1 パラレルとか気にしない
タイムリープものです。主人公はあんまり深くものごとを考えないのでパラレルワールドとかまったく気にしていません。
田川蓮慈 視点
今日は居酒屋で高校からの友人達と久しぶりに飲んでいた。
男四人での飲みだけど、皆んな社会人になってから会うことが少なくなっていたので近況報告で盛り上がる。
「蓮慈が高下と付き合ってたのって冗談だと思っていたのに、大学卒業してすぐに男と結婚するとはね」
「高下とのは恋人偽装だよね? それより蓮くんが結婚したの知らなかったんだけど」
正直、結婚のことは仲間には内緒にしておきたかったけど、俺の結婚相手と会社が同じ斎藤にはバレていたようだ。渡辺はあまり興味が無いようで知らなかったーーと言っている割には詳しく聞き出そうとしない。
「田川って高下と結婚したの?」
柚木は調子が悪いのか顔色が悪く、それでも一応は俺の結婚について聞いてくれようとしている。
「違うよ。柚木も知っている人で桃瀬さん。結婚というか養子縁組したんだ」
斎藤に結婚までのあれこれを質問されて飲みながら答えているうちにすっかり酔ってしまった。柚木が静かだなと思って部屋を見回すと隅っこで爪を噛んで何かぶつぶつ言っているので声をかけないでおいた。
飲んで酔って家に帰って眠くて限界だったので、ちょっとだけ……とリビングのソファーに横になったらそのまま寝落ちてしまった。
***
「蓮ーー蓮慈、学校遅れるよ?」
???
母ちゃんの声?
「ほら! 早く起きて!」
ドアを開けて部屋に入ってきてベッドに寝ている俺の布団を剥がして睨んでいる母ちゃんに会ったのは半年ぶりだったので「母ちゃん、久しぶり」と挨拶して、なに寝ぼけているのと怒られた。
意味がわからなくてぼーっとして居たら、ものすごい怖い顔で怒ってくる母親を前にして取り敢えず今はすぐ起きて学校へ行かなくてはならないらしいと把握した。頭がハッキリしない状態で「学校へは何を着ていけば良いのか」と質問をしたら無言で壁にかかっている高校時代の制服を指して部屋から出て行ってしまった。
昨日は友達と飲んでかなり酔っ払っていたけれど、実家ではなく自分の家に帰ったはず……奥の寝室までは歩けなくて、玄関を入ってすぐの部屋にあるソファーに横になって‥…の後はわからない。
結婚するまで過ごしていた実家の自分の部屋のベッドの上で混乱したまま呆然としていたけれど、再度母ちゃんの怒鳴り声が聞こえて来たので壁にかかっていた高校の制服に着替えて、母親に用意してもらった朝ごはんを食べて学校へと向かいながら状況を整理している。
俺は結婚して結婚相手とマンションの家で二人で暮らしていて、普段は主夫をやっている。なのに今現在の俺は高校の制服を着て実家から出て学校へと向かっている‥…制服を着た状態で玄関にある鏡を見たが特に違和感はなかった。
ーーいや、おかしいだろう。一旦戻ってちゃんと確認しないと。
家に引き返そうと振り返るとちょうど後ろから来た柚木に「おはよう」と声をかけられたので家に戻るのは一旦やめにして、柚木と一緒に学校までの道を歩く。
柚木は昨日の夜一緒に飲んだメンバーの一人だ。昨日会った時より随分と若返っていて普通に高校生という感じでちょっと懐かしい。会ったばかりだけど昨日のは大人バージョンの柚木だし。
俺も「おはよー」と挨拶を交わしてこのまま状況を把握しようと学校に向かって一緒に歩きながら「今は何年何月?」と聞くと柚木は「なんで?」と笑いながら昨日よりも七年前の日付を答えてくれた。
そうして俺は学校に着いてからも、家に帰ってからも現状の確認方法が無いままで、いまいち状況が把握できないままダラダラと普通に二回目の高校生活を送っている。
これがタイムスリップ的なものなら大学まで卒業している知識があれば高校の授業なんて楽勝なはず。なのに何故だか全然勉強が出来るようになっていない。もしかしたら大学卒業とか結婚していたとか全部『夢』だったのかなと思い始めていた。
そんな風に無駄に高校生活を日々過をごしていたけれど、放課後に高下が鈴木さんに呼び出されたのを見ていて急に思い出した事があった。高校時代の記憶から消したいエピソードナンバーワンの出来事で、確か教室の掃除の後にゴミを集積場まで捨てに行こうとして高下が鈴木さんに告白をされて断っている所に出くわしてしまった事で巻き込まれたんだったっけかな。
***
鈴木さんが泣きながら俺の横を通り過ぎて行って、残っていた高下と目が合って……困った俺はからかい気味に話しかけたんだ。
「あんなに可愛い子をフるなんて、モテる男は余裕だね」
「んー、こうしょっちゅうだと面倒なだけだよ」
「面倒って、うらやましいんだけど」
「……蓮ちゃんってさ、彼女いなかったよね? 俺と付き合っている事にしてくれない?」
「ーーは?」
***
高下にいきなり変な事を言われて俺はちゃんと「嫌だ!」「無理だ!」って断ったのにいつのまにか高下と付き合っている事になっていて、クラスの皆んなにカップル認定されてしまい卒業まで高下と付き合っていると思われていたんだよなあ。
俺のこの人生が夢なのか本当にタイムスリップ的なものなのかと確認したいような気もするけど、イベント的には高下とのカップル認定イベントだとすると確実に避けたい案件なので物凄く迷う。
記憶の中の出来事と同じように掃除の後にゴミ捨てを頼まれて悩みながら焼却炉に向かっていると高下と鈴木さんが居る。鈴木さんが高下に交際を断られて走り去ってしまった所で話しかけるべきか、このまま戻るべきかと悩んでいたら急に柚木が現れて高下に近寄って行って話しかけている。
「高下君はすごいね、あんなに可愛い子を振るなんて」
「んー、こうしょっちゅうだと面倒なだけだよ」
「うらやましいね」
「そんな事ないよ」
と高下は答えながら柚木の横を通り過ぎて俺のほうに向かって歩いて来たけれど、こっちをチラッとみただけで話しかけて来ないで、そのまま教室の方へと行ってしまった。
あの記憶から消したいエピソードは実際にあったことではなくて夢だったのかも。高下が告白されているのを幾度も見ていたから夢にまで見てしまったのかな。しかし、あれが夢だとすると高下と付き合う夢って……俺の願望とかじゃないだろうな‥…。否、それは無い。
それからも高下にはやたらとくっつかれたりとか無駄に絡まれたりはしたけれど、カップル認定は避けられたので夢の時とは違って快適な高校生活を送っていた。平凡に楽しく過ごしていたのに、柚木が美術部の文化祭の出し物の絵の題材をサッカー部にすると言っているのを聞いてまた嫌な事を思い出してしまった。
***
「今回はサッカー部の練習風景を題材に描こうと思って」
「柚木って絵上手いよね。走っている人描くの面倒そう」
「田川も一緒に行く?」
***
この時に柚木に着いて行って、俺はサッカー部の部長に散々絡まれて、無理やりマネージャーされてしまい先輩が卒業するまで一年間セクハラされまくったんだった……と思い出した時にはもう柚木との会話が始まってしまった。
「今回はサッカー部の練習風景を題材に描こうと思って」
「柚木って絵上手いよね。走っている人描くの面倒そう」
「田川はもう帰るの? じゃあね」
と柚木がこちらに手を振りながら教室から出て行ってしまった。
この微妙に夢と現実がリンクしているようで違っていることが気になるのだけど、部長が卒業するまでサッカー部に近寄らなければあのセクハラの日々は来ないとなるとわざわざ確かめに行くこともないかなと思う。
記憶と微妙に違うのはやっぱりタイムスリップ的なものじゃなかったという事なんだろうか。
前の記憶が全て夢だったのなら俺と結婚するはずの相手は存在しているのだろうか。
結婚相手ーー桃瀬貴雪に出会ったのは大学の時で、柚木の友達として紹介されて、その後付き合って卒業したら一緒に暮らそうって話がいつのまにか結婚ってなっちゃったんだよね。
俺と一歳違いだから今はまだ高校生のはず。夢ではなくタイムスリップだとしたら‥…と貴雪が本当に存在するのか確認してみたくなってしまった。
貴雪の実家も、通っていた高校も知っている。
ただ、まだ出会いイベントが無い今は会いに行ったところでどうにもならないのかなとも思う。
そもそも貴雪の事は別として、俺の恋愛対象は女の人のはず。貴雪以外の人と付き合った事ないからわからないけど多分そう。結婚しても良いかなと思うくらいには好きだったけど、じゃあ、また付き合って結婚するのかと言われると……結婚したばかりだったし、結婚して二人はその後どうなったのかとか分からないままに今のこの状態だからなあ。
このまま大学の出会いイベントまでは特には何もしないで放置で良いかなと会いに行くのは思いとどまった。
その後、高校生活では高下とはただのクラスメイトとして過ごしたのでホモカップルという不名誉な称号も付かず、サッカー部には近寄らなかったので先輩にはからまれずにマネージャーにもならず、学校の成績も2度目人生の割には特には良くならずで本当に普通に高校を卒業した。成績が変わらないので進学も同じ学校になった。
大学に桃瀬貴雪はちゃんと存在していたし、今回も貴雪は柚木と仲が良かったので俺との出会いも前回と同じだと思ったのに、柚木からの友達紹介イベントが無かった。やっぱりあの一連の出来事は夢だったのかなとも思ったけど、大学生になるまで会ったことの無い相手と結婚してたとかリアルなただの夢では片付けられ無い事もあったので、このまま貴雪と出会わなければ将来が変わるのかもと関わりをもたないようにして過ごしてみた。
大学生活は貴雪のこと以外はまったく前の人生と変わりなく普通に過ごして、普通に卒業して、違ったのは卒業後は結婚ではなくて、普通の会社に普通に就職した事くらいだ。
***
今日は居酒屋で高校からの友人達と久しぶりに飲んでいた。
男四人での飲みだけど皆んな社会人になってから会うことが少なくなっていたので近況報告で盛り上がる。
お互いの近況もわかって来たところで斎藤が
「桃瀬先輩って覚えている?」
と貴雪の名前を出してきたので少しドキッとしてしまった。
渡辺が少し考えて「誰だっけ?」と言っているので俺も一緒になって「誰?」と覚えていない振りをした。斎藤は大学の時に貴雪と仲が良くなって学校卒業後は同じ会社に就職している。これは一回目の記憶の時と同じだ。柚木は「大学の時は友達だったけど卒業してからは連絡してない」と俺たちに言いながら寂しそうにしている。
「その人がどうしたの?」
斎藤が言うには貴雪は就職してすぐに出来婚をしたらしい。
「なんかさ、就職したばかりだしもう少し遊んでからって思ってたけど友達とか身近な人が結婚するとね」
「ああ、そうだねえ……ちょっと焦るよね」
と渡辺と俺が相槌を打っている横で柚木は青白い顔で何かぶつぶつ言っている。
俺は斎藤、渡辺と会社の愚痴をこぼしながら飲んでいてすっかり酔っ払ってしまった。
就職してから会社の近くに一人で住み始めたアパートに酔って家に帰ってきて、朝起きてそのまま敷きっぱなしだった布団に倒れこんで目を閉じた。
***
「蓮ーー蓮慈、学校遅れるよ?」
???
母ちゃんの声?
「ほら! 早く起きて!」
俺は寝起きで混乱しつつも、ドアを開けて部屋に入ってきてベッドに寝ている俺の布団を剥がして睨んでいる母ちゃんに「おはよう」と挨拶して学校へ行く準備を始めた。
状況を整理したいが取り敢えず現在高校生の俺は学校へ登校しなければならない。
混乱したまま高校の制服に着替えて朝ごはんを食べて学校へと向かっている。
俺は大学を卒業して就職して一人暮らしをしてちゃんと働いていた。
まだ親に仕送りは出来ていないが、これから出世して結婚して、いつかは親と二世帯で暮らそうと思っていた。そして昨日は友達と飲んで、酔ってもちゃんと自分の家に帰って寝たはずだった。
だったのだが、今現在の俺は高校の制服を着て実家から出て高校へと向かっている。
制服を着た状態で玄関で鏡を見たが今回もやっぱり違和感はなかった。
うーん、これってやっぱりタイムスリップなのかなあ……流石に夢とは思えなくなって来た。きっかけは何だろうか‥…前とまったく同じ状況で戻ったのだろうか。戻る前の飲み会の場所とメンツは同じだったかなあ。というかあんまり良く覚えてい無い。
前回戻ってきた時はよくわから無いままに、普通にもう一度人生を高校生から七年間もやり直して只々過ごしてしまったけれど、さすがに今回は真面目に考えるとしよう。
同じようで同じではない人生で、前は桃瀬貴雪と結婚して居たが今回は独身だった。
他に人生において特別に何かあったわけでもないし、俺は過去に戻りたいとか人生を変えたいとか一瞬でも考えたことは無かった。なのに戻ってしまった。
高校の時で嫌なこととして印象に残っているイベントは告白イベントとセクハライベントだ。
あと、桃瀬貴雪はちゃんと存在していたけれど、大学で会わないようにしていたら俺の人生には全くと言って良いほどかかわりがなかった。
高校時代の高下とのカップル疑惑が無かったのに女の子とは一回も付き合えなかったし、大学の時に合コンにも積極的に参加したけれど特には何も無かった。
これなら例え相手が男だったとしても、恋愛して結婚までしたのだから前の方が充実していた人生だったかもしれない。
また同じ人生を繰り返すと言うなら俺の灰色人生に関するやばいイベントは避ける事にして、今回は桃瀬貴雪に会ってみたいと思った。
でも……貴雪は俺と出会わなければ普通に女の人と結婚して子供が居る人生を送れるのだから大学での出会いはやめたほうが良いのかも知れない。でも、付き合うとかじゃなくてちょこっと遠くから見て‥…そして、どうするかは後で考える事にしよう。
貴雪の実家には車で移動だと結構近いと感じていたのに、電車とバスの乗り継ぎで思ってたより遠かったし、交通費も嵩んでしまってここまで来た事にちょっとだけ後悔している。それに、俺はここには一人では来たことが無かったので家の大きな門の前でどうしようかと困ってとウロウロとしている。
「何しているの?」
と、後ろから声がして「貴雪?!」と振り返ったら貴雪の三つ歳上のお兄さん、秋亮さんが居た。
秋亮さんは貴雪の親族としてのごく軽い付き合いしかなかったので、顔は貴雪に似ていてカッコ良いけど少しだけ優しい雰囲気で、あと七年後にはまだ結婚していなかったな……と言う事くらいしかわからない。
貴雪に会うことしか考えていなかったので、お兄さん相手にどうしようかと困ってしまって、このまま帰ろうかなと踵を返すと腕を掴まれたので驚いて振り返ると秋亮さんが
「高校生? 貴雪の友達?」
と、ちょっと首を傾げながらジッと顔を見てくるので困ってしまって慌ててしまう。
「えっと‥…ファンで‥…ちょっと顔が見たいなって」
ちょっとだけ顔が見たくて来たんだけど『ファン』とかは余計だった。恥ずかしいしもう帰ろうとして腕を掴まれているのを思い出した。
秋亮さんは「ふふっ」と微笑んで「貴雪が帰ってくるまでお茶でも飲んでゆっくりして行きなよ」と、誘ってくれる。
高校生時代の貴雪に会ってみたい気もするけれど今はまだ知り合いでもない俺が今現在、家に上がり込むのは変なのは分かっている。まだまだ会う覚悟もないし……と悩んでいるまま、秋亮さんに腕を掴まれてズルズルと家に引っ張り込まれた。
こんなに大きな家なのに秋亮さん以外に誰も居ないみたいで、リビングで二人でのんびりとコーヒーを飲んでいる。
「貴雪のファンの子って結構うちまでくるんだよね」
「ああ、やっぱり」
「うん、男の子のファンは初めてだけど。学校は貴雪と違うよね?」
しばらく秋亮さんと話しながら待っていたけれど、貴雪は遅くなるようでその日は会えなくて、秋亮さんに「明日また来てみたら?」と言われたけど「交通費が無いから……」と断って帰って来た。
貴雪とは大学までは出会わない運命なのかも知れないと思って会うのは諦めて、大学でまた柚木に紹介してもらえない時って出会いとかどうなるんだろうって考えている。自分から会いに行ったらまた違う事になるんだろうか。
高校生活では前回と同じように嫌なイベントの時は柚木が出て来て助けてくれるので、もしかして柚木も何か知っているのでは無いのだろうか……事情を説明して何か戻ってしまう手がかりを掴めないかなと柚木に話しかけたいのだけど、柚木は大抵は斎藤と一緒にいるので中々話しかけられない。
いまだに現状がどうなっているのか分からなくてこの先またある程度歳を重ねたら元の高校生に戻るのだろうか‥…と考えてから気がついのだけど、元の結婚していた生活に未練があったわけでも無いし、今の高校生の生活が嫌なわけでも無いし、また戻ったら戻ったで別に良いかと思い直して、無理に何かしたり、考える事を辞めてしまった。
そうなると、無理に行動を起こさなくても、高下とのイベントの時はまた柚木が来てくれて何もなくて済んだし、サッカー部にも行かなかったので何もなく済んだし…‥で、今回は二回めと同じ進行で高校生活を送っている。
ちょっとだけ前の時と違うのが、あれから貴雪のお兄さんの秋亮さんとたまに会うようになった事だ。
高校生の貴雪には彼女が居るそうで、俺が家に遊びに行った時にも会うことがなかった。大学までは出会わないようになっているのかも知れない。
大学もまた同じランクになりそうだし、貴雪と付き合う事になるかはわからないけれど、無理に同じようにとか、違うようにとかは全く考えないで楽しく過ごす事に決めた。
***
今日は居酒屋で高校からの友人と男4人で久しぶりに飲んでいた。
「蓮慈が大学卒業してすぐに男と結婚するとは」
「蓮ちゃんって昔からあんまりものごとを深く考えたりしなかったけど、まさかねえ」
斎藤と渡辺が面白そうに話している。柚木は真剣な表情で
「田川、結婚って本当? 相手は誰?」
と聞いてくる。
「あー、大学の時の桃瀬先輩って居たじゃん?」
「……」
「その人のお兄さんで桃瀬秋亮さん」
と答えると柚木が「え、誰?」と言うと、キョトンとした顔で「お兄さん?」「お兄さんって?」とぶつぶつと言っている。
「桃瀬先輩……貴雪さんはどうしているか知っている?」
と柚木に聞かれた斎藤が俺を見ながら
「先輩のお兄さんが仕事から外れるから忙しくなるらしい」
「秋亮さん、新婚旅行で一ヶ月も海外生活なんだよねえ」
「蓮ちゃんも一緒なんでしょう。他人事だねえ」
斎藤と渡辺に結婚までのあれこれを質問されて飲みながら答えているうちにすっかり酔ってしまった。柚木は何か考え込んでいた。
飲んで酔って限界だったけど、ちゃんと寝室まで移動してベッドに倒れこんだ。倒れこんだ時の振動のせいか、先に寝ていた秋亮さんが目を覚ましたようで、後ろから俺の腰に腕を回してきてギュッと抱き込まれてしまった。
少しだけ体をずらし、いつも二人で寝る時の定位置に落ち着けたので目を閉じながら明日の朝は起きたらまた高校生に戻るのかなと考えていた。
今の秋亮さんとの生活も楽しい。でも、もしもまた過去に戻れたら今度こそは女の人と付き合ってみたいなあとは思っている。
ああ、でも秋亮さんとの旅行は楽しみにしていたのにな。
今日の飲み会の時まで、寝て起きたら過去に戻ってしまう事をすっかり忘れて普通に生活していた俺は、今の生活が終わってしまうのは残念だなと思いながら秋亮さんの腕の中で深い眠りについた。