3 戻らないの?
田川蓮慈視点
高校の友達と飲んだ後、酔って家に帰ってきてベッドで寝て、そして朝になって目が覚めた。
実家の自分の部屋で一人で起きるのだと思っていたので、俺を正面から抱き込んで横になっている秋亮さんと目があってちょっとビクッとしてしまった。
「蓮おはよう、どうしたの?」
と挙動不審な俺を秋亮さんは心配そうな顔をして覗き込んでくる。
「えーっと、目が覚めたら秋亮さんがいたから……いつもなら母ちゃんが居たのに」
秋亮さんが「ふふっ」と笑って「どうしたの? お母さんって‥…寝ぼけているの?」
と優しい声で言って俺の額にキスをしてくる。
高校卒業してから割とすぐに秋亮さんとこの家で二人で暮らし始めたので、この生活には慣れてるんだけど、いつもの友達との飲みの後、酔って帰って寝て、起きてのパターンだと実家の母ちゃんの声で目が覚めるはずだったんだ。
もしかして今回はタイムスリップ的なものは起こらなかった?
ちゃんと飲みに行ったメンバーも同じで、タイミング的には今までだったら七年前に戻っているはずだったのだけど、元々どうして過去に戻るのかとか、どういう条件で戻るのかとかは俺にはまったくかわからないので、今回の戻っていなかった理由も分からないのだ。
「大丈夫?」
「うーん、今度の人生では可愛い女の子と結婚出来るかなと思ってたから」
「何、急にどうしたの……ごめんね、可愛い女の子じゃ無くて」
と秋亮さんは拗ねたように言って俺をぎゅーっと抱きしめてきた。
お酒を飲んで帰って来て、目が覚めると高校生からまたやり直しなんて、同じようでまったく違う人生を何度も体験出来るのは意外と刺激的で、戻ることがちょっと楽しくなっていた。やり直しの人生で悔いがあるのは、何度やり直しても女の子には全くもてなかった事くらいかな……。
またどうせ高校生からやり直すんだから良いかなと、秋亮さんと付き合う事になっても悩んだりとか、あんまり深く考えないで楽しく暮らしていたのだけど……まあ、秋亮さんとこのまま一緒に生活して行く事も嫌ではないし、来週から行く新婚旅行も楽しみではあるのだ。
俺は拗ねている秋亮さんの唇に「ちゅっ」とふれるだけのキスをして、俺の顔を覗き込んでくる秋亮さんを無視してもう少しだけ寝ていようかなとまた目を閉じてから、もしかしてこのまま寝て、また起きた時には、ここまでがセットで夢になってるのかも……とちょっとだけ考えている。




