてるうちに、自然と身についただけ!多分シアンもできるようになるかもね?」


「よぉし、降りたら壊れても良い所を見つけて殴りつけてみる!」


「「怖いわ!」」

俺とフロット、二人のツッコミが間髪いれずに入った。


「良いじゃない!仁にフロット。今の私は属性持ってないわけなんだし、いざ身を守る為に必要な事くらいさせてよ?」


「シアンなりに現状を考えての行動だって事はよくわかるが、シアンも女の子だしいきなり殴るのは無理があるよな?」


「うっ⁉︎」


「そうね……あ!そうだ仁君、ちょっと相談があるんだけど。」


「なんだ?あかり」

あかりはシアンをしばらく真顔でじっと見て、シアンもあかりの事をしばし見つめると何を言おうとしたのかが分かったらしい。


「あ、あかり?無理にここでお願いしなくとも…」

戸惑うシアン…俺もおおよその見当はついていたから平静を装いつつ、二人の様子を静かに見ていた。


「ダメよシアン。伝えるべき時に伝える大切さを一番先に訴えてくれたのはあなたじゃない!だから、ちゃんと伝えなきゃ後悔するわよ?さあほら‼︎」


「う、うん……あ!あのね、仁に聞いて欲しい事があるんだけど。」


「おう、なんだ?シアン」


「わ、私の雷属性の力を少し返して欲しいんだ!どうやって受け取れば良いか正直私も分からないけど。」

そう言ってくれると思ってたぜ!


「言われるまでもねぇよ!これはもともとお前自身の力なんだし、俺が持ち続けていたって使いきれないだろ?

だから必ず返してやる。」


「うん…ありがと仁!」

とても嬉しそうな笑顔を向けてくるシアンを見た俺は、あかりに感謝の気持ちを込めてその片手を軽く握る。


「!(エヘヘヘ…)」

そんな和やかなひとときをバスの中で過ごしつつ、目的地の湖山池に着いた俺達は青い歩道橋の先に見える小さい島のような場所が見えて来た。


「あれが青島か…」

俺達が橋の上から見たその姿は、池と呼ぶにはあまりにも広すぎた。

その池の中から、こちらを見よと言わんばかりに佇んでいた小山が見える。


小山の周辺は誰もが散策できるくらいの広さがある地面が見え、所々キャンプテントが存在していた。


「すごぉい‼︎ねぇ、リオーネにネレとエレ。早く行こう?お姉ちゃん達も早く~‼︎」


「ほらほら、走ったら危ないわよ佳与!」


「やっぱ子供は元気だな。俺達も行こうぜ?真矢」


「んもう……ふふ!そうね幹太。お父さん達も早く行こっ?」

犬吹一家と幹太。リオーネ達は意気揚々と橋の向こう側に歩みを進めた。


「俺達も行くか。あかり、須上、相田!」


「おう」


「「ええ」」

残った俺達もゆっくり橋を歩きながらふと考える。何故、ここまででかい池があるのかと…


その答えが分かったのは、全員で存分にその島の散策を堪能した後に来た道を戻る際、休憩中だったボートのそばにいたおじさん達から聞いた時だ。


「あー、湖山池の由来はな?その昔傲慢な性格の百姓が近辺の百姓達の持つ畑より、沢山の畑用土地を得る為開拓しすぎたんだそうだ!

その結果、小山の周り一体を全て田んぼ畑に変えたせいで大雨の時期が訪れた際、水がある場所を中心に埋没してしまったんだと。」


「ええ⁉︎」

俺達全員が揃って大きく驚くのを見た船場のおじさんは、上機嫌になって話の続きをしてきた。


「はははは‼︎良い反応するがな。その事があってこの湖山池が出来たと言い伝えられてるんだよ!

最も、その傲慢な百姓は当然村八分にあってどこかでのたれ死んだんだろうけどな?」


「ねぇ仁兄ちゃん、[ムラハチブ]って何?」


「ん?そうだな。早い話が仲間外れにされて締め出される事だ。佳与もその気持ちは、よく分かるだろ?」


「うん、すごく分かるよ…一緒にいたいのにみんながそれを許さないなんて、これほど悲しくて苦しいものは無いんじゃないかなって思ってた。」


「佳与……」


「…そこのお嬢ちゃんが言う通り、この国はどうしても仲間と思って群れたとしても、少し見た目や考えが違うだけで簡単に弾き出されてしまう!

だがな?こんな無茶苦茶な社会で生き残る為に本当に必要なのは高い望みでもなく、集団にだけ溶け込む生き方なんかじゃない。

自分にできることを毎日続けたり、信じられる相手と共に歩む事だ!そうすりゃ大抵のつらい事も少しは平気になる。」

すげぇなこの船場のおじさん。とても説得力のある言葉を言ってくれるぜ!


「あ、ありがとう…ございます!」

佳与も深々と頭を下げてお礼を言ったので、あのおじさんは片手を軽く上げて後ろ姿を見せながら去って行った。


毎日自分にできることを続ける事、信じられる相手と共に歩む事…か。

俺自身にとっても、おじさんのさっきの言葉に心を揺さぶられた気がした。


先程聞いたおじさんの言葉をそれぞれが心に留めながら、帰りのバスを使って俺達は一旦旅館へと戻る。

旅館の女将さんに預かってもらっていた荷物を各自準備してから、皆揃って旅館を後にするのであった。


「女将さんすいませんね?俺達も本当なら明日の朝に帰る予定だったんですが、娘達が早く帰ってしたい稽古があると今朝こっそり言ってきたもんですから。」

おっさん、今朝俺達と一旦離れてどこかに行ってたみたいだったが、真矢達がそう言ってたから一日早く戻るって会話になったんだな?なら納得だ。


「いえいえお構いなく!私どもとしても前回泊まってくださった禅内様のお陰で、こうして団体客様をおもてなしできたのですから感謝しております。」


「だってさ!良かったね仁!また誰かの為になれたじゃない。」


「本当だな!(…ん?なんだろうか、体の内側からまた一段と力が高まってくるかのような不思議な感覚がする!

もしや、俺のステータスに変化が現れ始めたのか?)」


俺は帰る間にでも、ステータス確認をしてみようと心の内で呟いた。


女将さんと別れを済ませた俺達はリフトを使って降下し、廉達やミカ…彼らのガイダーにも別れの挨拶をしたんだが、あまりにも早い帰りなので当然驚かれた!


「マジかよ禅内さん!もう帰るなんて流石に早すぎだろ⁉︎」


「そうですよ!せっかく私の知ってる穴場スポット…多鯰ヶ(たねがいけ)のボート乗り場を見せたかったのに‼︎」


「おいおいやめとけミカ!あそこは[白蛇伝説]ってのがあるんだろ?恋人同士で行っていい場所じゃないだろうが!

せいぜい今あそこで人気なのは、梨収穫の体験ができるかもって噂くらいだろ?」

なんかいわくつきな雰囲気の話しも聞こえたな?とても散歩を楽しむコースにはならない気がする。


「ありがとよミカ、それに凱!後ろの廉と俊達も良かったら秋葉原にみんなで来てくれ。俺達の分かる範囲で良ければ案内するからよ?」


「「ぜひ頼んます!」」

((女にモテてぇ~⁉︎))


「ははは…」


「しょうがねぇなこいつらも。」

レイは呆れ笑いをし、カインもケラケラ笑い飛ばしていた。


俺達は麒麟バスが間もなく来るであろうまで、今ここにいるメンバーで鳥取に来るまでのやりとりや、後ろにいる日笠と相沢の事に関して盛り上がったり心配されたりもした。


心配というのは、小人討伐団に戦いを仕掛けるという内容に関してだ。


「下手したら国と戦う……そんなスケールの大きいことに、俺達じゃ首突っ込む真似はできねぇよ。」

廉の言葉は後ろにいるミカ達にも伝わり、やや重たい空気になる。


「…そうだよな。俺達もお前らを危険な場所に無理に連れて行きたくはないから気にしないでくれ!じゃ、またいつか会おうぜ!」


「仁さん!あの…」


「ミカ……」

レイはミカの思い詰めた顔を見てつめて、苦しそうな顔をしている。


「元気でな?幸せになれよ」


「⁉︎」

俺達は辛そうな顔を上げて見返してくる彼女に[心配するな]といった顔で見つめる。彼女達から見たら、無謀な事なんじゃと思われて当然だろう。


だが、俺は大人しくやられたくなんかない。抵抗できる事は迷わず抵抗する!それが俺の今できる精一杯だし、何よりこうして仲間や友が側にいてくれる。


だから、俺は恐れない…


「これで良いのよね?仁」

麒麟バスに揺られて空港まで行く最中、俺の肩に座っていたシアンがそう問いかけてきた。


「そうだな…下手に無理して誘っても誰だって命が惜しいんだ。簡単に自分もやるなんて言葉は言えねぇ」


「そうよね仁君。今はとにかく東京に戻って、一人でも頼れる人を当たりましょう!私もエージェントの皆も各自で誰かに声をかけてみるから!」

対象の相手側が何人で迎え撃つことになるのか、想像すらできない。


だが俺達はガイダーと人間の共生が今後も続いてて欲しいと願っているから、こうして立ち向かうと決めたんだ。



空港に着いた禅内達が東京の秋葉原へと戻る為に帰りの飛行機へと搭乗している頃、東京内にある黄泉国神社にて数多の戦死者が奉納されているその地下室。


そこでは、闇属性ガイダー[ベルゼル]を生きたまま取り込み巨大化した[人間だった]男が、そのおぞましい姿を晒け出していた。


先端が鋭く長くて太い尻尾を豪快に揺らし、全長はおよそ大仏像の半分程の背丈と見て良いだろう。

体は漆黒に染まり、顔つきはまるで般若の如き恐怖が伝わる雰囲気である……


体つきも神主時のとは大違いで、硬い骨格と筋肉で全身が覆われている。

彼は大きな壺を豪快に持ち上げ、中に入っているガイダー達の流血と力が溶け合ったエキスを間もなく全て飲み干す所であった。


「ゴクッ!ゴクッ!ゴクッ!…ぶはぁ~‼︎なかなかの美味でしたねぇ。ガイダー達の全てが詰まったエキスがこれほど美味だったとは!

そうだ、せっかくですからこの日本中の人間からガイダーを全て奪い我が血肉に変えて差し上げましょう!

ガイダーは絶滅し、他の人間達も支配できてまさに一石二鳥ですねぇ…ふふふふ‼︎」

彼は、堕落の極みである日本社会を大いなる力の前に平伏し、従わせる事。

そして彼らの先駆者である…国政を司っていた呪術師一族が果たそうとした全世界征服。


それらを含めた、マスター・ゼノンに対して復讐する事こそ彼の1番の目的だった!


「ひ、ひぃ~‼︎」

無属性ガイダー達は小さい檻の中で共に身を寄せ合い、異形の存在となった彼を見て恐怖のあまり震え続けていた。


「…ああなるほど!良いことを考えました。ここにいる[アレら]をうまく利用すれば奴の愛娘にあたるガイダー・シアンを生け捕りにし、あのゼノンが苦しむ顔を見る事ができそうですねぇ?ほーっほっほっほっほ‼︎」


羅刹道成は一人高笑いをしながら、無属性ガイダー達の方を見て悪巧みを実行しようとしていた‼︎


これが彼と禅内達との、避けることのできない全面戦争の前ぶれとなる…

鳥取を満喫した禅内達は、秋葉原へと戻る為乗り物を経由していく。それは秋葉原…いや、東京の全てを舞台にした大いなる戦いの備えをする為でもあった!


今日も見てくれて、本当にありがとうございます!後書きでの一文がうまく書けない時が常ですけど、それでもこうして見てくださる方々がおられるのは幸いだなと感じている毎日です……


次回の更新日は、7月2日の正午12時に致しますのでお楽しみに!

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