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<<02 来訪者>>

 「初めまして、龍王様方。私は勇者レボルト様に仕えていた、大賢者のテレドシアと言います。どうぞお見知りおきを」

 「ふん、どうだか?お前が大賢者だということも疑わしい」


 ソイルスの頭に強めの拳が下られる。


 「このっ!ミネラ!何しやがる!」

 「客人に対してその態度はないんじゃないかな?常識はどこへ行ったの?じょ・う・し・きは!」

 「常識通りに動いてるじゃねーか!初対面のやつに警戒するのは常識だろう!ミネラの常識が疑わしいわ!」

 「そういうことじゃないでしょ!」


 またしても繰り広げられる口論に、イノフェとゼクスは思わず溜息を吐いてしまう。

 客人の前で堂々と言い争う二人に常識を語る資格はないと思うが。

 未だに言い争う二人にゼクスが終止符を打つ。


 「嘘はついてないと思うよ?」

 「ゼクス、それはどういうことだ?」

 「空気の振動に乱れを一切感じない。嘘を吐く奴は、心の乱れに伴い、息遣いが乱れるものなんだ。だから彼は嘘をついていないと思うよ?」


 さすがの『空龍王』と言ったところだ。

 空気の微妙な振動の違いを感じ取ることができる。

 まさに最強だからこそできる代物だった。

 ゼクスの弁護を入れられたテレドシアは安堵の息を漏らしながら、礼を告げた。


 「ありがとうございます、龍王様。この御恩はいつか必ず」

 「なに、気にすることはないですよ?それより、ここに来たのにはボクたちに何か言わなければならないことがあるのでしょう?その要件を先に聞きましょう」

 「心遣い、誠に感謝します。今回、私が龍王様方に相談をしたいのは・・・」


 とても言い出しづらいことなのか、彼から漂う空気が一段と暗くなっているのが伝わってきた。

 『空龍王』でなくても、感じ取れるほどに。

 そして、意を決した彼が放った言葉のせいで、この場に広がる空気の流れがより重たくなる。

 彼が放った言葉。それは、


 「どうか、龍王様方の力の根源である『龍魂』を転生させて欲しいということです」


 魂を転生?それはつまり、龍王たちにその絶対的力を失えと言っているのだろうか?

 どちらにせよ、そんなことを言われれば黙っているはずがない。


 「貴様、そんなに死にたいのか?黙ってそこに立ってろよ?」


 頭に血が上りやすいソイルスがテレドシアに向かって歩み始める。

 そんな彼の肩を、イノフェが力強く掴み、進行を妨げる。


 「イノフェ!離せ!アイツは生かしておいちゃいけない奴だ!俺の常識がそう叫んでいる!」

 「落ち着け、ソイルス!まだ話を最後まで聞いてないだろ!殺すかどうかはその後でも良いだろう?それにお前の常識は少しズレてる部分があるから、勝手に行動するな」

 「そうだよ、ソイルス。彼から嘘を全く感じない。嘘をついてるようならボクが黙っているわけがないだろう?だから最後まで話を聞こう。ね?」


 イノフェとゼクスがソイルスをなだめている間に、ミネラはテレドシアに尋ねた。


 「一体どういうことでしょう?勇者の側近であるあなたが、私たちに死んでくださいというはずがないと思いますが、ちゃんと説明してもらわないと混乱する同士がいますので、より詳しくお願いします」

 「あぁ?ミネラ、まさか俺のこといってんじゃねーだろうな?」

 「逆に聞くけど、あなた以外に取り乱した龍王はいたかしら?」

 「てめぇ!」


 怒りの矛をミネラに向けるソイルス。

 そんな彼を、ゼクスは空気の網で縛り付けた。

 正確には、彼の周りに広がる空気を圧縮させたわけだが。


 「ソイルス、一旦静かにして。このままじゃ、話が先に進まない」

 「な!?俺は別に邪魔なんか・・・っ!」

 「ソイルス」


 イノフェの怒りを含んだ言葉が、胸に深く突き刺さったのだろう。

 まるで、叱られた子犬のように大人しくなってしまった。

 

 「すみません、彼の代わりにこのイノフェが謝罪申し上げます。大変失礼しました」

 「いえいえ、謝らないでください。もとはと言えば、私の至らぬ点があったことに問題がありましたので」

 「それで、テレドシアさん。なぜ私たちの魂を転生させたいのですか?」

 

 ミネラの問いに、嘘を吐くことなく正直に答えた。


 「実は、勇者様が亡くなられてしまったのです」

 「え、レボルトが?持病とかで無くなったのですか?彼からそういう話は一切耳にしたことがないので」

 「いえ、勇者様は病気で亡くなられたわけではありません。勇者様は・・・魔人族を封印するためにその命を差し出したのです」

 「は?待ってくれ。頭の整理が追い付かない」

 

 イノフェは理解できなかった。

 なぜ急に魔人を封印しようと考えたのか?

 封印するぐらいなら殲滅すれば良い話だからだ。

 それに、魔人族と対立していたのなら、なぜ龍王たちの手を借りようと思わなかったのか?

 勇者以下の力しかない龍王たちに、何も期待していなかったからか。

 どちらにせよ、事の真相がわからない。

 その謎を解明すべく、ゼクスが口を開いた。

 

 「封印ということは、つまり魔人族と戦争したということですよね?なぜいきなり、魔人族とやり合うことになったのでしょうか?ボクたち龍王も事前に聞かされていれば、手を貸していましたよ?」

 「事前・・・そうですね。最初からわかっていれば、そういう手段を取っていたことでしょう?」

 「どういうことですか?私たちに分かるように説明していただけますか?」

 「魔人族が・・・っ!魔人族が襲撃してきたのです。私は別件でその場にいなかったのですが・・・っ。後から、勇者様が・・・っ、勇者様が封印するためにその命を捧げたと・・・っ」


 ゼクスから何も反応がない。

 どうやら、テレドシアの流している涙は本物なのだろう。

 勇者の急逝にそれぞれ、遺憾に思うところがあるが、いくら何を思うと彼が戻ってくることはない。

 だが、勇者が死したことと転生の話がどう繋がるか未だに分からないままだ。


 「心中お察し申し上げます。しかし、それと俺たちの魂を転生させるのとどう関係があるのですか?落ち着いたらで構いませんので、どうか教えていただけませんか?」


 頬を伝う涙を拭い、テレドシアはイノフェの質問に返答した。


 「すみません、取り乱してしまって・・・。魔人族を封印したとて、完全に滅ぼしたわけではないのです。封印も百年の年月が経過すれば解けてしまいます。その時、誰が魔人族の進行を食い止めるか。そこで私が言いたいのは・・・」

 「ボクたちの魂をその百年後に間に合わせるように転生させるというわけですね?確かに、竜人族の寿命は人間とほぼ同等。今から転生させないと間に合わないというわけでしょうか?」

 「そうでございます。勇者に転生の魔法を施さなかったゆえに、勇者の生まれ変わりがいつ誕生するかわからないのです。だから、勇者様が認めた龍王様方のお力が必要なのです!

 どうかお願いいたします。龍王様方の『龍魂』を転生させてはくれませんでしょうか?勇者様の死を無駄にしたくないのです」


 深々と頭を下げるテレドシア。

 頭でよく見えないが、恐らくテレドシアは泣いている。

 勇者の死を無駄にしないようにと、イノフェが代表として了承しようとした時だった。


 「そろそろ限界だわ。テレドシアって言ったか?黙って聞いてれば、なんだよそれ?お前にしかメリットないじゃねーか」

 「いえ、魔人族を完全に滅ぼせれば、みんな幸せに・・・」

 「そういうことじゃねーよ、馬鹿か?お前は」

 「ソイルス、どういうことだ?」

 「簡単な話だろ。俺たちの『龍魂』を転生させたら、絶対的な力を失うってことだろうが。

その転生者が現れるまでに、何も起こらないと誰が決めた?」


 ソイルスの正論過ぎる発言に、龍王全員が耳を疑ってしまう。

 そんな龍王たちの中で、先に口を動かしたのはミネラだった。

 

 「ソイルス・・・ごめんね?あなたがそこまで賢いとは思わなかった」

 「あ!?俺はミネラよりよっぽど賢いわ。今更気付いたのかよ」

 「ボクもミネラと同じ意見。ただの臆病者かと思っていたよ?」

 「俺は臆病なんかじゃない。未来を冷静に見通す。ただそれだけの話だ」

 「なるほど、臆病者ではなく慎重者ということか。ボクの見立てが間違えていたよ、ごめんね?すぐその縛解くから」

 「なんか引っ掛かるが、とりあえず解いてくれ」


 その功績が、ゼクスに掛けられた束縛を解く鍵となった。

ソイルスは解放の身となり、そしてテレドシアに言い放った。


 「ーーというわけで、この話はここまでだ。他に要件がないのならさっさと帰ってくれ」

 「そんな・・・」

 「私たちは龍王。未来の事よりも今この世に生きる民を守らなければならないのです。魔人族殲滅のお力になれず、すみません」

 

 ミネラがテレドシアに向けて優しく断りを入れる。

 すると、何か良い方法でも思いついたのか、テレドシアは立ち去ろうとする龍王たちを引き留めた。


 「ま、待ってください!」

 「なんだ?お前にしか利がない話では俺たちは決して動かないぞ?」

 「龍王様方にメリットがあればよろしいのですよね?」

 「そうですが、何か良い方法でも?」

 「ええ、龍王様方も納得していただけるかと」

 「そう、その名案とやらをボクたちに教えてくださいませんか?」


 テレドシアは深く深呼吸をし、その名案を龍王たちに言い聞かせた。


 「人間族と竜人族で同盟を結びましょう」

最後まで読んでいただきありがとうございます!

次の回で前置きは最後となります。

長くなり大変申し訳ありませんでした。

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