<<03 同盟>>
今回で前置きは終わります・・・
「ほう?同盟ときたか。――んで?お前らは俺らにどんなメリットを提供してくれるんだ?」
「もちろん、龍王の力が失われてたその時から竜人族の護衛に全力を尽くすといったものになります」
「他には?」
「え?」
「他にはないのかって聞いてんだよ?」
ソイルスは決してテレドシアを虐めているわけではない。
それほど龍王の武力と権力、信頼は膨大なのだ。
龍王の力を転生させたいのなら、それに釣り合う条件を多く揃えるしかない。
「――それと、人間族の知恵と知識を提供します」
「他は?」
「――あとは、わが国で作られた物資をお送りします」
「他は?」
「――――えーっと、――――えーっと」
「まだまだだな。あと十個くらいの条件を提示してもらわないと話は飲みこめ・・・」
威張り散らかすように言うソイルスの頭に再び、拳が振り下ろされる。
いうまでもなく、ミネラだった。
「てめー!いきなり何しやがる!」
「いや、どう考えても十分な条件を出してもらったでしょう?これ以上の何を求めているわけ?」
「馬鹿いえ、まだまだ全然足りねーよ!この程度の条件でみんなをどう守っていくんだ!?」
「ハァー、前言撤回。やっぱりあなたはバカだね・・・」
「何だと!?」
「やはりボクの見立てに間違いはなかったようだ。キミは臆病者だ。――うん、間違いなく」
「こんにゃろー!」
考えを理解してもらえないソイルスの頭に血が上り、二人は女だというのにも関わらず、殴りかかろうとする。
そんな彼の肩を力強く掴み、イノフェはそれ以上の二人への接近を許さなかった。
「ソイルス、待て。お前は一体何を見てきたんだ?」
「イノフェ、何を言ってやがる!こいつらは俺を小馬鹿にしてきたんだ!見るも何も聞いた通りだろうが!女だろうと何だろうとかんけーねー!」
「俺が言いたいのはそういうことじゃない、一旦落ち着けよ?――な?」
「離せ!離せよ!」
「ソイルス!」
イノフェは、険しい表情をソイルスに向けた。
その漂うオーラから、冷静を取り戻したソイルスはイノフェに恐る恐る尋ねた。
「イノフェの言いたいこと・・・って?」
「ようやく落ち着いたか。いいか?よく聞けよ、ミネラ達が言いたかったのはお前を小馬鹿にすることじゃない。もっと大切なことを見落としてるお前を咎めただけなんだ」
「俺に・・・欠落してるものがあると・・・?」
「そうだ、お前は『龍王』になったせいで他の竜人を下に見過ぎている。俺たちとまではいかないが、それなりに実力を持っている奴はゴロゴロいるってことをお前は見落としているんだ」
無言でイノフェたちを見つめるミネラ達は、「うんうん」と頷いていた。
「――だ、だけどよ?本当に俺たちなしで大丈夫なのか?」
「――ったく、心配性にもほどがあるぞ?人間族も力を貸してくれるんだ。俺たちの力が失われても大丈夫だと思うぞ?」
「そうだよ?誇り高き竜人は、決して私たちだけではないのだから」
「ミネラ、ゼクス・・・すまなかった」
「ふふ、殴られてないからいいですよー?」
「まあ、殴られてたら倍返ししてたと思うけどね?」
ソイルスが二人と和解をしていた頃、イノフェは前々から胸に抱いていた、同盟の件に関しての疑問をテレドシアにぶつけた。
「あの、国王様の許可なしに同盟を結んでも平気なのでしょうか?」
同盟というのは、国同士が共通の目的達成のために結ぶものだ。
国境線を消し去るということは、国という大規模な集団を動かせるほどの権力がないと成しえない。
大変失礼ではあるが、このテレドシアという男にそれだけの力があるとは到底思えなかった。
「その心配は無用でございます」
「――どういうことです?」
「こんなこともあろうかと、陛下から許可書を頂いてますので」
するとテレドシアは、龍王たちへ向けてその許可書を差し出した。
イノフェがその許可書を確認すると、そこには許可を貰うためのテレドシアの名前と国王の署名捺印の両方が記されていた。
文字の形から確認するに、どうやら本物で間違いないらしい。
「どうやら、本物みたいですね・・・いいでしょう。転生の話を飲みます」
「ほ、本当ですか!?」
「ソイルス、ミネラ、ゼクス。お前たちはどうだ?」
「まあ、みんなをしっかり守ってくれるのなら俺はいいぞ?」
「私は良いですよ?今『龍魂』を持っていてもあれですしね」
「そうだね、『龍魂』が必要な時にないと困るからね?」
どうやら異議を唱える者はいないらしい。
さっそく転生の儀式を始めようとするテレドシアにソイルスは、
「ちょっといいか・・・?」
「はい?何でしょうか?」
「本当に『龍魂』だけを転生させるんだよな?間違えて死にはしないよな?」
ソイルスのあまりのビビりように、龍王たちは吹き出して笑ってしまった。
「ソイルスは心配性だな?」
「全く、もう少し男らしいところを見せてくれませんかね?」
「この中でも一番年が若いボクで平気だというのに」
「う、うっせーな!それより、どうなんだ!?」
「あ、ええ・・・決して死ぬことはありません・・・」
他人が笑っていると、自然に伝染してしまうのはなぜなのだろうか?
ソイルスを除く龍王たちが笑っている姿を見て、テレドシアの中で笑いが込み上げてくる。
テレドシアは、必死に込み上げてくる笑いを抑えようとしたが、他人から目に見えてわかるように顔に出ていたらしい。
「おま!何笑っていやがる!」
「い、いえ・・・笑ってないですよ・・・?」
「嘘つけ!完全に笑ってんじゃねーか!」
「ソイルス、もういいだろう?早く転生の儀式を済ませちゃおうぜ?」
「――んな!馬鹿にされたまま終われるか!」
「仕方がない。ゼクス、さっきの縛りをもう一回できるか?さっきよりも強めで」
「ボクにかかれば余裕だよ?任せておいて」
ゼクスの右手の平がソイルスに向けられると、ソイルスが突然黙り込んだ。
「ごめん・・・」
「もう、手間かけさせんなよ?」
「すみません・・・」
「それじゃあ、テレドシアさん。私たちに転生魔法をかける準備をしてください」
「分かりました。少しお待ちください」
テレドシアが空気中に何かを描くように指先を動かすこと五分。
突如、光り輝く白い魔法陣がテレドシアの目の前に出現した。
「これが転生の魔法陣か・・・」
「はい、それではこの魔法陣を龍王様方に向けて放ちますので、どうかそこから動かないでくださいね?」
「分かりました」
「ちなみに痛みとかは・・・」
「ソイルス・・・もういいだろう?黙ってあの魔法陣を食らってくれ」
「だ、だけどよ・・・」
「ゼクス、頼む」
「了解でーす」
「ちょっ!おい!」
ゼクスはソイルスの周りの空気を凝縮させ、身動きが取れない状況にした。
ソイルスが何か喋っているようだったが、龍王含め、テレドシアも聞く耳を持たなかった。
「それじゃあテレドシアさん、お願いします」
「分かりました!」
そしてテレドシアは魔法陣を龍王たちに向けて打ち放った。
龍王たちは願った。
『龍魂』を持った少年少女が、魔の手から我々竜人族を守り、世界に平和をもたらしてくれることを――――
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