和VS洋対決は僅差で負けちまった
さて、とうとう文化祭当日だ。
洋菓子チームは秋らしくハンドメイドモンブランや季節のフルーツのムース、アップルタルトといった旬のフルーツなどを使った生菓子をメインにしている。
また手作りジャムの柔らかコッペパンと飲み物のセットなどの軽食メニューもちゃんと用意した。
「さて、こっちの準備は万端だと思うが、あっちはどんな感じかな?」
こちら洋菓子側がベーシックなカフェっぽいテーブルと椅子などの作りなのに対して、和菓子は甘味処と言うか茶屋風に内装を整え畳の座敷もあるし、机や椅子も和風なものにしてる。
「あっちも結構本格的だな」
高校までの文化祭と違い内装も本格的に整えるのがこういった専門学校の文化祭との違いだと思う。
「負けてらんないし俺たちも頑張って行こうぜ」
「ええ、がんばりましょう!」
そして学祭当日は松花堂弁当や懐石、寿司などの和食、フランス料理やイタリア料理などの西洋料理、北京風や広東風などの中国料理の各クラスごとのレストランや一年生の様々な模擬店もライバルだ。
そして最初のお客さんが入ってきた。
割と若い女性だな。
「いらっしゃいませ、洋風と和風どちらをご希望でしょうか」
「じゃあ洋風で」
というわけでまずは俺たちがお客さんをゲット。
テーブルへ案内してお冷を出してオーダーメニューを差し出す。
「ご注文はお決まりになりましたか」
「じゃあ、モンブランと柚子のムースにミルクティで」
「ありがとうございます。
モンブランと柚子のムースにミルクティでよろしかったですね」
「はい」
「では少々お待ちください」
よし、なかなかいい出だしだ。
「お待たせいたしました。
モンブランと柚子のムースにミルクティでございます」
女性客がモンブランを一口食べる。
「ん、甘すぎなくていいわねこれ」
ん、感触は悪くないな。
その次に来たのは年配の女性。
「いらっしゃいませ、洋風と和風どちらをご希望でしょうか」
「じゃあ和風でお願いします」
というわけでまずは次は和風甘味処がお客さんをゲットか。
テーブルへ案内して温かいお茶を出してオーダーメニューを差し出してるな。
季節柄を考えると温かいお茶のほうがいい人も多いかも知れない。
「ご注文はお決まりになりましたか」
「栗羊羹と夕映えにお抹茶を」
「かしこまりました、では少々お待ちください」
やがて注文された和菓子が運ばれてくる。
「お待たせいたしました。
栗羊羹と夕映えにお抹茶でございます」
栗ようかんはいわゆる練ようかんの中に栗を全体に練りこんだもののようだ。
夕映えは実った柿が夕日を受けて照り輝いている光景を表現している和菓子です。
「和菓子は五感で楽しむと言うけど、名前の付け方のセンスがすげえな」
和菓子は五感で楽しむものといわれ、一見地味だと思われがちな和菓子だが上生菓子と呼ばれる和菓子は夕映えのような見た目の美しさの視覚、口に含んだ時の舌触りの触覚、そして味わいそのものを楽しむ味覚に加えて和菓子の香りは米や小豆、栗や芋などの素材そのものによるほのかな香りを楽しむ嗅覚に加えて、「菓銘」つまり菓子の名前そのものが何かを連想させる風情を持ち合わせていたりする。
たとえばこれが柿という名前だと、ああ柿だねで終わってしまうけど夕映えという菓銘になるとどんな和菓子が出てくるのか想像するのも楽しくなるわけだ。
「ちと和風甘味を甘く考えすぎたかもな」
こちらは主に若い女性客に人気だが和風の方は年配の女性にも人気だ。
男性客もぼちぼちいるがほとんどカップルで個人で甘味を頼む男性はほとんどいない。
「くず餅と竜田姫にほうじ茶を」
紅葉した紅葉をかたどった赤い和菓子の名前は秋をつかさどる女神である竜田姫。
奈良平城京の西に位置する竜田山の秋の紅葉をつかさどる女神様が竜田姫です、竜田姫は、鮮やかな緋色や黄色の錦をまとった女神様で、秋になると竜田姫がその袖を振って山を赤や黄色に染めていくというのがその名のもとだったり。
何だかんだで和菓子も未だに京都や奈良などの上方のほうが強いんだよな。
「白玉ぜんざいと初霜とお茶で」
「煉切のセットに抹茶を」
こっちも結構な客は来ていたんだけど和VS洋対決は僅差で負けちまった。
「和菓子も馬鹿にできないもんだな、すげえ」
俺がそう言うと石倉は上機嫌で答えた。
「ふふ、そうだろう?
和菓子は決して時代遅れなわけじゃないんだぜ」
「んー、とはいえそっちは年配のお客さんが多かった気はするけどな」
「でも若い人もいただろ」
「まあな」
「なんだかんだで時代に合わせて和菓子業界も頑張ってるのさ」
「そうか、そうなんだろうな」
和菓子も伝統にあぐらをかくだけと言うわけではないというのはよくわかった。
そして和菓子のいいところを洋菓子でも取り入れていくべきなんだろうな。