ゴールデンウイークのデートはあんまり金がかからないデートで行こう
さて4月の学校行事が終わればゴールデンウイークだ。
もちろんこういうときが稼ぎ時の飲食業とはいえ、バイトはシフトで休みぐらいは取れる。
マスターやチーフは休めないとは思うけどな。
オリエンテーション合宿の最中はろくに会えなかったけど、休みの桜田さんとデートぐらいはしたい。
「合宿の間は全然会えなかったし、ゴールデンウイークにはデートしたいよな」
俺がそういうと桜田さんが聞いてくる。
「でも、お金の方は大丈夫なの?」
「ははは、もちろん大丈夫じゃないに決まってるじゃないか」
ちょっと呆れたように苦笑する桜田さん。
「まあ、そうよね」
サラリーマンではなくコックを目指すなどという事を言った俺には、両親からの仕送りなどはないのだ。
だから相変わらず貧乏なのはしょうがない。
専門学校へ入る金を出してくれただけありがたと思うべきだしな。
「葛西臨海公園に弁当持っていってピクニック気分とかどうかな?」
「うん、それもいいわね、確か観覧車とか水族館もあったはずだし」
「じゃあ、次の休みは葛西に行こうか」
「うん」
「待ち合わせはいつもどおりパラディーゾの前で朝9時でいいかな」
「うん、家の前ね」
「結構公園が広くて、水族館も行く場合はけっこう歩くらしいから歩きやすい服装と靴にしたほうが良いらしいよ」
「うん、わかったわ」
というわけで次のデートは公園でまったりお金をかけないデートだ。
今回は公園なんで動きやすい格好でこの前桜田さんと一緒に買物にいって買ったスラックスとジャケットを身につけて、簡単なツナマヨのサンドイッチやハム&チーズのフレンチトースト風サンド、アスパラのベーコン巻きやマヨチキンをランチパックに詰めて、待ち合わせ場所のパラデーゾに向かった。
「また桜田さんは早く待ってるんだろうな、ちと早めに行くか」
で、待ち合わせ30分前に到着したはずなんだが、やっぱり桜田さんはすっごいおめかししてすでに待ってた。
「やっぱり待ってたか」
「大丈夫、だって、うちの真ん前なんだもん、別に待ってないから」
いやいや早起きして準備はしてたでしょ。
まあそうじゃないよりはずっとありがたいことだと思うけど。
「じゃ、行こうか」
「うん」
横浜から東京へ東海道線で向かい東京で乗り換えなんだけど……。
「ずいぶんホームとホームの間が離れてるんだなぁ」
「そうねえ、ずいぶん歩くわね」
東京駅の東海道線から京葉線に乗り換えるのは結構距離がある。
ともかく京葉線に乗り換えたら葛西臨海公園駅までは10分ちょっと。
隣駅の舞浜のネズミの国へ行く人間のほうが多そうだけどな。
「おっきな観覧車があるのね」
「高さが日本一だったときもあったらしいよ」
「それは楽しみね」
笑顔で桜田さんがそういう。
9時半頃に葛西臨海公園駅へ到着して、駅を降りたらまずは葛西臨海水族園へむかう。
ここはガラスドームの水族園で大人でも700円で入園できる、リーズナブルな水族館なのがうれしい。
さたにあらかじめ観覧車のチケットを先に買っておくと、さらに2割引で入園することができるのだ。
入園と言うだけあってかなり施設は広い。
ファミリー層も結構多い。
「560円だったらだいぶ安くてすむしありがたいな」
「どうせ観覧車も乗る予定だしね」
中にはマグロがグルグル回る巨大水槽やおっきなサメのいる水槽、色とりどりの熱帯魚の水槽やペンギン・海鳥・深海魚の水槽などなど、色んな種類の海の動物を見ることができる。
「マグロが泳いでるのなんて始めてみたかも」
「マグロは泳ぎ続けてないと死んじまうから飼育するのは大変らしいよ。
一度全滅に近い状態になったこともあったみたいだけど」
「そういえばニュースで見たことがあった気がするわね」
ここのマグロが全滅に近い状態になった理由はよくわからないが、病気とかではなくてその時やってた夜の工事の振動によるストレスが原因じゃないかという話だ。
基本的に海の魚はそういったストレスにも弱いんだな。
「ペンギンがいっぱいで、可愛いわね」
「だなー、日本でも最大級らしいよ」
そしてマグロやサメも人気だがペンギンゾーンもかなりの人気だ。
フンボルトペンギン、イワトビペンギン、フェアリーペンギン、オウサマペンギンなどが飼育されている国内最大級のペンギン展示施設で、陸上からと水中の様子の両方をどちらからも近くで観察できる。
2時間ほど見て回ったら、ちょうど昼時なので公園の芝生の上にブルーシートを敷いて昼飯だ。
「ちょうどポカポカしてきて暑くも寒くもない時にお昼なのはいいわね」
「そうだな、さて食べようぜ」
「うん」
俺の方はツナマヨのサンドイッチやハム&チーズのフレンチトースト風サンド、アスパラのベーコン巻きやマヨチキン。
桜田さんはカツサンドに鶏のから揚げ、タコさんウインナーにミートボールなど。
「おー、さすが桜田さんうまそうだなー」
「じゃあ、お弁当交換する?」
「え、いいの?俺の弁当は激安おかずだけど」
「いいよ」
「うわー、さすが桜田さん」
というわけでお弁当を交換して食べることになった。
「うわー、このカツサンドうまいわ」
「ハム&チーズのフレンチトースト風サンドも美味しいよ」
「んー唐揚げも上手くあげてあって美味しいなー」
「ん、マヨチキンも十分美味しいよ」
回りも家族でブルーシートの上で弁当をワイワイ食べてたり、高校生カップルっぽい二人組もいたりする。
昼ごはんを食べ終わってちょっと休憩したらリュックからある遊び道具を取り出す。
「じゃーん、せっかく広い公園だしフリスビーをなげあってみようぜ」
「あ、そういうのも楽しいかも」
しばらく無心でフリスビーをなげあったら休憩して葛西渚橋へ向かう。
葛西渚橋は葛西臨海公園と葛西海浜公園を繋いでいる橋でこの橋を渡ると海側の葛西海浜公園なのだが実際は隣接してるからほとんど同じひとつの公園に思えたりする。
そして橋からは東京湾なども見渡すことができるし海の近くまで歩いていける。
海辺の西なぎさを2人で歩くのも楽しい。
「風が気持ちいいわね」
「潮干狩りをシてる家族連れも多いみたいだな」
「微笑ましいわね」
小さな子供が潮の引いた波打ち際で楽しそうにパチャパチャしたりもしてるな。
そんな感じでのんびり過ごしてればやがて日も傾いてくる。
「そろそろ観覧車に乗ってみようぜ」
「うん、そうしましょう」
俺たちはダイヤと花の大観覧車にむかう。
日が暮れてきてライトアップされた大観覧車はきれいだ。
二人でゴンドラに隣り合わせて乗るとだんだんと周りの景色が遠くまで見えるようになってくる。
ねずみの王国の花火やライトアップされた東京タワー、東京スカイツリー、レインボーブリッジ、ゲートブリッジなどの夜景も見えるな。
「キス……しよっか」
「う、うん」
俺はきれいな夜景を見ながらそっと桜田さんと唇を重ねた。
「こういうのも、たまには悪くないよな」
「う、うん、悪くないね」
ゴンドラを降りる頃にはすっかり日もくれたので後は電車で帰るだけだ。
「えへへ、お金をかけなくても結構楽しかったね」
「うん、またデートしようね」
たまにはこういう休日も良いもんだ。