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<<19 先生の事情>>

 俺にとって、今回の『チーム対抗戦』の内容は、とてもありがたいものであった。

 この学園だけでなく他の学園も、大賢者によって改造された思想の誤りを自らの手で正すことができるからだ。

 各学園の頂点に君臨することで、変えられてしまった歴史をぶち壊す。

 今の俺の頭の中にはそのことで頭がいっぱいだった。


 「な、なんで急に合同になったのですか?私にはそれが理解できません。今まで学園内だけで行われていたのに・・・」

 「ふん、てめぇ程度の竜人じゃビビるのも当然だよな~?」

 「あ?貴様、約束はどうした?」


 俺が鋭い眼で男を睨みつけた。

 すると、すかさず茶髪のガキが男の頭を思い切り殴る。


 「悪い、坊主の代わりに俺が咎めておく」

 「いちいち話を妨げるな、話が進まなくなるだろうが。それにお前らのような雑魚に、セノアを馬鹿にする権利はあるのか?大したことのない雑魚なのに、なぜそこまで威張れるのやら」

 「ヘルゼア、もういいよ」


 セノアは、そう一言優しく告げる。

 自分が馬鹿にされた時は、人の仲介が入ったところで怒りの熱が冷めるのだが、セノアの場合は何かが違かった。

 心の底から沸々と沸き立つ怒りが、なかなか収まらない。

 もしセノアが止めに入っていなかったら、容赦なく男の首を跳ね飛ばしていただろう。

 そんな怒りに満ち溢れる俺に、情報提供源である彼女は怯えながら、一度妨げられた話の内容を再開させる。


 「セ、セノアさんの言いたいことは私も思ってたの・・・」

 「どういうことだ?」

 「ひぃ!私は弱いから殺さないでぇ!?」

 「いや、先生?ヘルゼアは無差別殺人はしないですよ?」


 俺が原因で話が全く進まない。

 さて、どうしたものかと考えていると、セノアは「先生」と呼んでいた彼女の手を、優しく包み込むように握った。

 セノアが一体何をしようとしているのかは、俺には理解できなかった。

 

 「先生?ヘルゼアは優しい男の子なんですよ?か弱い私を守ってくれているんですから」

 「で、でも・・・」

 「先生?ヘルゼアはか弱い女の子を守ってくれるんです、もし先生は弱いというのなら、必ず守ってくれますよ。大丈夫、大丈夫ですから」

 「セノアさん・・・」

 「いや、ちげーよ?誤解を招くようなことをいうのはやめろ?」


 会話の雲行きが怪しくなってきて、セノアが一体何を言い出すかと警戒してみれば、とんでもないことを口にしやがった。

 俺は、理不尽な目に遭っている奴を助けているだけであって、「か弱い女の子だから」と言った不純な理由で助けているわけではない。

 優しく先生に語り掛けるセノアに、俺は訂正を申し出る。

 だが、セノアは俺の申し出に聞く耳を持たずに、そのまま先生と会話を続けた。


 「先生は可愛いんですから、ヘルゼアはきっと助けてくれます。ヘルゼアは、可愛い女の子なら子供でも大人でも関係なく弱いですから」

 「おい!ちげーよ!なんてこと言ってんだ!?」

 「わ、私って・・・可愛いのかしら・・・?」

 「えぇ、先生はとっても可愛いですよ?」

 「そ、そうかな?そうかな?えへへ、えへへ!」


 生徒に完全に言いくるめられた先生は、完全に同世代の子供のようだった。

 確かに先生は、一般の女性の身長と比べればかなり低めだと言えるが、中身は大人のはずだ。

 なのに、子供だと思ってしまうということは、つまり精神年齢が幼いということだろうか。

 そして、話は急展開を迎える。


 「へ、ヘルゼア君?私可愛いと思う?」

 「・・・は?なんでそんな話になるんだ?」

 「だ、だって、可愛ければ守ってくれるんでしょ?ヘルゼア君強いから、守ってもらえればこの先長く生きていけるでしょ?だからさ、教えてもらえないかな」

 「んで、どうなの?ヘルゼア君。先生は可愛い?」


 ジッと見つめる先生と、顔全体は笑っているように見せるが、目元は全く笑っていないセノア。

 これは、どちらを選んでもかなりめんどくさいことにならないか?

 「可愛くない」と言えば、先生は再び怯え始め、話が進まなくなる。

 だが「可愛い」と言ってしまえば、セノアから何を言われるか想像もしたくない。

 そして俺は、はっきり言ってやった。


 「俺は可愛いとか可愛くないとかで守ってんじゃない、困っているから助けているだけだ。だから先生も困っているのなら無論助けるぞ?」

 「へ、ヘルゼア君・・・」

 「ふーん、ほんとかなー?」

 「いや、本当かどうか以前に話をややこしくしたのはセノアだろうが!」

 「そうだっけ?」


 全く反省の色が見られないセノアに、俺は溜息を吐くことしかできなかった。

 まあ、どちらにせよ苦渋の決断をしなくて済むようになったのだから良しとしよう。


 「んで、なぜ学園合同になったん・・・」

 

 俺がそう言いかけた瞬間、クラス内の空気は一気に氷づいた。

 氷づいた原因はもちろん先生である彼女であり、あろうことか、彼女はなんと躊躇なく俺に抱きついてきたのだ。

 何が起こったか全く理解できない俺以上に、酷く取り乱す竜人が一人。


 「せ、先生!?なんで抱きつくんですか!離れて、ヘルゼアから離れてください!」

 

 セノアは、俺に抱きつく先生を引き剥がした。

 すると、俺の制服は先生の鼻水まみれになっており、可愛いと称賛された顔もかなり残念ことになっていた。

 先生は、なぜ泣いているのだろうか。


 「先生、どうしたんですか!?なんで泣いてるんですか!ヘルゼアの名言にやられましたか?やられちゃいましたか?」

 「いや、ちげーだろ!何でもかんでも俺のせいにしようとするな!」

 「いやいやいや、それ以外に考えられないでしょう!先生そうですよね、そうですよね!」


 強引にそう言わせようとするセノアに泣き崩れながら、先生は嘘を吐くことなく正直に話し始めた。


 「どうか・・・どうか上位に残れるように・・・どうか・・・お願いします・・・」

 「え、上位って一体どういうことですか?」

 「どうやら、先生の「首」がかかっているようだな」


 先生の代わりに、俺が代弁してセノアに伝えた。

 先生から漂う空気の重みと深刻さに感じ覚えがある、それは「死」に関する恐怖心だ。

 恐らく空龍王の記憶だろうが、「死」に関する時に発せられる空気の重みと深刻さが、その人とよく似ていた。

 すると、先生は代弁した俺に続いて口を開く。

 

 「どうして・・・どうしてわかったの・・・?」

 「なに、先生から漂う空気の重みに心辺りがあっただけだ」

 「ヘルゼア君はそれだけで分かってしまうの・・・?だったらお願い。どうか、どうかその強大な力で私を救って!お願い」


 上位どころか、トップに君臨しようと思っていたところだ。

 先生の願いを俺の野望と同時進行で進めれば、全て解決する話だった。

 俺が先生の願いを聞き届けようとすると、またしても邪魔が入った。


 「ふざけんなよ!どうしてあんたのために俺たちがそこまでやらないといけねーんだよ!俺は知らねーからな!」

 「ちょっと、あなた!いくら何でもそれはないでしょう!」

 「ふん、なぜ貴様に指図されないといけないのだ?やりたきゃそっちで勝手にやっとけよ!」


 主犯格気どりの男を、茶髪のガキが鎮めようとするが、なかなか興奮が収まらない。

 

 --全く、やり方が甘いんだよ。


 俺は、主犯格の男だけを限定して『威嚇』を使用した。

 男にはまだ背中しか見せていないが、男が恐怖しているのが身で感じることができ、そしてゆっくりと男の方へと振り返りながら、俺は男に告げた。


 「誰がお前みたいな雑魚に先生がお願いしたのだ?勘違いも甚だしいぞ。それもなんだ?自分が強いとでも言いたいのか?」

 「確かにお前に比べてみたら俺はよえーかもしんない。だけどお前のは借り物の力だろうが!それを自分の力みたいに調子乗ってんじゃねーよ!」

 「ちょ、お前!何言って・・・」


 茶髪の髪のガキではなく、三人の中の一人の男が哀れな男の口を止めようとしたが、全てが遅かった。

 彼は『獄炎』によって跡形もなく焼き消され、残ったのは彼の体であったであろう灰のみだった。


 「それ以前の奴に言われたくもないな。持っているから強いんじゃない、行使できるから強いんだ。どうだ?お前たちもそうは思わないか?」


 俺が茶髪のガキたちにそう尋ねると、男たちはひたすら縦に首を振っていた。

 こいつらは、あの男とは違い話が通じる連中のようだ。

 だが、話が分かるからと言って、男を復活させる気は俺にはない。

 たとえ、セノアの願いだとしても。


 「お手を煩わせてすみません、あいつはもう生き返らせなくてもいいです。それに一切他言しないと約束するので、俺たちの命はどうか・・・」

 「セノアの話を聞いてたか?俺は無差別に殺人はしない。何もしていないお前達に何もするわけがないだろう?」

 

 そう言うと、男たちがホッと胸を撫でおろしているのが目に見えてわかった。

 この調子なら、男たちが俺の邪魔をすることはないだろう。


 「先生、ここであったことを他言しないと約束してくれるか?そしたら俺はあなたに全面協力することを誓おう」

 「ほんと・・・?本当に引き受けてくれるの?」

 「困っている人を助けると言っただろう?先生は俺を何だと思ってるんだ?」

 

 先生から発せられていた負の感情は、希望という正の感情へと変わっている。

 気持ちの変化が現れた証拠だった。

 

 「うぇぇぇん、ヘルゼアくーん、ごめんねー、ごめんねー」

 「わかった、わかったからとりあえず離れてくれ」

 「お願いねー、お願いねー」

 「あー、もうわかった。わかったから離れてくれ!」


 先生を泣き止ませるまでに数十分と、かなりの時間を費やし、肝心の学園合同の理由は未だ聞けずにいた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

次回に、学園合同の理由が明かされます。

今後ともよろしくお願いします!

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