あーぬくもり
あーぬくもり。
新年を迎えて、記録的大寒波を迎えた翌日、ボクは一面銀世界の街を、白い息を弾ませ駆けていた。
今日こそ言おう。
そう決めていた。
仕事は冬休み、彼女と二人っきりの三回目の初詣。
クリスマスに言いそびれた。
ボクの思いを。
小雪舞い散る中、彼女の家のインターホンを押した。
おばちゃんが出迎えてくれる。
「あら、おせちでも食べて行かない?」
「いや、いや」
慌てて手を振るボク、そんなことよりも大事なことがある。
親が友だちで、幼なじみの彼女のおばちゃんは、ボクを家族同然に扱ってくれる。
「そろそろ?」
おばちゃんは、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
思わず、ボクはうんと頷きそうになるのに、慌てて首をふった。
街はずれの神社とあって、初詣にくる人は少ない。
だけど、ボクらは恋人同士だ・・・何かにつけて理由をつけ会う、会わないなんて、会わずになんていられない。
それにこれからは・・・家族になるんだ・・・うん、多分。
境内を抜け、神社にお参りをする。
鈴を鳴らす。
柏手を叩き神様に祈る。
ちらりと彼女の横顔を見た。
静かに祈る綺麗な横顔に思わず、はっとなる。
「おみくじを引きたい」
「ちょっと、また後で」
ボクは彼女の手を引いて、神社の裏手にある高台へとのぼった。
街が一望できる穴場だ。
しかも幸いに誰もいない。
ごくりと唾を飲み込むボク。
言え、言うんだ。
「あのさあ」
「なに?」
「うん・・・」
「キスでもしたいの?」
「違うよ!」
「なに怒ってるの」
「怒ってないよ・・・怒ってないよ」
「そう・・・?」
それからボクらはしばらく景色を眺めていた。
言わなきゃ、簡単な事なのに・・・。
「あのさ」
彼女が言う。
「ん?」
ボクは振り返った。
「結婚しようか」
彼女はにっこりと微笑む。
「うん・・って、それっ、ボクが言いたかったのに・・・」
「お先っ」
彼女はぎゅっとボクに抱きついた。
「しまった」
「遅いよ、遅いね」
彼女は抱きついたまま、呟いた。
「じゃ、ボクからも言うよ、結婚しよう」
「うん」
あー。
ぬくもりがあたたかい。
あったかいぬくもり・・・あったかいぬくもり・・・あーぬくもり。
ボクは今日もぬくもりの中にいる。
これは童話じゃないなあと思われた方、3部作として考えれば・・・ほら、アリでしょう(笑)。
今回もベタな王道です。