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<<11 同部屋の美少女は全てが一流らしい>>

 『大火災』の放火犯であるボルクを焼き殺した俺は、とある施設へと連れてこられていた。

 その施設は貧民街に建てられていた住宅とさほど変わりはなく、今にでも壊れてしまいそうなほどのおんぼろ施設だった。


 --俺は・・・殺されるのか・・・?


 この施設で一体何が行われるのか、先ほどの二人に問いただしても終始黙っているだけで教えてはくれなかった。

 まあ、一人の竜人を残虐に殺したのだから極刑が言い渡されても仕方がないだろう。

 だが、実際はそんなことはなかったのだ。

 俺が二人によって連れてこられたのは、木造でできた古びた扉が備え付けられている一室だった。

 拷問室・・・?という雰囲気を漂わせている部屋でもなく、ましては死刑部屋・・・?という雰囲気でもなかった。


 --ここは一体・・・?


 その部屋に関しての告知は一切なく、そんな俺を差し置いて二人のうちの先輩の方が扉をゆっくりと開いた。

 すると扉の先には女神だと一瞬思ってしまいそうなほどの美少女の姿があった。

 年は俺より少しだけ上だろうか。

 黒の長髪を真っ直ぐに手入れされており、差し込む僅かな日差しでさえも彼女の髪には

天使の輪が映し出されている。

 そして、アンバーの瞳から放たれる威圧は、まるで野原に蹂躙する狼のようだった。

 髪飾りを一切つけていない彼女が、髪飾をつけたら一体どんな雰囲気になるのだろうと、俺は無意識に妄想していた。

 気が付けば俺の手の中には、彼女に良く似合うと思っていた髪飾りが。


 --これ・・・ばれたら没収されるよな・・・


 殺人者が作ったものが警戒されないはずがない。

 バレれば没収確定コースだ。

 だから俺は必死に隠し持った。


 「さあ、この部屋に入りなさい」


 俺はこの先輩の言動に違和感を覚えた。

 普通、殺人者に向けられる態度は、こんなに優しいものではないはずだ。

 まるで汚物をみるような目で見降ろし、罵倒を口にするはずなのに、彼の行動や言動には一切それがない。

  

 --俺の考えすぎか・・・?


 俺は大人しく先輩の言うことを聞き、部屋へと入室した。

 この部屋の内部構造は、せいぜい二人暮らしの部屋レベルで狭かった。

 故にこの部屋には彼女しかない。

 馬鹿な俺でもこの先の展開は読めていた。

 俺が入室したのを確認した先輩が一言、「ここがどこなのか、何をするところなのか、親睦を深めるという意味で彼女に聞いてみるといい」とだけ言い残し部屋を閉めた。


 --おいおい、マジかよ・・・


 一応念のため扉の施錠確認をしてみると、どうやら施錠はされていないらしい。


 --趣旨はここに閉じ込めることじゃないのか・・・?


 ますます二人が一体何をしたいのかわからなくなってきた。

 そんな哀れな程に困惑する俺に彼女は話しかけた。

 透き通る綺麗な声で、


 「閉めておいた方がいいよ。失格になっちゃうから」

 「失格・・・?一体ここは何をするところなんだ?」

 「聞いても君が失望するだけだよ?なんせ、使い物にならない私と組まされたんだから」


 先ほど放たれていた威圧感は綺麗に無くなり、今は俺に申し訳ないと言わんばかりの悲しそうな表情をしていた。

 俺は前にも言った通りの恋愛初心者だが、彼女に悲しそうな顔をさせてはいけないと本能が叫んでいる。

 どうせ、全てを投げ捨てた上でボルクを殺人したのだ。

 今更、面倒なことを押し付けられたとしても何も思わないのが正直な気持ちだった。


 「俺は人生を捨てた身なんでね。今更何を聞こうと何とも思わねーよ」

 「そうか、それじゃあ話すね。ここは・・・」

 

 思い詰めた表情で彼女は告げた。


 「--罪人を集めた学園なの」


 俺は彼女の一言一句を理解するのに数分の時間を有したのだった。

 そして、ようやくリアルタイムに思考が追い付いたところで俺は彼女に尋ねた。


 「罪人の学園?一体何のために?」


 罪人を生かして置く価値が一体どこにある?

 この竜人の世界には『焔学園』の他にも三つの学園が存在してるとシュゼリーの父親が言っていた。

 罪人を集めた学園など必要ないと思うのだが?

 罪人の学園の存在意義に異を唱える俺に彼女は存在する理由を示した。


 「少し昔、人間の勇者と呼ばれる英雄が魔の化身である魔人族をその身を代償に封印したと言われているわ。だけど、その封印も何年もの時が経過してしまえば解かれてしまう。だから人類の脳と言われた大賢者様が私たち哀れな竜人族に力を与えてくださった。そしてそれと同時に戦力確保を指示したの」

 「少しでも戦力が欲しいから罪人を残す・・・ということか」

 「そう、罪人なら気を負うことなく戦場に送り出せるから、学園という訓練場を罪人にも設けたってこと。一般竜人を罪人の学園が別々なのは、共同だと世間体を気にする竜人がいるからって言う理由さ」


 何とも身勝手な話だと思うが、強制的に殺されるよりかはまだマシだろう。

 俺は、彼女が語った『罪人の学園』の存在意義に対して、合点がいったかのように頷いていると、突如頭の中で声が流れた。

 若い男の声で、何度も何度もその言葉だけがリピートされる。


 ーー人間族と竜人族で同盟を結びましょう・・・


 この言葉を俺は聞いたことがない。

 彼女にも聞こえているのかと窺ってみるものの、どうやら彼女には聞こえていないようだった。

 振り払いたいほどに、何度もリピートされる声をどうすることもできずに、俺は気にすることなくスルーの方向で方針を立てた。


 「一応、学園の生徒だから扉にも施錠をかけていなかったんだな?」

 「まあ、この扉は内側からしか鍵を掛けられないからね?だから内側から鍵を閉めれば、何をしてても邪魔されないんだよ・・・?」


 そう言いながら、扉のロックをガチャリをかける。

 彼女の表情から不気味な笑みが止まず、俺はこの時初めて彼女の内側から発生する恐怖をその身で感じた。

 間違いなく、このままでは狼に喰い殺されるように、俺も喰い殺されてしまうだろう。

 後ずさりする俺に容赦なく近づく彼女。

 そして事件が起こった。


 「--っちょ!なんでいきなり抱きつくんだ!?」

 「えー、だってこの腕に興味があったからさー」

 「だからって抱きつくことはないだろうが!」


 俺の腕に彼女がいきなり飛び込んできたのだ。

 ドラゴンの腕でも人並の感覚はあり、服越しの彼女の体温ももちろん伝わってくる。

 抱きしめながらドラゴンの腕を隅から隅まで触ってくるむず痒さに耐え切れなくなった俺は、ついに手の中に秘めていた秘宝を手放してしまった。

 当然、腕を調べ上げていた彼女の視界には入るわけで。


 「ん?なにこれ?」


 そう言いながら拾い上げる彼女の姿を見て、俺はどうしようもないほどに頭が混乱していた。

 

 --いや、なんて説明すればいいんだ・・・!?


 今日初対面の彼女に、「この髪飾りが似合ってたから妄想で作っちゃった!」なんて言えるはずがない。

 彼女からしたらドン引きレベルだ。

 理由付けを考えている俺の頬を指先でツンツンと突きながら、


 「これ、どうしたのかなー?女の子の髪飾りだけど?」

 「あ、これは・・・だな・・・友達の女の子にプレゼントしようと思っていたやつで・・・」

 「君、ここに来る前に殺人を犯したんだよね?だったら変じゃないかな?普通なら殺人を犯す前に渡すよね?だって犯罪の途中なら汚れちゃうでしょ?それはどう説明するのかなー?」


 完璧な推理だった。彼女の頭のキレは認めざるを得ないだろう。

 だが、俺にもこの状況を切り返すだけの切り札がある。

 それは彼女の言葉の中に隠されていたある言葉。 

 俺はそれを彼女にストレートに伝えた。


 「なんで俺が殺人を犯したってわかったんだ?」

 「これは逃げたってことでいいのかな?」

 「そんなことはどうでもいい!それよりなんでわかったんだ?俺は何も言っていないはずだが?」

 「それはだね・・・、君が『殺人クラス』に入ったからだよ?」

 「・・・・・・は?」


 俺には全く身に覚えのないことだった。

 学園入りを果たしたのは彼女の話から薄々わかっていたのだが、そんな悪名のクラスに入ったつもりはなかった。

 そんな俺に納得がいくように彼女は説明しだした。

 

 「この部屋を含めた一帯は全部『殺人クラス』の生徒なんだよ?君と同じ罪仲間というわけさ」

 「仲間・・・てことは、お前も殺人を・・・?」


 『殺人クラス』専用の部屋に入室しているということは、彼女も紛れもない殺人犯だということ。

 そんなことを承知の上で俺は彼女に尋ねた。

 だが、彼女から帰ってきたのは予想外の返答で、


 「いや、私は殺人を犯していないんだ」

 「は!?それじゃあなんでお前はここに?」

 

 殺人犯でないのなら、彼女がここにいる意味が分からない。

 そして彼女の口から語られたのは、どうしようもない竜人の口合わせによる悲劇だった。


 「私、両親から濡れ衣を着せられたんだよね。両親がある竜人を殺して、それを私に擦りつけた。よくある話だよ?親が子供を利用する話なんて・・・」

 「いや、どう考えてもおかしいだろ!もう一人も二人も関係ねぇ。俺がお前の両親を殺してやろうか?」

 「君の手を汚すことでもないよ。それに、私の両親を殺したところで私は解放されないよ」


 普通に考えればそうか。

 彼女の両親を殺したところで、彼女に被せられた濡れ衣が晴れるわけでもない。

 

 「お前はそれでもいいのか?濡れ衣を着せられたままこんなところにいてさ」

 「実は前にも試したんだ、両親から濡れ衣を着せられたって。でもまともに取り合ってはくれなかったよ。この場から逃げ出したいだけの嘘をついていると思われているだけだから」

 「それじゃあ、そいつを納得させればお前は解放されるのか?」

 「どうかな・・・・って!ちょ!どこに行く気?」

 「そのわからずやの所へ行くんだよ。さっさと案内してくれ」

 「いや、無理だって!第一どうやって対抗するの!?」

 「俺は魔法が使えるからな」


 そう言うと、俺はどや顔をしながらベクトを殺した『炎』よりも小さめの『炎』を手の平に出した。

 珍しいものでも見たのか、彼女は俺の手のひらに一点を集中させながら、


 「君は『火』を得意とする竜人だったんだね?だけど、この火力じゃ彼には敵わないと思うな」

 「まあ、これが最大火力じゃないだがな」


 最大火力を見せつけたかったところだが、周りに置かれている物を燃やしかねない。

 もちろん、彼女のことも。

 立ち上がっている俺のボロボロの袖を掴みながら、彼女は思いを告げた。


 「いいの、濡れ衣を着せられたままでも・・・だってこーんなに良いプレゼントをもらったんだから!」

 

 彼女は最高級の笑顔で、ずっと手にしていた髪飾りを俺の目の前に突きつけた。

 暗い過去を聞いた上で、「それはお前のために作ったんじゃない!」と言う勇気もなく、俺は素直に打ち明けた。


 「実は、お前を見た時にその髪飾りが似合うなって思って・・・俺は想像したものをその場で再現することができるんだ」

 「へぇ~?やっぱり私のためだったんだ?」


 からかうように下から覗きこむ彼女に、俺は目を合わせることすらできなかった。

 死んでしまいたいぐらい恥ずかしいから。


 「でも・・・そっか、ところで君の名前は?」

 「俺?俺はヘルゼア。ヘルゼア=ボルテギウンだ」

 「ヘルゼア・・・うん!わかった!」


 そして彼女は、金木犀と思われる花飾りをつけた髪飾りを後頭部につけ、


 「ありがとう!ヘルゼア!私はセノア=リンカ!よろしくね!」


 その可愛らしい笑顔を目の前にして、顔を赤く染めないやつはいないだろう。

 俺も例外に漏れることなく、頬を赤く紅潮させ、この二人の共同空間に心躍らせるのだった。

 

本日も最後まで読んでいただきありがとうございます!

読者様が知っている通り、過去に起こった大賢者とのやり取りに矛盾が生じているのです。

どうして矛盾が生じてしまったのか。

それを考えながら読んでいただけると、楽しく読んで頂けるのではないかと思います!

そして、セノアが口にした「失格」の意味とは・・・

次回作で、真相が明らかになります!

今後ともよろしくお願いします!


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