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「よっしゃ行きますかー」
西島圭のかけ声とともに放課後、予定通りカラオケに集合ということで僕もみんなと一緒にカラオケ屋に向かうことにした。
メンバーはお誕生日で主役の高木、西島圭、田中、宮本、星野、そして僕。
田中と星野はクラスが違ってたまに昼休み遊びに来てるなーこの人たちというくらいの印象だった。
この六人で一緒にカラオケに行くことになるとは思わなかったが、高校生活でいわゆる友達ってやつと最高にわちゃわちゃして遊んだ日となるだろう。
最初は嫌な気持ちもあったけど大して話したこともない暗い僕みたいな人間にも結構話しかけてくれて時間がたつとこれが青春かって思うようになった。
話題のゲームの話だったり、モノマネしたり…楽しくて次第に自然に大爆笑した。
こいつらともっと早くこうなるべきだったとか考えたりした。
ほかのだれかと一緒に何かを楽しむということを忘れた僕にとって久しぶりに大事なことを思い出した。
そして大好きな圭の横顔やちょっとアンニョイ気味な目。
仲間といる瞬間は青春真っただ中というようなわちゃわちゃした雰囲気と大きい笑い声。
西島圭と付き合えなくたっていい。
ただどうしようもなくクソ楽しい今が永遠に続けばいいと思った。
「あ、そういえば…放課後いーっつも何してるの?」
高木が唐突に誰かに話しかけた。
僕はメロンソーダを飲むのに必死だったが、隣に座っていた宮本に肩をトンっとされ僕に言っていることに気が付いた。
「え?放課後…何もしてないけど…」
何でそんなことを聞いてくるのか分からなかったが、その後すぐに何を言いたいのかわかった。
「だからー、西島のタオルに顔うずめて何してるの?」
まさか僕が西島圭のタオルを嗅いでいることを見られていただなんて。
一瞬でその場が凍り付いた気がした。
そして誰よりも帰りたいと思った。
「…あ、ははは。まさかみられていたなんて思わなかった…。」
うまい返しが見当たらない。
この沈黙した空間をどうにか変えたいけど何も思いつかない。
久しぶりに飛ぶことが出来た鳥が浮かれて飛びまくって、そこを鉄砲で撃たれて知らぬ間に下へ落とされた気分だ。
「え?俺のタオル嗅いでたってまじ?嘘だと思ってた」
「な?だろう?俺何回も見かけたし。でもなんも言わなかったけど。」
どうやら僕は純粋にカラオケを楽しみにしていたが、こいつらはそうじゃなかったみたいだ。
僕が誘われた本当の理由はこのためだったんだろう。
夢のような瞬間はあっという間に消えた。
「お前…ゲイなん?ま、まさかな…(笑)」
冗談に済ませたい高木は動揺しつつも僕の本心を突いてくる。
その瞬間何とか冗談にしたい僕は必至で笑顔を取り繕った。
「そ、そんなわけねーじゃん(笑)第一あれはただ暑くて汗ぬぐうのにちょうどいいタオルが前の席にあったってだけ!ははは」
「……」
その場で必死に思いついた嘘はそんなもんだった。
でもその時思ったことは、高木は気づいてる。
僕がゲイだってことを。
高木の目は一切笑ってない。
この場にいることはもういたたまれなくなって、僕は帰ることにした。
僕を止める奴は誰もいなく、多めにお金を置いて無言で去るという悲しい結果になった。
次の日の朝、学校に行くのがこれほど嫌な日はなかった。
ベッドでギリギリまで寝て遅刻した。
学校に着くなり何事もなかったように席に着き、いつも通り2限の授業が始まった。
そして三限になり移動教室だった。
その時、たまたま廊下で昨日のメンバーとすれ違った。
僕は何を思ったのか「おはよう」と声をかけた。
まだみんなに期待していた自分がいた。
「……そんでさー」
でも虚しくも無視され他の友達とずっとはなしたままだった。
何も話しかけられず、まるで他人のようだった。
そして一瞬だけ西島圭と目が合った。
西島圭だけはいつものアンニョイ目をしていたが僕と目が合った瞬間そっぽを向き一気に無表情になった。
完全に嫌われた。
また友達を失ってしまった。
好きな人の笑顔さえもう見れないのだ。
その日からだろうか、僕は学校を遅刻、早退しだし、最終的に登校拒否になった。
そのうちにまた父親の転勤が決まり、僕はこの学校を去った。
それからというもの、西島圭には一度も会ってはいない。
もう何も失いたくないと思った僕は完璧な自分を作ることを決めた。
そうやって完璧な大人になっていくんだと頭に言い聞かせた。