昔の仲間
突然、娘が二人も出来た。人生設計をしないとダメかな。このままでは、終末の日まで寝ていることは出来ないだろうな。ハイエルフの血を継ぐリンドには魔法を、勇者の血を継ぐアイリスには剣を教えていく。実戦は、どこかのダンジョンで積めばいいかな?
問題は寝る時に、娘二人が僕の寝床に忍び込むことだな。基本、僕は爆睡タイプなので、寝ると緊急事態以外、目覚めることが無いのだが、夜這いはその域に達しておらず、いつ間違いが起きてもおかしくないことだ。結界を張って寝たこともあったが、翌日二人の機嫌が良くないので、結界での対策は没になっている。娘に無視されることって、僕にダメージが入るのであった。
「お父さん…下着が欲しい…」
恥ずかしそうにリンドが、モジモジしながらそう言ってきた。そういえば、着替えがあまり無い。街に買い出しに行くか。娘達と一緒に、近くの街の知り合いの部屋に転移した。
「お、お、お前…部屋に直接転移するなぁぁぁぁ~!」
部屋の主、サッキュバスのサリーが大声を上げた。朝から、セルフをしていた。流石は、サッキュバスだ。性欲が強いのだろう。このサリーは僕の所属していたパーティーのメンバーで、ジョブは盗賊からのアサシンである。現在は、王都一の娼館のマダムをしていて、割と裕福な立場である。
「なぁ、頼みがあるんだ。娘達に、寝間着と、下着と普段服を数点見繕ってくれないか?」
「おい…10年ぶりの再会なのに、いきなり用件かぁぁぁぁぁ~!」
サリーは朝から元気だな。羨ましい。僕は夜行性な為、朝弱いのが難点であるのだ。
「娘って?誰とのだ?」
二人の娘を見て考え込んだサリー。
「緑髪のハイエルフは、アイツの妹だろ?銀髪の精霊だと、あのクソ勇者の子供か?」
さすがはサリーだ。女を見る目は確かなようだ。
「分かった。配下の者に買いに行かせるわよ。で、女王には会わないの?」
「会う理由は無い」
ここの女王は、僕のいたパーティーのメンバーで、ジョブは鞭使いだったっけ。そうそう、鞭を打たせたら名人級とまで言われたっけ。
「そうだ。カイトの処に行って来よう。娘達を頼めるか?」
「いいけど…」
「じゃ、頼むよ」
昔の仲間のカイトの元へと転移した。カイトは堕天使のテイマーで、今では王都で奴隷斡旋の仕事をしているのだ。
「シュウ…封印を解かれたのか?」
「うん、まだ寝たり無いけどね」
カイトに事情を話し、本題を切り出した。
「娘達の育児に、メイドが欲しいんだけど…いい物件は無いかな?」
「いい物件?性格が温厚な女性か?」
「ダメなことはダメって言える方が良いかな。種族は人間以外で頼む」
人間は寿命の問題でダメである。人間は短命であるのだ。他の種族は100歳で若造であるが、人間だと100歳まで生き延びるのが難しいのだった。
「訳あり物件でもいいか?」
「どんな訳ありだ?」
「犯罪奴隷…主を殺して逃亡していたのを捕縛したんだけど…」
奴隷が主を殺すのは難しい。奴隷には奴隷紋という主との契約封印が為される。その契約には主に危害を加えないなどのルールが埋め込まれているのだ。それ故、並大抵の精神力では主は殺せない、いや怪我すら与えられないのだ。
「種族は?」
「猫人だ」
性的な奴隷だったのか?
「三姉妹なんだが、末の妹には手を出さないって契約だったらしいのだが、主がソレを破ったらしい」
「それは、主が悪いだろ?」
「そうなんだが、人間って自分の悪さを認めないから…」
カイトが、三人の元へ僕を案内してくれた。檻の中に、奴隷の首輪という魔具を嵌められた少女3名がいた。銀髪、黒髪、白髪の3姉妹…皆身体に欠損があるようだ。これって…
「カイト…彼女達は猫人じゃないぞ。ナインテールだ。それぞれ8つの尻尾が欠損しているようだ」
「えっ!あのクソ貴族…俺を騙したのか…」
奴隷の首輪に種族偽装の呪術が埋め込まれていたのだろう。専門家のカイトの目を潜るとは、売った貴族はクソだな。ナインテールの奴隷化は禁止されていて、取引自体もアウトである。絶滅危惧種族であるのだ。ワンテールと言われる狐人も絶滅危惧種族であるが、その中でも9本の尻尾を持つナインテールはイレギュラー種で、最重要保護種族で、必ず保護すべき種族とされていた。しかし、保護を奴隷と読み替える人間が多発しているのが問題であった。ナインテールの尻尾は、高額取引物品になっていることもあり、闇で奴隷取引されているそうだ。
三人を檻から出し、ケツを出させた。命令に逆らえず嫌々であるが、ケツを僕達に見せた。見たところ、毛根は残っているようだ。毛根に対して、『修復』『治癒』をしていく。彼女達を貰って、気長に修復してあげるかな。
「この三人を貰う。いくらだ?」
「シュウから金は取れない。クソ貴族から貰うよ」
『封印無効』により、彼女達の奴隷の首輪を外していき、それぞれに名前を与える。新たな名前は、奴隷の身分を無かったことにしてくれるのだ。
「お前達に名を与える。今後、シルバニア、ブラッキー、シルクを名乗るが良い」
「え…いいんですか?尻尾の治療費…払えないですよ」
長女らしいシルバニアが声を上げた。
「僕の家のメイドをしてくれ。娘が二人いるんだけど、僕の目は節穴過ぎて、どうしてあげれば良いのか、わからない。君達なら、任せられる」
大人のメスの喜ばし方は知っているが、子供の喜ばし方は分からない。
◇
新たに出来たメイド3名をサリーに預け、雑用を頼める執事をスカウトしに、神殿に向かった。執事になる人材に心当たりがあるのだ。神殿の巫女長の部屋へ転移した。
「ここは男子禁制ですよ。シュウ様…何度言えば、理解してくれますか?」
以前会った時よりも、顔に皺が目立つようになってきた女性、リリアン。僕のパーティーメンバーでアーククレリックだった者だ。現在は神殿の巫女長をして、後継を育てているそうだ。
「正面から入ると、神殿が壊れるけど…」
「はぁ~、そうでしたね。神殿の結界を破壊しまくるのは、相変わらずなのですね」
ため息を吐かれた。或る意味、この神殿に奉っている神は、僕の敵だし。正面切っての潜入は、テロ攻撃になりかねない。
「今日は、どうのような用件ですか?」
「預けてあるヤツを引き取りに来た」
「うん?終末の日が近いのですか?」
「いや、雑用係を頼める執事が欲しいんだよ。アイツ、ボディーガードにもなるし」
リリアンに、娘達のこと、ナインテール達のことを話した。
「なるほど…ならば、王都で暮らしませんか?娘さん達、学校へ通わせないとダメですよ」
言われて見れば、10歳であるならば、学校へ通わせた方が良いか。ここの王国は亜人差別が少ない。亜人が学校へ通う事は禁止されていない。一部の横暴な貴族は、どこの国にもいるし。まぁ、横暴には理不尽で対抗すれば良いだけだし。問題は少ないか。
「王都の家?持っていないけど」
「王女様が下さった家があるでしょ?爵位をもあるでしょ?」
あぁ、元パーティー仲間の恩儀で、くれたような。そうなると、王女に会わないとダメか?