<<13 実験対象は手ごろなやつに越したことはない>>
「あ、ようやく起きたね、気分はどう?大丈夫?」
目覚めた俺の視界の先には、この部屋を共有するセノアの姿があった。
セノアがいることに何も驚くようなことはないのだが、俺はふとある疑問を胸に抱いた。
--どうして俺はセノアを見上げてるんだ・・・?
言っても良いことなのかよくわからないが、彼女の鼻の穴が良く見える。
だが、美女という生き物は不思議なもので、いくら不細工を飾ろうとしても本質まではうまく隠すことができないのだ。
鼻の穴が見えていても、セノアは大変美しかった。
問いただしたい問題定義をすっかり見失った俺は、すっかりセノアの虜になっていた。
セノアを見入る俺の行動の何が面白いのか、彼女はクスクスと可愛らしく笑いながら告げる。
「そんなに私の膝枕が気に入ったのかな?このまま寝ちゃう?」
セノアの背後から見えていた日差しはすっかり姿を消し、真っ暗な夜空へとチェンジしていた。
見間違えることなく、俺がセノアに魔法をかけてもらう際には太陽の日差しは確かに差し込んでいた。
どうやら、俺は三、四時間程度意識を失っていたらしい。
俺はセノアの安い挑発にドギマギすることなく、ゆっくりと上体を起こす。
あまりの反応の薄さにセノアは頬を膨らませ、ポコポコと俺を殴りにかかってきた。
「少しは慌てなさいよ!どうして反応が薄いわけ!?膝枕だよ?男の子が大好きな膝枕だよ?少しは感謝してくれてもいいんだよ?」
感謝の言葉を要求するセノアを俺はガン無視していた。
決して意地悪をしているのではない。
本来の目的を思い出したのだ。
先ほどまで抱いていた疑問ではなく、それより前までに確かめたかったこと。
話を聞いてもらえずに俺の背中を叩き続けるセノアに俺は尋ねた。
「セノアが使える魔法って結局何なんだ?意識を完全に持っていかれたんだけど」
意識操作か、人の魔法を見出す能力か。
俺が意識の中であった出来事を魔法が関係しているというなら、このような魔法が妥当だと言える。
意識を操作して、俺の本来の力を羅針盤のように導いたのか、もしくは俺の中の魔法イメージを強く強調させ、俺に本来の力を自覚させたのか。
どちらも戦闘向きの力ではないため、セノアの魔法はどちらかで決まりだろう。
だとしたら、俺が考えるべき点はその後だ。
この力をどう役立てるか、それを考えなくてはならない。
どちらも共通して言えるのは、人の隠れた力を見出すということ。
それをどう戦闘に持っていくかが問題だった。
だが、セノアから放たれた言葉を受けた俺は、自分が酷い勘違いをしていたことに気づかされる。
セノアが得意とする魔法、それはーーーー
「そーんーなーこーとーよーりーもー、全部無視ですかー?酷くないですかー?」
「ん?何か言っていたのか?」
「はぁー、もう何でもないよ・・・」
呆れ返るセノアの口から、今度こそ使用した魔法が告げられた。
「私が使える魔法は、『睡眠』だけなの。触れた相手を一定時間眠らせるって言う魔法。ね?全然戦闘向けじゃないでしょ?がっかりしたでしょ?」
目に見えて落ち込むセノアだったが、俺は『睡眠』という魔法は戦闘向けではないと考えられなかった。
寧ろ、俺とペアを組んだことが功を奏していると思ったほどだ。
俺の脳内には、二人で成し遂げられるパーフェクトプランが思い浮かんでいた。
そのプランはお互いの手を汚すことなく、完膚なきまでに敵を圧倒できるものだったのだが、この作戦を実行する上で一番必要となるのは、俺に宿ったはずの『空龍王』の力が使えるかどうかだった。
意識の中だった以上、本当に龍王たちの力が宿ったのかどうかわからなかったのだ。
四大龍王がそれぞれ極めた魔法は、思い返そうとしなくても自然と頭の中に流れ込んでくる。
俺に四大龍王の力は本当に宿っているのか、それともあれはセノアに掛けられた『睡眠』で見ていた、ただの夢だったのか。
半信半疑の俺は、それを証明できる産物がないか記憶から必死に探した。
だが、龍王たちの力がどう再現されるのか、予想もできなかった。
もし仮に使用できたとして、効果範囲や被害規模を考えると、この狭い空間にいるセノアは必ずと言っていいほど巻き込みかねない。
俺が使用したい魔法は、目の前にいる敵に掛ける魔法だ。
使おうものなら、セノアに効力を発生させてしまう。
--あの夢を現実だと証明できるものはないものか・・・
『炎』は実証済みだから、何も得られるものがない。
--・・・ん?待てよ・・・?
色々と考えた末、俺は肝心な事を忘れていた。
なぜすぐに気が付かなかったのだろう。
もし、あの夢が本当かどうかを疑っているのなら、それはここで打ち切りにしてしまおう。
あの夢が嘘だというなら、お洒落に飾られたセノアの髪飾りは一体なんだったというのか。
『炎』という魔法と『物体生成』の魔法はどう考えても概念がかけ離れている。
もはや別物だ。
二つの事象を結びつける結論があるとすれば、それは『再現』で髪飾りや炎を作り出したとしか言いようがなかった。
--そうと決まれば、さっそく実験対象を・・・と言いたいところだが。
知っての通り、この場にはセノアという美少女しかいない。
セノアとの連携を試したいというのに、彼女が『空龍王』の力にかかっては意味がない。
どこかに手ごろな実験対象はないものか。
唸るように悩み込む俺に、セノアは悲しそうな顔をしながら話しかける。
「やっぱり、私じゃ足手纏いだよね・・・パートナーの変更は学園長に申し出れば変えられるけど・・・」
「俺がいつセノアとパートナーを解消すると言った?」
「え・・・?」
「俺がいつセノアとパートナーをやめると言ったのかと言ったんだ」
「どうして・・・?私、こんなにも役に立たない魔法しか使えないのに」
セノアは自分の魔法を『出来損ない魔法』だとばかり思っているようだが、決してそんなことはない。
確かに、接近して相手に触れなければ発動しない魔法は、あまりにリスクが高すぎる。
だったら、相手の動きを封じ込むことができれば?
セノアに接近させる余裕を作ることができれば?
パートナーとは、自分の負のポイントを埋めるために存在するものだ。
だから、セノアの弱点を埋めるのは彼女自身ではなく、俺だ。
セノアの欠点を俺が補えばいい。
そうすれば、俺たちはーーーー
「確かにお前の魔法は一人じゃどうしようもできない、無駄にリスクが高い魔法だ」
「だったら・・・」
「だが、それはあくまで一人だった場合の話だ。セノアの欠点を俺が補う、それが俺の役目だろう」
「で、でも・・・!、私はこの魔法でどうすれば・・・?」
「実験体がいれば、試すことができるんだけどな・・・」
俺が企てる連携プレーを実証するするには敵の存在は不可欠だ。
しかし、その肝心の適役がこの場には存在しておらず、俺たちは及第点を超えるために必死に考えた。
すると、タイミングが良いことに誰かが俺たちの部屋を軽くノックし、それに答えるようにセノアが扉を開けるとそこには二人の男が立っていた。
顔見知りということで、実験の適役に相応しいだろう。
それが重要な要件とも知らずにーーーー
「ヘルゼア、学園長が・・・」
「セノア、一旦そこをどいてくれ」
「あ、うん!」
俺は『空龍王』の魔法の中から、敵を束縛する魔法を再現しようとする。
両腕の黒鱗の間からスカイブルーのような色が発光され、力がみなぎってくるのが伝わってくる。
そして、一番前に立つ男を束縛するイメージを頭の中で持ち、俺はドラゴンの右腕を差し出すと共に魔法と使用した。
「空縛!」
すると、男は抵抗虚しく体の自由を奪られ、手足がまるで動かない状況に。
すかさず俺は、セノアに魔法を使用することを強要した。
「セノア、今のうちに『睡眠』を使うんだ」
「う、うん!」
相手が動かないかどうかビクビクしながらも、セノアは無事に男の頬へと触れた。
それと同時に、俺が『空縛』を解除すると、男は何も言うことなくその場で倒れ込み、気持ちがいいほどのいびきをかきながら眠りについた。
相当疲れていたのだろう。
「わかったか?セノアの欠点を俺が補えば、相手を簡単に無力化できるというわけだ」
「おぉ・・・おぉ・・・!」
声にならないほどの興奮状態に入るセノアの背後で、一人残された男が激しく取り乱した。
「ちょ!一体、一体何や、何やってんすか!学園長に呼ばれたから来たのに!何し、何して、何してんすか!まじで!」
「実験対象が欲しかったんで、彼が適任だと。大丈夫、死んではないので」
「そういう問題じゃないんですよ!どうしたら!どうしたらいいんでしょうか?持ち運ぶことなんてできませんよ!?」
「ガキの俺たちに聞くか?まあ、ベッドらしきところまで運ぶか」
「え!そんなことまでできるんすか!?」
「まあ、見ておけ」
俺は再び『空龍王』の力を呼び覚まし、ベッドがありそうな場所へと彼を一瞬でテレポートした。
その光景に、男とセノアは目を見開きながら驚いていた。
「う、うそ・・・」
「テレポートさせた奴がどこで眠っているかは分からないが、恐らくは百メートル圏内で寝ているはずだから安心しろ」
「あんたは!あんたは一体何者だ!?こんなレベルの高い魔法一体どこで・・・」
男にそう尋ねられたが、『龍魂』が自分の身に転生したことを口外せず、俺は一言「ただの竜人族さ」とだけ言って、男に案内されるがままに学園長の元へと向かって行った。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
今回はセノアが使用する魔法とヘルゼアが初めて『空龍王』の力を使用する回でした!
『空縛』は漢字の通り、空気の圧力で敵を縛るものになります。
『テレポート』は、対象物体を囲う空間と移動させたい空間を融合させて移動させるものになります。
なぜ、ヘルゼアは男に転生の話をしなかったのか?
龍王たちから受け継いだ記憶がカギになる・・・!?
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