クリスマスはのんびりデートとは行かないのが飲食業界の辛いとこだな
さて、あっという間に12月になり、町もクリスマスムードが濃くなってきた。
もっとも昔に比べるとハロウィンが間に入ったりするためか、クリスマス自体は静かに過ごす感じになってきてるようだけどな。
「今年のクリスマスイブは祝日だしやっぱ休めないよなぁ」
桜田さんが苦笑していう。
「世間がお休みの日はうちは忙しい日だしね」
昔はクリスマスイブにちょっと高級なイタ飯を食べて、その後予約してあるホテルで一泊なんてのがお決まりのパターンの一つだったらしいけど、今はそんな感じでもない。
とはいえクリスマスイブを特別な日と考えてカップルや家族で予約するお客さんが多いのは間違いないからとてもじゃないが休んでる場合じゃない。
去年はパラディーゾのクリスマスのデザートを担当させてもらえたが、今年はデザートだけじゃなくて焜炉の手伝いもする。
そして笠羽さんも今年は食材の下処理などをやることになってる。
チーフも結構俺たちに期待してるらしい。
「まあ、クリスマスイブは一年で一番忙しい感じだからな。
よろしく頼むぜふたりとも」
「はい、がんばります」
「任せてください!」
それとともに桜田さんへのクリスマスプレゼントも考えないとな。
去年はラムウール100%の赤と緑のチェック柄、クリスマスカラーのマフラーと安めのピンクゴールドのシンプルなネックレスだったけど、今年はもうちょっと踏み込んだプレゼントを送りたいな。
「今年はシルバーのペアリングあたりが良いかな」
というわけで困ったときの横浜そごうに入って見てみることにした。
入ってすぐの一階は化粧品売り場。
「化粧品か……ふうん。
透明なのに塗るとピンク色に変化し、世界に1つだけのカラーを生み出してくれるカイリジュメイ フラワーリップ?
なんか面白そうだしそこまで高くないし買ってみるか」
去年はパスした化粧品だけど今年はチャレンジしてみることにしてみた。
そして本命の二階はジュエリーアクセサリーと時計のフロア。
「ペアリングは合わせて3万か、まあなんとかなるか」
パラディーゾのバイトや賄いの御陰もあってそれなりに余裕はでてきた。
ペアリングは形は同じだが色合いが違ってレディースリングはピンクゴールドでメンズリングはブラックコーティングのものだ。
めちゃちっちゃいけどダイヤモンドも入ってるしな。
「すみませんこれください」
「はい、こちらのペアリングでよろしかったですか?」
「ええ、それでお願いします」
俺がお金を渡すと売り場お姉さんの目も微笑ましげだ。
そして、忙しくしている間にクリスマス週間にはいった。
今年もパラディーゾの玄関にツリーやリースを飾り付けたり、テーブルにキャンドルサービスをしたりしてクリスマスムードを盛り上げている。
そして、やっぱりクリスマスはめちゃくちゃ忙しい。
ドルチェを作りながらストーブの手伝いもしつつひたすら調理に終止しているが、去年はまだドルチェ一つに後は皿洗いやサラダ作りだけだったのを考えればだいぶ進歩したと言えるかな?
今年のドルチェはイタリアのクリスマス菓子であるパネットーネを作っている。
パネットーネはブリオッシュにドライフルーツを入れた、ミラノ発祥でクリスマスの時期に食べられる伝統焼き菓子。
中に入るドライフルーツは様々なんだけど、ラム酒のほんのり香るレーズンやオレンジピールやレモンピールなどの柑橘系が入ったもの一般的。
イタリアではクリスマス前の4週間には各家庭で焼かれ親族や友人に配る習慣があった。
もっとも現在はパン屋で購入して済ませる傾向にあるらしいけどな。
またクリスマス前には多くのコンテストがイタリア各地で開催されてるらしい。
というわけで俺はラム酒につけたオレンジピールを適当な大きさにカットしてから、ボールの中に、強力粉、砂糖、塩、パネトーネ酵母、スキムミルク、卵黄を入れ、よく混ぜ合わせ、ひとまとまりになったら台の上に取り出し、生地がなめらかになるまで丁寧にこねる。
そこへ薄く切ったバターをもみこみながら20分くらいしっかりこね生地の一部を伸ばして、薄い膜ができるまで生地を整える。
生地が整ったらを広げ、オレンジピールやラムネーズンを混ぜていき、30℃で120分くらい発酵させる。
膨れて大きさが2倍ほどになれば一次発酵は終了なので打ち粉をふった台の上に取り出して20分ほどベンチタイムをとったあと丸め直し、パネトーネカップに入れる。
もう一度90分くらい発酵させ、生地が型の高さまでふくらんだら二次発酵も終了。
そうしたら180℃に温めておいたオーブンで30〜35分焼き、焼き上がったら、表面に溶かしバターを塗り、ケーキクーラーに乗せて冷やしたら、粉糖をふりかけてできあがりだ。
「よしうまく焼けたな」
そしてオーダーが入ったら、最後にパネットーネをスライスして皿に載せ、生クリームとバニラアイス、いちごやクランベリーをトッピングしてだす。
「なんか、可愛いねこれ」
「うん、美味しいね」
そういって俺の出したパネットーネを美味しそうに食べてくれるお客さん。
美味しいって言われるのはやっぱり嬉しいもんだな。
そして忙しい3日間もおわって25日のディナーが終わればクリスマスモードも終わりだ。
「桜田さん、メリークリスマス。
一年間ありがとうな」
「ん、メリークリスマス」
「今年のプレゼントはちょっと頑張ってみたぜ」
そう言って俺はプレゼントの入った箱を桜田さんへ差し出した。
「うん、プレゼント? ありがとね」
そう言って桜田さんは笑顔でプレゼントを受取ってくれた。
「開けてもいいかな?」
「あ、うん、どうぞ」
「あ、ペアリングとリップだね」
桜田さんが箱を開けて喜んでる。
「喜んでもらえれば嬉しいよ」
「じゃあ私からはこれ」
「ん、なんだろう?」
「じゃあ早速、お、ペアウォッチか」
「お揃いだとやっぱ嬉しいものだからね」
「ん、たしかにな、ありがとな」
今年のプレゼントはお互いにペア商品だったか。
何はともあれ桜田さんと付き合い始めて一年間になるけど、来年もこうやってプレゼントを渡し合いたいもんだ。