74話、富士川の戦い⑤
今回は三人称視点ですー!
―――――――10月21日早朝、武田軍、本陣――――――――
武田軍の伝令兵が慌ただしく武田軍本陣へと走ってきた。
「伝令!遠江軍渡河しております!」
武田軍総大将、武田信義は、顎髭を擦りながら袈裟に身を包んだ男に問う。
「そうか。厳尊、渡河を阻止すべきか?」
厳尊。信義の弟で、源清光の八男だ。曹洞宗の僧侶となり、武田信義の軍師となっている。いわば、武田軍の頭脳だ。
「兄上、こちら側は、多数。しかし、敵、遠江軍は油断ならぬ精兵揃い。渡河など、下策中の下策、矢の雨を降らしてやりましょう。」
「うむ、厳尊の申すとおりじゃ。」
「渡河中で足がにぶっておる矢を放ちまくれ。頼朝殿にも伝令せよ。」
「兄上、俺も弓兵に加わっても良いか?」
声の主は、安田義定。源清光の三男で武田軍の矛だ。
「おう。言ってまいれ、義定!」
「叔父上!忠頼も参りまする!」
「う〜ん。良いのか?兄者。」
「まぁ、お前が着いているし、良いじゃろう。」
「父上、叔父上!ありがとうございます!」
武田軍の若武者は、親に認められた気がして舞い上がっている。
――――――富士川―――――――
「以盛殿!船にどすどす矢が刺さっているが大丈夫なのか?それにこの濃霧!渡河などできるのか?」
「はっはっはっ、維盛兄上は気にしすぎなのですよ。船には藁を括りつけており、わざわざ濃霧を選んで渡河しておるのです。敵の矢を頂戴致しましょう。」
「それに、維盛さんよぉ!俺たち真鍋水軍の、練度なめねぇでおくれよ!」
肌が黄金色に焼けた肌に、白い歯が一際目立つ男が笑顔で2人に語りかける。そう、読者のみんな大好き。いや作者が大好きな、真鍋水軍のあいつとその部下たちが、船頭として、渡河作戦に協力してくれているのだ。
「資光。前を見ろ。前を横の船とぶつかるぞ。」
「アイツらも前なんか見てねぇだろうから変わんねぇよ。しかし、藁を敷き詰めて敵の矢をかっさらっちまおうなんかおもしれぇこと考えるな!」
勘のいいガk…歴史好きの読者諸君なら気づいてるかもしれないが、この渡河作戦、三国志演義で描かれた、草船借箭の計の丸パクリなのだ。
しかし、演義は演義。まだ日本で言う平安時代には、演義など、世になく、あるのは三国志正史のみだ。
よって、この策は、遠江軍の軍師、長谷川実信の、策略なのだ。そう。実信は孔明を超えたのだ。
霧が無くなる頃合で遠江軍は1度岸に戻った。1度遠江国側の岸に戻り、矢を全て抜き取った。
―――――――武田軍、前線―――――――――
「くそぉ!あいつらわしらの矢を持っていきよった!」
そして、遠江軍は、21日、昼、改めて渡河作戦を開始したのだ。
「以盛殿!今回は本当の渡河で藁もないぞ!わしには六代が都で待っておるのだ!どうにか命が欲しい…」
「はっはっは、矢が当たる当たらぬなど、戦ではただの運。死ぬも生きるもただの運。当たることなどほぼないのだからお気になさるな。」
遠江軍総大将は、なかなか図太い男なのだ。
しかし、武田軍は維盛の言う通り矢をいかけてくる。
「者ども、焙烙火矢をうてぇ!」
以盛の船から陣太鼓が鳴らされ一気に鏃の下に導火線と、筒の着いた矢が放たれる。
敵の前線に刺さると同時に、次々と轟音と共に爆発していく。
やはり、平安時代の人間だ。今を生きる諸君達と違って、逃げていく。
関ヶ原で、アイヌ民族が参戦したら火縄銃の音にびびって逃げたという話を司馬遼太郎の本で見た事がある。
平安時代の人々からしたら、祟りだと思うだろう。
こうして、安全に渡河できた、右翼、左翼、中央の3つに、別れた。
遠江軍、渡河作戦成功!
なんか維盛がかわいい。




