表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/19

<<12 魔法を受ける、そして力を得る>>

 「ここがどこかは分かったんだが、失格っていう意味がまだよくわからないんだけど。そもそも俺とセノアが同室なのは何か理由でもあるのか?」


 セノアが俺と最初に交わした言葉の中に含まれていた『失格』という言葉。

 罪人の学園の発足までの経由までは知り得たものの、肝心の『失格』の意味は未だ聞けていなかった。

 それに、男女が同じ空間を共有するということは、何かしらの理由付けが必要になる。

 理由がないのなら、『男は男、女は女』で同性同士で部屋分けするからだ。

 『失格』という言葉に隠された意味とセノアとの同室の意味がよく理解できない俺に、彼女は躊躇っていたものを吐き出すように真実をありのまま伝えた。


 「この学園で、私たちは『テスト』されているの」

 「『テスト』・・・?」

 「そう、学園のルールを含めて、『チーム対抗戦』が主な判断基準になっているわ」


 ーーなんだそれは。


 学校って、魔法の使い方や対人・対魔の戦い方を教えてくれる施設じゃなかったのか?

 あまりにもかけ離れた学校というイメージに、俺は驚愕した。

 学校は一から学ぶ施設なんかじゃない、修得していることを前提条件としてひたすら訓練に励む施設だったのだ。

 そして、セノアは話を続けていく。


 「成績上位ごとに部屋のグレードが上がっていくシステムになっているの。だからみんな過度に上位を狙いにいってるってわけ」

 「なるほどな、同室同士の俺らは仲間で、他の連中はみんな敵って認識であってるか?」

 「そう、同室同士の私たちは仲間ってことになるね・・・」

 「そしたらさっきの『殺人』クラスってのはただのお飾りなのか?」

 「専属クラスを示すのに必要だったんだよ。だから同じクラスだったとしても敵ってわけさ」

 「そういうことか、そして俺たちの部屋のグレードは最下位ってわけか・・・」


 セノアから現状を告げられるまでもない。

 見たところベッドはないし、部屋の隅の方で敷布団が山のように積まれているだけ。

 それに加えて必要最低限の場所を確保されているだけだった。


 --最上位の部屋ってどんな感じなのだろうか?


 少なくても、俺が暮らしていた家屋よりはレベルが上だと容易に想像できた。

 何故なら、今まさにいるこの環境こそが同レベルだったからだ。

 そして俺は気が付けばこんなことを口にしていた。


 「『チーム対抗戦』はいつ行われるんだ?」 

 

 するとセノアは申し訳なさそうな顔で、


 「一週間後。でも私達じゃ無理だよ・・・」

 「やる前から諦めるなよ。グレードの高い部屋で住んでみたくないのか?」

 「住んでみたいけど、それ以前の問題なんだよ。言ったでしょう?使い物にならない私と組まされたんだからって・・・」

 

 過去に何かあったのだろうが、そんなこと俺には関係ない。

 本当にセノアが使い物にならなかったとしても、その分俺が頑張れば良い話なのだから。


 「セノアは何ができるんだ?魔法?それとも近接?それか別の何かか?」

 「私は魔法しかできないよ?近接なんて、とてもじゃないけどできっこない」

 「そうか、だったら俺にその魔法をみせてくれ」

 「え!?」


 部屋に響き渡るほどの、セノアの驚きの声が俺の鼓膜を刺激する。

 そんなセノアに、俺は何も問題がないような顔で対処した。


 「俺もここで魔法を使ったよな?だったら、問題はないだろう?」

 「で、でも、私の魔法は・・・」

 「いいから、見せてくれよ。使えるかどうかを判断するのはセノアじゃない、俺だ」


 そんな格好つけたようなことを言う俺に、セノアは小馬鹿にすることなく真剣な眼差しでこちらを見ていた。


 「本当にいいの?」

 「ああ、もちろんだ」

 「言いかけてたことだけど、私の魔法は対象に触れないと発動しないの。それでも・・・?」

 「問題ない。さあ、俺に見せてくれ」


 セノアの魔法で万が一、死んでしまうことがあったとしても、俺はボルクを殺したあの時から死ぬ覚悟はできていた。

 それに竜人のみならず、全ての生命はいつかは終焉の時を迎える。

 だとしたら、いつ死んでも問題はないだろう。

 そしてセノアは大きく深呼吸をし、心臓の鼓動に合わせるようにゆっくりと俺に近づいてくる。


 「本当に!本当にろくでもない魔法だから!」

 「ああ、俺に見せてくれ」

 「言っておくけど、私この魔法しか使えないから・・・」


 セノアの両手の平が俺の頬に触れた次の瞬間ーーーー

 

 --なんだ・・・これ・・・


 俺の頭の中に様々な映像が勝手に流れ込んでくる。

 その中には、どこか見覚えのある映像も。


 --これは、あの時見た複合夢か!でもなんで・・・だ?

 

 これがセノアの魔法とでもいうのだろうか。

 考える余裕すら与えないように、俺の瞼は眠たくもないのになぜか強制的に夢の中へ引きずり込もうと無理やり閉じようとする。

 それに抗うことができずに、俺の意識は途中で途絶えた。


 ~~~~~~~~~~~~~



 俺の意識は暗闇の中で覚醒した。

 辺りを見渡しても、続いているのは黒く色づかれた漆黒の海。

 そんな漆黒海のど真ん中に俺は立っていた。


 --セノアの魔法を受けたはずなんだけど・・・


 正直に言うと、セノアが俺の頬に触れた瞬間から全く記憶がなかった。

 だからここがどこなのか、ましてや何が起こっているのかも知らない。


 --死んだ・・・ってことはなさそうだな。


 なぜか不思議と、自分が死んだ気にはなれなかった。

 どちらかといえば、気を失った方に近い気がしていた。

 そんな曖昧な記憶しか残っていない俺の目の前に、光沢を放つ四つの光が互いに交わり合いながら、俺の方へと向かってくる。

 

 --なんだ?あれ・・・


 近づく得体の知れない物体に対して、俺の中で『逃走心』が芽生えることはなく、芽生え始めたのは物事に興味を示す『好奇心』だった。

 俺も光たちと同様に近づこうとしたものの、どうやら俺はこの場から動けないようだ。 

 まるで、底なし沼にはまってしまったかのような感覚だった。


 --俺はこの場で待機か・・・


 光たちがようやく俺の元まで辿り着くと、四物体はそれぞれ球体の形を変形させたのだ。

 その変形させた姿はいつしかの『大火災』で見かけた姿だった。


 「あ、あなた達は・・・」


 一人見覚えのないものの、他の三人を俺は知っている。

 一人は、仲間の方へ駆けつけるからここは任せたと言って走り去っていた男で、もう一人は燃え盛る俺の家を必死に鎮火しようとしてくれた女。

 そして一人は、俺の家族を助けるため、一人火の中に飛び込んでいた勇猛果敢な男だった。

 この四人のことを俺はよく知っている。

 あの日、水髪の女の人の口から直々に言われたのだから。

 俺が彼らと言葉を交わした馴れ初めとして、まずはあの日の『大火災』のことを話すのだろうと思っていた。

 しかし、彼らは『大火災』の日をまるで知らないような口ぶりで話し始めた。


 「俺の龍魂『炎龍王』を授ける」

 「私の龍魂『水龍王』を授けます」

 「俺の龍魂『土龍王』をお前に授ける!」

 「ボクの龍魂『空龍王』を君に授けよう」


 順に言いたいことを言い終えた龍王から、再び光の球体となって姿を消す。

 

 「は?いやちょっと待てよ!あの女の人が言っていた龍魂が、全部俺に宿るのかよ!」

 

 罪人が正義のために活躍した彼らの力を貰っていはずがない。

 最後に球体になろうとしていた『空龍王』ゼクス・シードが言葉を放つ。


 「君じゃないといけないんだよ。君だけが持っている物体生成魔法『再現』だけがボクたちの力をフルで活用できる」

 「は!?魔法って妄想で全てできるんじゃないのか!?」


 この世は魔法でできているとばかり思っていた。

 だが、彼女の話が本当ならーーーー


 「それじゃあ、あの『炎』の正体って・・・・」

 「そうだ、あれは俺の『炎龍王』の力だ」


 球体になったはずの『炎龍王』が再び姿を現し、同時に『空龍王』は球体となる。


 「お前は無意識のうちに俺が極めた『炎』を使っていたんだ」

 「極めたって・・・それじゃあ、ボルクの『火』と桁違いに火力が違かったのって」

 「ああ、魔法が多様化した竜人に俺の『炎』が負けるはずあるまい」

 「魔法が多様化・・・?」

 「そこからは私が話すよ」


 そして『炎龍王』は再び球体となり、代わりに姿を現したのは『水龍王』だった。

 彼女は姿を現すなり、竜人族の歴史について語りだした。


 「昔はね、『極める者』と呼ばれるくらい竜人族は一つの魔法概念に執着していたの」

 「でも、今はそんなの・・・」

 「ええ、私も驚いた。私たち『龍魂』は転生する前までの記憶しかないから、この転生期間に何があったのか・・・」

 「そんなの決まってらあ、あの大賢者の仕業に違いねえ!」

 「ちょっと!まだ私のターンよ!」

 「俺も後継者と話がしてーんだよ!早く代れ!」


 『水龍王』は頬を膨らませながら、球体へと姿を変形させた。

 そして最後に残ってのは『土龍王』。俺の家族を助けてくれようとした竜人だ。


 「お前が俺の後継者か!なかなか良い面構えじゃねーか!」

 「は、はあ。どうも・・・」

 「話はさっきから聞いていたが、お前が俺たち四人に選ばれた理由。それはお前だけが『再現』を使えるからじゃない!お前だけが『再現』を使えて、それ以外の魔法が使えないからだ!」

 

 俺は物体生成魔法しか使えない。

 ということは、物づくりしかできない・・・・と。

 四大龍王の力がなかったら、タダの役立たずだったじゃないか。

 そんなことを思いながら、俺は『土龍王』に笑って答えた。


 「一つの魔法しか使えないって、完全に俺は昔の『極める者』にピッタリな男なんですね」

 「だから俺たち四人に選ばれたんじゃねーか!全く、多様化に何の意味があるのやら・・・あの大賢者め・・・」

 「竜人族が大賢者から力を与えてたと・・・友達が言ってたんですが?」


 すると『土龍王』は目を見開き、息を切らしながら、


 「なに!?俺たちは奴らに力を与えてくれなんて頼んでないぞ!?俺たちが結んだのは同盟だ!」 


 その『土龍王』の言葉を受けて、俺の中の記憶が鮮明に教えてくれる。

 セノアとの対談の際に、しつこいほど流れていた言葉を。


 --そうか、あの時聞いた声って・・・


 俺が全てを理解する前に『炎龍王』が姿を現し、


 「どうやら、大賢者は俺たちを騙したようだね?」

 「クソ!あの野郎!誇り高き竜人族の歴史を変えやがって!」

 「そうだ、大賢者は俺たち龍王との約束を破った。いかなる事象が発生していたとしてもその罪は万死に値する」

 「「だから・・・」」


 半端な言葉を最後に、二人は姿を球体へと変形させ、勢ぞろいした四つの球体が俺にゆっくりと近づくと、渦に呑み込まれたように激しく吸い込まれていく。

 彼らの記憶も同時に受け継がれているのだろうか。

 昔に起こった出来事、約束事、そして魔法。全てが手に取るようにわかる。

 そして、彼らの強い意志が俺の心に突き刺さる。


 「「「「変えられてしまった歴史を、その手で取り戻せ!」」」」


 その言葉を最後に俺の意識はセノアの元へと戻っていった。

 

最後まで読んでいただきありがとうございます!

ようやくヘルゼアが無敵キャラとなりました!

ヘルゼアが四つの龍魂に選ばれた説明を書くのに相当な時間を有しました・・・

今に伝わる間違えられた歴史、そして四大龍王たちの意思。

ヘルゼアは奪われた歴史を取り戻し、魔人族に対抗できるのか!?

そして、セノアが得意とする魔法とは!?

引き続きお楽しみくださいませ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ