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「ねぇ、何でいつも本読んでるの?」
前の席に座ってる西島圭は唐突に僕のほうを振り返ってきた。
その時の僕の心臓の高鳴りと言ったら飛び上がるほどびっくりしていた。
唐突すぎてなにも声に出せない自分がいた。
「……え…そりゃ、本が好きだから」
少し考えたが、シンプルにそう答えた。
だってそれ以外に答えなんてない。
本が嫌いなのに読むやつなんていないだろう。
「へぇー。俺本読むの苦手。ははは」
クールな西島圭は、意外におちゃらけた雰囲気もあった。
カラッとした感じの笑い声とクシャっとした笑顔、風でなびく髪、yシャツ。
考え方が単純であんまり人生とか深く考えてないように見せておいて、不意に見せる本気な目。
人の心の中には入っていくけど、自分の心の中には誰も入らせなくて、抜け目のない男。
楽々と人生を歩んでるように見える彼は僕より焦ったこともなくていつも心に余裕があるんだろう。
きっと彼は人たらしで世渡り上手な持ち前の気質で大人になっても余裕綽々と生きていくんだろうなと想像がつく。
「今日さ、高木のお誕生日会やるんだけど良かったら来てくれない?」
「……は…い?」
「いいのー?やったー」
「え、いやそういうことじゃなくて…」
「だめなの?」
「あ、いや…」
「やっぱいいんじゃん笑、今日の放課後最寄りのカラオケに集合な!」
僕に、はっきりとした有無を言わさず彼の解釈で勝手にクラスメイトの高木君のお誕生日会に参加することになった。
西島圭ならまだしも、高木君とはほとんど話したことがない。
何で僕が呼ばれなきゃならないのか全くわからない。
でも西島圭と話し終わったあと、自分の広角が上がってる事に気がついた。
ニヤニヤした自分の表情が想像できた。
そう、単純に嬉しかったから。
でも、そんな自分が周りに見られてる思うと何か怖くて嫌で、アホみたいだが必死で口を隠したりタコみたいに口を尖らせたりした。
そして西島圭に誘われたことで本なんて一瞬でただの紙切れになって、もうそのあとは何も頭に入ってこない。
全てがどうでもよくなってしまうのだ。
あーこれが恋ってやつか。
こんな風にさせたのは西島圭だけだ。