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<<16 『殺人クラス』の問題児>>

 太陽が東の空から昇り始めたのだろうか。

 直接的な太陽の日差しを浴びたわけではないが、部屋の中が少しばかり明るくなっていた。

 そして、目覚ましらしき音が、音漏れという形で俺の鼓膜を見事に刺激する。

 その一日の始まりを告げる目覚まし音と共に、俺の意識は完全に覚醒を果たした。

 今日から罪人の集う学園の一員として、成績上位を目指す日々が幕を開けたのだ。


 --よし!もらった制服にさっさと着替えるか!

 

 貧民街出身者だった俺に、まともな服があるはずがなかった。

 制服は、俺の手持ちの中で最高額の代物だった。

 急に高額な物を手渡されて、興奮を抑えられないのも無理はない。

 それに加えて、一人の竜人を殺した俺は、こう見えても九歳の少年。

 制服を早く着たくて仕方がない年頃だったのだ。

 興奮状態のまま、その最高額の一品を手に取ろうとした時、事件が起こった。

 突然なことに、俺は起き上がることができなくなっていたのだ。

 平凡に暮らしていた日々に、急な異常が生じれば誰でも慌てふためくのが正常な反応と言えるが、興奮状態だったのにも関わらず、俺はなぜか冷静な判断ができていた。

 一見、大問題に見えるこの状況は、僅か数秒という短いスパンで解き明かされるのだった。

 

 「おい、セノア、何してやがる。ここは俺の領域のはずなんだが?」

 

 身をよじりながら唸るセノアは、俺の腕を使いながら寝返りを打ち、再び就寝についた。

 そしてしばらくした後に、スヤスヤと可愛らしい寝息を立て始める。


 「いや、起きろよ!あと、腕が凄く痺れてきたんだが!?」


 するとセノアは、ゆっくりと体を起こし、周囲の状況を確認する。

 未だ半目状態の寝ぼけている彼女に、俺は状況の説明を追求した。


 「なんでセノアが俺の布団の中にいるのか、説明してもらおうか」

 「ふぇ?ヘルゼアの布団に?私が?」

 「そうだ、別々に寝ようって約束したよな?」

 

 昨晩、俺と一緒に寝たがったセノアの誘いを、しっかり断ったことを鮮明に記憶している。

 決して、俺の勘違いではないことは確かだった。

 だがセノアは、頑なに自分の過ちを認めようとしなかった。


 「うん、約束したよ?だから私、約束守ったよ?」

 「いやいや、俺の布団に入ってきて何を言ってるんだ?」

 「ヘルゼアの布団ー?ここ私の布団だよ?ヘルゼアの布団はそっちにあるじゃん?」


 セノアが指さす方向には、確かに扉側の壁に沿って敷かれた就寝具一式があった。

 それを目にした俺の脳内に、昨晩の出来事が強制的に再生される。


 --あー、そう言えば、俺が扉側で寝るって言ったんだった・・・


 トラブルに巻き込まれそうになった場合は、「俺が何とかする」と言って壁際で寝ることを進んで提案したことを、よりにもよって今思い出してしまったのだった。

 思い出してしまった以上、セノアに非がないのは確かで、悪いのは確実に俺の方だ。


 「悪い、俺の寝相が悪かったせいみたいだな・・・」

 「本当だよ~、私は約束を守る女なのです。でも、いきなり布団に入ってきた時はビックリしたよ~、心臓が飛び出るかと。それにあんなことまでされて・・・」

 「え?」

 「え?」

 

 セノアの発言に驚きを隠せない俺だったが、同時に彼女も俺が記憶していないことに驚きを隠せないでいた。


 「ヘルゼア、あんなことしたのに覚えてないの?」

 「あんなことって、どんなこと!?俺、一体何したの!?」

 「ふーん、覚えてないんだ・・・そっかー、へえー」


 セノアの表情から窺うに、俺は飛んでもない禁忌を犯してしまったのかもしれない。

 少しばかり不機嫌になるセノアは、珍しく俺に指示を出してきた。

 その内容からは、俺のことをどう思っているかをしっかりと表していた。


 「ヘルゼアは、私以外の女の子と寝ちゃダメ!」

 「いや、寝るつもりはないけど、俺は一体何したの?マジで気になるんだが・・・」

 「それは・・・言えない・・・」


 不機嫌になったかと思いきや、今度は頬を紅潮させ、身をねじりながら照れ始めた。


 --本当に俺は何をしたんだ!?

 

 結局、俺はセノアにしてしまった過ちを聞き出すことができず、心中に残る申し訳なさはなかなか消えなかった。

 微妙な空気の中、制服に着替え終えた俺とセノアは、同胞が集う『殺人クラス』へと向かったのだったが、この時の俺は『殺人者』という罪人集団をかなり甘く見過ぎていたーーーー



~~~~~~~~~~~~~~



 --何だ?この空気は・・・


 セノアに案内されるがままに『殺人クラス』へと向かっていたのだが、空気があまりにも重々しい。

 『空龍王』の『龍魂』が、この重々しい空気に過剰の反応を見せている。

 この重々しい空気の波長を受け取った『龍魂』が、一体何に反応をしているのか見当もつかなかった。

 だが、一つだけ言えるのは、何か良からぬことが起こるのではないかという『予兆』だということ。

 俺は周囲を気にしながら、セノアと共に『殺人クラス』へと向かって行く。


 「ん?どうしたの?何かあった?」

 

 辺りを気にしながら歩いていれば、気に掛けられるのは当然だ。

 セノアに事情を話そうかと一度は考えたが、彼女の身の安全と心の状態を配慮した上で、その事情は俺の口から解き放たれることはなく、生唾と共に胃の中へと返されたのだった。


 「いや、何でもない。それより、あとどのくらいで着くんだ?」

 「あとねー、五分くらいかなー?」

 「俺たちの部屋から結構距離あるのな」

 「当然だよ、私たちはこの学園で最下層の竜人。クラスの近くで生活できるのは最上層の竜人だけなんだよ?部屋のグレードを求めるのは当たり前だけど、クラスの近くに住めることも、みんなが成績上位を目指す上での大きなポイントになってるんだよ。そうすれば、少しの時間ダラダラしていられるでしょ?」


 もの凄く納得のいく理由だった。

 俺たちは歩き始めてからすでに十分が経過している。

 その間、上級竜人たちは部屋でだらけているというわけなのだ。

 誰だって少しの時間でもいいからダラダラしていたいし、こんなに歩くのは嫌だろう。

 これが、階級社会の闇というやつなのだろうか。

 まあそんなことはさておき、話は振り出しに戻るが、クラスの方角へ行くにつれて空気の重さが着々と増しているのが伝わってくる。

 この重々しい空気の発生源は、『殺人クラス』なのだろうか?

 俺は発生源を『殺人クラス』と仮定し、周囲を警戒をしながらその仮定の真偽を確かめる。

 そして、セノアがピタリと足を止めたところで、俺の中で立てた仮定は、確信へと変わった。


 --間違いない、この部屋からだ。


 セノアが足を止めた近くの部屋から、今まで以上の空気の圧力を感じる。

 扉が一つしか取り付けられていないこの部屋が、恐らく『殺人クラス』なのだろう。

 もし、この部屋が『殺人クラス』でないとすれば、セノアがここで足を止めた意味がない。

 だが、一体なぜここまでの空気の圧が生まれているのか。

 険しい顔をする俺に、セノアがまるで人を紹介しているような形でこの部屋の説明をし出した。


 「この部屋が私たちが所属する『殺人クラス』。少し変わり者が多いけど、ヘルゼアは気にしなくていいからね?」

 「無論だ。どうせ皆、敵なんだろう?だったら仲良しごっこをしようとは思っていない」

 「それを聞いて安心した。でも、悲しく思ったのは何でだろうか・・・」


 苦笑いをしながら、セノアが『殺人クラス』の扉を開こうとした時、俺の心が今まで以上にざわついた。

 間違いない、『龍魂』が危険サインを出しているようなこの感覚、部屋の向こうに何かがある。

 そう思い至った俺は、すかさずセノアが手をかけるドアノブを抑えつけた。


 「え、どうしたの?・・・ヘルゼア?」

 「セノア、俺の後ろに隠れてろ」

 「え、でも私がヘルゼアをリードしないと・・・」

 「事態が事態なんだ、頼む・・・」


 俺の真剣な眼差しに、何かを汲み取ったのだろう。

 それ以上の抵抗はなく、指示通りにセノアはヘルゼアの後ろへと引き下がる。


 --この空気は間違いない・・・これは・・・『殺気』だ!


 そして俺が勢いよく扉を開けたと同時に、包丁のような刃物が三本、こちらへ目掛けて真っ直ぐ飛んでくる。

 セノアが先頭に立っていたら確実にやられていただろう。

 俺は飛んでくる刃物三本を眼前で静止させ、それを無抵抗で床に落とす。

 その一連の光景を目にしていた、厳つい高校生ぐらいの男が急に話しかけてきた。


 「殺したつもりだったんだけどなぁ~?お前か~?入園してきた生意気なガキってのはよ~?」

 「なるほどな、やはり俺を殺そうとしていたのか」

 

 そんな男との会話の最中でも、警戒は怠らない。

 教卓の近くには、話をしている高校生くらいの厳つい男がいて、視界の片隅にはその光景を見て不気味な笑みを浮かべている男が三人。

 どうやら、こいつらはこの男の共犯者ということらしい。


 「てめぇ・・・、ガキの分際で舐めた口聞いてっと地獄を見るぞ?」

 「ハハハ、ご冗談を。あなたが私に地獄を見せる?そんなことできるはずありませんよ」

 「ふざけてんのか?殺すぞ?」

 「はい?ちゃんとした丁寧な言葉で返したつもりなのですが~?あ~、すいやせんね~、あなたにはふざけてるようにしか聞こえませんでしたかね~?」


 俺は正直ぶっちぎれそうだった。

 だが、この場面で力を行使してねじ伏せても、こいつらはきっとこれからもちょっかいを出してくるに違いない。

 精神年齢が、いつしか俺が殺したガキと大差ないのだから。

 だからこそ、その身をもって痛感しなくてはならない。

 本当の地獄とは何なのかを。


 「随分とでけぇ態度を取るじゃねーかよ~。いいぜ、望み通り殺してやるよ?行くぞ!てめぇら!」

 「「「おうよ!」」」


 どうやら四人がかりで、ガキの俺を殺すらしい。

 この四人衆には、プライドという言葉はないみたいだ。

 だが、四人となれば、セノアが危険に晒される可能性は格段に跳ね上がる。

 彼女を守る手段となれば一つしかなかった。


 「セノア、そのまま部屋の外で待っていてくれないか?危険な目に合わせるわけにはいかないんだ」

 「で、でも相手は高校生だよ?ヘルゼア一人で勝てるの?」

 「セノア、あの日俺が言った言葉を忘れたか?」


 そう、セノアに向けて放った俺の真意。

 

 「子供とか大人とか関係ないんだよ。この世は弱肉強食。強い者は蹂躙し、弱い者は淘汰される世の中なんだよ。だから・・・大丈夫だ」

 「そうだったね・・・でも気を付けて?殺されないでね・・・?」

 「おう、部屋にロックをかける魔法を張るが、外からは簡単に開けられてしまうんだ。だからくれぐれも扉を開けないように」

 「わ、分かった・・・」


 俺を信じたからだろうか、それとも反論しても無駄だと思ったのだろうか。

 セノアは心配するだけで、それ以上のことは何も言わなかった。

 『空龍王』の魔法、『空間閉鎖』でこの部屋から一人足りとも逃げ出せない状況を作る。

 そして俺は、爆発寸前の怒りを抑え込みながら、粋がる男たちに宣言した。


 「お前ら・・・、楽に死ねると思うなよ?」


 

本日も最後まで読んで頂きありがとうございます!

ようやくヘルゼアが学園入園のところまで掛けました!

ここから沢山ざまあ展開が出てきますので、気になるようでしたら、ブックマークなどお願いします!

ちなみに、『空間封鎖』はロック魔法の中で低位魔法になります!

ヘルゼアがロック系の上位魔法をあえて使わないのは、男四人衆はこの程度で十分だと思っているからです!

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