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<<08 俺がすべきこと>>

 俺は、一つの夢を見ていた。

 正確には、四人の記憶が複合夢という形而上(けいじじょう)的な概念で姿を現したというべきだろうが、ここでは一つの夢として扱った方が分かりやすいだろう。

 そもそも、なぜ四人の記憶から成る複合夢と認識できるのか。

 実は、俺自身もよくわかっていなかった。

 なんとなく、四人の記憶から成る複合夢だと瞬時に認識したからそう言っているだけなのだ。

 では、四人という人数指定はどこから出てきたのか?

 ミネラという女性が、内に秘めていた四大龍王の名を公言したからだろうか。

 その『四』という数字に脳が強い反応を見せ、脳内に根強くインプットされてしまった。

 いや、その仮説はあり得ないな。

 公言されたあの状況で、根強く記憶にインプットされるのはミネラの話ではない。

 貧民街を燃やし尽くし、両親もろとも家を炭に変えてしまった、あの『大火災』の方だ。

 確かにミネラの話も驚愕すべき内容ではあったが、やはり言葉よりも形として目の前に現れている方が、よほど印象に残りやすい。

 

 ーーだとしたら、一体なんで四人だと思ったんだ・・・?


 俺は思い当たる節を、記憶の中から何度も呼び覚まそうとしたが、『四』という数字を印象強く与える出来事はなかった。


 ーーやっぱり、あの人の話の影響なのか・・・?


 俺は見事に振り出しに戻ったのだが、複合夢はそんな俺を置いて勝手に話を展開させていく。

 複合夢の中に出てくる四人のうち、三人は『大火災』の現場にいたあの三人で間違いないだろう。

 そして、もう一人は全く見覚えのない女性だった。

 だが、一つだけ言えるのが、


 ーーこの人たちが龍王なのか・・・?

 

 ミネラが口にしたことが本当なら、この竜人たちこそ、話に聞いてた四大龍王で間違いなかった。

 なぜ俺が四大龍王の記憶を断片的に見ているのかを本来疑問に思うところなのだが、それより先に、俺の興味心はある女性に注がれていた。


 ーーあれ・・・、どうやって浮いてるんだ?


 その女性は車椅子のようなものに腰掛けており、空中浮遊を体現していた。

 もちろん、手品ど素人の俺にタネがわかるはずがない。


 ーー俺は、この龍王たちの誰かの記憶を覗いているのか・・・?それじゃあ、俺が複合夢だと思ったのは・・・?


 全ての話を繋げようとするのは、あまりに都合が良すぎると告げられているかのように噛み合わない。

 そもそも、人数はどうであれ、なぜ俺が龍王の記憶を覗いているのか?

 まずはそれを解き明かすべきなのだが、俺はある重大なことに気が付いた途端、意識は強制的にその案件に向けて転換を開始した。


 ーーというか、両親を亡くしたのに何でこんなに平然としていられるんだ・・・?俺は・・・


 自分でも怖いぐらいに落ち着きを保っている。

 時間の経過が、俺の心に余裕を作ってくれているのは確かなのだが、あまりにも早すぎはしないだろうか?

 大切だった家族が、俺の目の前で炭になったというのに、なぜ俺は冷静でいられる?

 もともと、俺は冷酷な竜人だったのか?

 他の竜人との関りがなかったせいで、自分の本性を表に出すことが今まで一度もなかった。

 もしかしたら、俺は両親の死を目の前に何とも思わない冷たい奴なのかもしれない。


 ーーだとしたら、俺は・・・っ!俺は・・・っ!


 複合夢の中にいるのにも関わらず、涙が頬を伝っているのが神経を通じて感じ取ることができた。

 その多量に流しているであろう涙も、『悲しみの涙』なのか、『悲しみを繕った偽物の涙』なのか。

 もう俺には何もわからなかった。


 俺は・・・っ!大切な人の死を嘆くことすらできない冷たい奴なのか・・・?

 俺に・・・っ!俺には感情がないのかよ・・・っ!

 誰か教えてくれよ!喜ぶこと、悲しむこと、辛いこと。全て受け止めるから・・・

 だから・・・誰か俺を導いてよ・・・っ!

 父さん・・・、母さん・・・俺は二人にどんな顔を向ければいいの・・・?


 先ほどまでの落ち着きをどこかに落としてきてしまい、俺は必死にその落とし物を探した。

 そうすれば、先ほどのように冷静を装うことができると考えたからだ。

 だが、その落とし物はなかなか見つからない。

 胸が張り裂けそうになるほどの苦痛を味わうのだが、何に苦しみ、何から解放されたいのか。

 俺にはそれがわからない。


 誰でもいい・・・誰でもいいから・・・教えてくれ・・・俺は一体・・・


 ----何者なんだ・・・?

 

 俺は、激しく取り乱していたせいで、ここが複合夢の世界だということを完全に忘れていた。

 だから、自問自答する俺に手を差し伸べる第二者が姿を現すはずがない。

 それでも、俺は必死に祈りを捧げた。それしか、方法が思いつかなかったから。

 そして次の瞬間ーーーーー


 ゴオオオン!


 ウジウジとする俺に、神の怒りが降り注いだかのように強烈な一撃が直撃する。

 かなりの衝撃だったため、全身が痙攣を起こしてしまい、ついには思うように立てなくなってしまった。


 -- 一体何が・・・?俺は誰に何をされた・・・?


 自分の身に何が起こったか、辺りに誰もいないことから、誰からも説明されることはない。

 口元が緩み、よだれを垂らしながら地面に這いつくばっている俺。

 急展開の末、俺は誰からも救いの手を差し伸ばしてもらうことなく、現実へと意識を強制送還するため、無事に意識を失った。

 そして、俺の復讐劇はここから始まったのだ・・・


 

 ~~~~~~~~~~~~~~


 ーーここは・・・どこだ・・・?

 

 気が付くと俺は見知らぬベッドの上で寝ていた。

 全てが悪い夢だったと現実から目を背けたいところだったが、運命というものは皮肉にもそれらの行いを断じて許さないらしい。

 どうやら、涙が頬から流れ落ちていたのは錯覚ではなかったらしい。

 涙が伝った道筋は、自身の体温と外気の体温が均衡状態を保っていたせいでカピカピになっている。

 そんな干乾びた涙を放置し、俺はゆっくりと起き上がった。

 俺が寝ていたベッドは私有部屋と一体化しており、同室には机やタンスなどが綺麗に配置されていた。

 その配置場所に見覚えがある。


 --ああ、そうか。ここは・・・


 俺が結論を出す前に、この部屋の所有者が扉のノックをすることなく、ずかずかと俺の下へと歩み寄ってくる。

 まあ、俺は貸してもらってる立場だから何とも言えないのだが。


 「おはよ、ヘルゼア。気分はどう?大丈夫?」

 「ああ、問題ない。ここはシュゼリーの部屋なんだな?」

 「ふふん、見覚えのある部屋で驚いた?」


 俺はなぜ目覚めた瞬間に、シュゼリーの部屋だと答えを出せなかったのだろうか。

 恐らくは嗅覚が正常に働いていないせいで、咄嗟の判断能力が鈍っていたせいだろう。

 一度この部屋を訪れた時には、女の子特有の甘い香りが鼻一杯に広がったのだが、今は何も匂わなかった。

 

 「もう、ビックリしたよ。パパがヘルゼアを連れて帰ってきた時には腰を抜かしそうだったし。怪我も酷かったから心配したんだよ?」

 「ごめん、迷惑をかけて。俺、そろそろ家に帰るから」

 「あ、え、っと・・・」


 シュゼリーが何を言いたいのかは聞くまでもない。

 俺が帰ろうとしている家はないよとでも言いたいのだろう。

 そんなことを言われなくても、俺もわかっている。

 わかっているのだが、どうしても現実を受け止めたくない自分が心の中にいる。

 俺が部屋から出て行こうとすると、シュゼリーは俺のボロボロの服を掴み、


 「ごめんね、私がはっきり言えばよかったんだ・・・ごめん・・・」

 「シュゼリーのせいじゃない・・・だからそっとしておいてくれ・・・」


 するとシュゼリーは、掴みかかった俺の服から簡単に手を放した。

 正論で論破して引き留めても、俺のためにはならないと考えたのだろう。

 彼女の思う通りだ。俺は誰に何を言われようとあの家へ帰る。

 俺を心配する両親の元へと。

 

 「それじゃあな、お父さんに助けてくれてありがとうございましたと伝えておいてくれ」


 シュゼリーの家から立ち去ろうとする彼に、彼女は言葉一つかけることなく彼の背中を見届けた。


 --早く・・・帰らないと・・・父さんと母さんが待ってる・・・


 シュゼリーの家からどのくらいの距離を歩いたか計測しようがないが、かなりの距離を歩いただろう。

 フラフラになりながらも、二人の下へ歩き続ける俺の後ろ姿があまりにも惨めで、滑稽だったのか誰かが俺の足に何かを引っかけた。

  二人のことで頭がいっぱいだったために、足を引っかけられたことすらも認知していない。

 気が付けば、俺は顔面を地に打ち付けていた。


 --痛い・・・これは夢じゃないのか・・・?


 俺の鼻腔から血と思われる液体が流れ出てくるが、どうでもいい。

 跪いた姿に馬鹿笑いしていた誰かは、うんともすんとも言わない俺に面白さを感じなかったのか、後ろから思い切り俺のことを蹴飛ばした。

 その後、そいつの取り巻きと思われる連中らに抱え上げられ、俺は見事なサンドバックとなったのだ。

 そいつは、火を纏った拳を何度も俺の鳩尾(みぞおち)へストレートに決め込む。

 痛い、苦しい、息ができない。反撃をする気にもなれない。

 早く二人の下へ帰らないと・・・


 「これでラストー!」


 少年のような声が締めくくりの言葉を放ったと同時に、俺の頬が急激に熱くなる。

 ああ、そうか。どうやら俺は殴られたらしい。

 

 --歯の何本かは折れただろうな・・・


 歯が折れたにも関わらず、俺は口を押えることなく、吹っ飛ばされた着地点で立ち上がる。

 俺は不思議な感覚に襲われていた。

 火を纏った拳が頬に触れた瞬間、痛み・・・というよりも、つい最近どこかで感じ取った懐かしい気持ちになったのだ。

 だが、俺はその懐かしい正体を探る気になれない。

 早く二人の下に帰らないと・・・


 「おい!どこ行くんだよ!逃がすわけないだろうが!」


 俺を逃がさんとばかりに、誰かは手の平から放たれる火を俺に容赦なく浴びせた。

 火の滝に包まれる中、俺の中で閉じ込められていた懐かしい気持ちが一気に解放される。

 俺の眼は完全に彼を捉え、負の感情が爆発した。

 現実から目を背けることをやめ、『大火災』で失った家族のために彼を殺す。

 気が付けば俺は、やつの弱々しい火をかき消していた。

 そして、暴力を止める様子のない彼に一言言った。


 「お前か、貧民街を焼き尽くした張本人は!」


本日も最後まで読んでいただきありがとうございます!

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