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ケーキ屋のおばちゃんが倒れたというんで店を代わりにやってみたけどやっぱいいな

 さて、一日研修が終われば続いて行われるのは体育祭。


 その体育祭も無事終わって久しぶりにおばちゃんのシフォンケーキを買おうとしたらなんと店が休みになっていた。


「え、まだ建物の取り壊しは先のはずだし、何かあったのかな?」


 店の電話へスマホで電話をすると留守電になって、どうやらおばちゃんは倒れて近くの病院へ入院してるらしい。


「うえ、まじか、一回お見舞いに行こうかな」


 おばちゃんは鶴見西口にある入院施設がある病院へ入院してるようなので、見舞いができる時間を見計らって、お見舞いに行くことにした。


「おばちゃんの病室はここかな?」


 コンコンとノックして反応を伺う。


「はいはい、どうぞ」


「失礼します」


 部屋の中にはいるとベットに横になって病衣をきたおばちゃんがいた。


「おばちゃんが倒れたって聞いて来たんだけど、一体どうしたの?」


 おばちゃんが苦笑していう。


「ちょっとめまいが酷くてね、なんで病院に来たらそうしたら軽い脳卒中だって」


 脳卒中てやばくないか?


「ええっ? だ、大丈夫なのそれ?」


「ええ、血栓を溶かす薬を使ってもらったからそんなひどいことにはならなかったのよ。

 でももうちょっと病院へ来るのが遅かったら、結構危なかったみたい」


「そ、そりゃそうだよ、でもしばらくは入院で様子を見るんだよね」


「そうなるねぇ」


「そうなるとお店は休み?」


「ええ、そうするしかないわよね」


「そうか、せっかく久しぶりおばちゃんのシフォンを食べたかったんだけど……。

 あ、それならおばちゃんのかわりに俺がケーキ焼こうか?」


「その気持は嬉しいけどねぇ……」


「おばちゃんお店の評判を落とすようなことは絶対にしないよ。

 それにお店の家賃も払わないといけないだろうからそれくらい稼げるように頑張るよ」


「そうかい、じゃあお願いしようかね。

 これがお店の鍵、入院する前に買った卵とかは捨ててね」


「そりゃそうだよ、食中毒とか出したらやばいし」


 おばちゃんお店を手伝うとなると申し訳ないけどパラディーゾのバイトは少し休ませてもらうしかないか、10月は比較的暇だから良かったけど。


 というわけで俺はパラディーゾのオーナーにしばらくシフトから外してもらえるようにお願いすることにしたのだった。


「オーナー、すみません暫くの間俺をシフトから外してもらえませんか?」


 俺がオーナーにそう切り出すとオーナーは少し不思議そうに言った。


「ん、それは構わないけどどうしたんだい?

 学校の海外研修に参加するとかにしてもあれは12月だったはずだしまだ早いよね」


「ええ、実は鶴見の駅前のケーキ屋のおばちゃんが脳卒中で入院してしまって。

 おばちゃんの入院中だけでもお店を手伝ってあげたいんです」


「なるほど、そういう理由ならそれが終わったらちゃんと戻ってきてくれるんだね」


「ええ、年内には建物が取り壊される予定だったみたいなんですけど。

 まだ解体には取り掛かってないみたいだし俺にとってもケーキ職人になりたいと思ったきっかけの場所なんです」


「わかったよ、じゃあそのおばちゃんが復帰できるまで頑張ってお店を支えてあげて。

 僕も結構他人事じゃないしね」


「ありがとうございます」


 そんな話をしていたら桜田さんが話に入ってきた。


「じゃあ、私もケーキ売るの手伝おうか?」


「え? 桜田さんも手伝いたいの?」


「うん、だってさ。

 憧れの職場だったんでしょ?」


「う、うん、そうだね」


「だったら私もやってみたいんだ」


「えーと、オーナー的には大丈夫ですか?」


「まあ、今月はそこまで忙しくないから大丈夫だよ」


「えへへやった。

 パパありがと」


 というわけで俺がケーキをつくって、桜田さんが接客販売することになった。


 まあ、ありがたいといえばありがたいけど。


 そしていよいよお店でケーキをつくって売る事になった。


 と言っても結構スペースは狭くて調理と販売だけでスペースが精一杯のイートインスペースとかはないこじんまりとしたお店だ。


「さて、ここは北海道産小麦粉と国内産の卵を使用してベーキングパスダーを使わないのが売りなんだよね」


「そうなんだ」


「カップシフォンやスコーン・クーヘン・クッキーもありとはいえ基本はシフォンケーキのカット売りがメインなんだ。

 口コミで結構人気のある店なんだよ」


 俺が食べログのページをスマホで指すと桜田さんはじっと見てる。


「本当に口コミで広がるタイプのお店なのね。

 でもたしかにいいかも」


「ああ、早速シフォンを作るか」


「じゃあ私は別売り生クリームをつくってカップに入れて冷やしておくね」


「うん、お願い」


 生クリームは別で小さいカップで60円大きなカップで100円なのだな。


 俺はまず卵黄生地をつくる。


 ボウルにバニラビーンズをさやからしごき出していれ、そこに冷蔵庫で冷やしておいた卵を卵黄と卵白に分けて卵黄だけを入れてほぐし、それにまずグラニュー糖を入れて均一に混ぜ、更にサラダ油、牛乳もそれぞれ加えて混ぜ、予めふるった薄力粉も加えては混ぜて、分離しないようによく混ぜしっかりとサラダ油と牛乳を卵黄で乳化させる。


 その次は別のボールで卵白を泡立て、グラニュー糖を少しずつ加えながら、メレンゲの状態を見ながら徐々に加えてきっちり空気を加えていく。


 メレンゲができたら先に作っていた卵黄生地にメレンゲの1/3を加えてヘラを大きく返しながら混ぜてメレンゲと生地をなじませ、残りも1/3ずつ加えてメレンゲの泡を潰さないようにさっくりと混ぜていく。


 ここでメレンゲをツブしてしまうとふわふわした食感にならないから注意だ。


 それができたら後はシフォン型にそれを一気に流し入れ、型の底をトントンと台に軽く打ちつけて、空気を抜いて電気オーブンで200℃で10分ほどで表面の生地が膨らんで割れたら180℃に温度を落とし20分くらい割れ目まできつね色になったら焼き上がり。


 あとは逆さにしてケーキを冷やす。


 プレーンだけでなく牛乳、抹茶、紅茶、チョコのシフォンケーキやチョコチップスコーンもつくってできたら試食してみる。


「うん、おばちゃんのケーキの味だと思う」


「うん、素朴な感じだけどそれがいいのよね」


 後はお店を開いてお客さんを待つだけだ。


「あ、お店再開した? あれ?」


 お店に来たのはわりと若いお姉さん。


「あ、入院してるおばちゃんのピンチヒッターでやってます」


「そうなんだ、おばちゃんのケーキじゃないのかぁ」


 俺が桜田さんに目配せすると、桜田さんはケーキの一部をカットしてお客さんに差し出してみせた。


「是非一度試食してみてください」


「あ、じゃあちょっと食べてみようかな」


 お姉さんは小さなシフォンケーキをパクリとその場で食べて眼を丸くしていた。


「あ、ここのお店の味だ、うんいいね。

 じゃあ今日は何があるのかな?」


 にこやかに桜田さんが説明する。


「シフォンはプレーン、牛乳、抹茶、紅茶、チョコ、後はチョコチップスコーンもありますよ」


「じゃあプレーンと紅茶のカットケーキを一つずつ」


「ありがとうございます。

 2つで430円になります」


 お客さんのお姉さんが笑顔でいう。


「程よい甘さに出し口どけしっとり。

 この美味しさでこの値段は安いよね」


 お客さんが千円札を出してきたのでお釣りを数えて渡す桜田さん。


「はい、毎度ありがとうございます」


 でお客さんがいい笑顔で桜田さんにいう。


「奥さんも販売頑張ってね」


「え、奥さん? そうみえます? えへへ、ありがとうございます」


 そんな感じで久々に来た常連さんなんかによって次々シフォンケーキやスコーンは買い上げられていく。


「追加で焼かないと駄目だなこりゃ」


 もう一度焼いても結局は売り切れちまったし、やっぱおばちゃんのケーキのファンは多いんだな。


 ほぼ立ちっぱなしだったんで結構疲れたけど


「結構疲れたけど、やっぱりお客さんの笑顔っていいよな」


「うん、そうだね、こういうお店だとお客さんとの距離も近いし」


 売上とか仕入れはは家計簿ノートに書いているらしいのでそれに書き記しておく。


 何日かお店を手伝ったら無事おばちゃんも退院できたんで売上なんかをおばちゃんに渡した。


「ぞれじゃあお店を手伝ってくれたお給料、あんまり多くないけどとっておいてね」


 俺と桜田さんにおばちゃんがお給料としていくらかお金を渡してくれた。


 そんなに販売単価は高くないから結構厳しいと思うけどおばちゃんの好意には素直に甘えておくことにする。


「こういうのもいい経験だよな」


「そうね、こんな小さなお店っているのも悪くないわよね」


 うん、調理してお客さんを接客してもらってお金も扱うってのはとてもいい経験だったと思うぜ。

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