表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/78

5

不味いと思ったカンタは頭をふって暗黒の儀式に逃げこむのを踏みとどまった。何はともあれ事態を整理してみようと意識を集中させた。だがそんなことをしなくても、先ほど目撃した光景は一目瞭然で、言い訳の余地を残さないものであった。カンタの頬には汗が伝い、雫となって床を汚した。暖房が利きすぎているのだ、と無意識にエアコンのリモコンを探していたが、そもそも廊下にエアコンはついていない。どうやら自分はおかしくなっているらしい。ホメオスタシスがまともに機能していないのだ。これは明らかに不味い兆候だった。打開策は、とその場にドカッと胡坐をかき、トンチ坊主よろしく、両のこめかみに人差し指をあてて考えてみたが、何も浮かばなかった。寝室は相変わらず静かなものである。カンタは眠り姫となった妻に一抹どころか束となった憎悪を感じたが、それもすぐにどこかへ消えた。やっぱり、カンタは彼女を愛しているのだ。だからこそ認めたくなかった。何かの間違いであってほしかった。その時、カンタに逃げの一手が思い浮かんだ。何も見なかったことにして、この場を去ればいいのではないか。適当なビジネスホテルで一夜を明かし、明日、何も知らない顔をして家へ戻ってくればいい。なんだ、簡単な話じゃないかとカンタは小さく乾いた笑いをあげた。だがすぐに新たな問題にぶち当たる。愛する妻のこんな痴態を知った今となっては、はたしてこの先夫婦生活を耐えられるのだろうかと。考えるまでもない、無理である。そこまで独占欲は強くはないと自称しているカンタではあるが、愛する妻の体を誰か他の男が触れていると考えるだけで心はズキンと痛んだ。そして、今、この扉の向こうでは、痛むだけじゃ足らないことが繰り広げられているのだ。カンタは大きく咳ばらいをした。これで気づいて、扉の向こうが慌ただしくなればザマア見ろといったところだが、相変わらず静かときている。ヘッヘッヘとカンタは奇妙な笑いをうかべ、こうなったからには、荒療治しかないと考えた。これからも彼女とやっていくために、すべてを見て、すべてを受け入れるしかない。今のカンタにはそれ以外の選択肢はないように思えた。余計な物など無いよね、と昔流行った歌を口ずさみ、再度寝室への突撃を決めた。それでも間違いであってくれと願ってみたが、ライトに照らされた妻の隣にはやっぱり余計なものがいた。余計なものがもそっと動くと、それは具体化され、余計な顔となった。カンタは抜き足差し足忍び足でベッドへ近寄り、なるほどね、とその男の顔をマジマジと眺めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ