夏休みのバイトでライバルが増えちまった
さて前期の期末の筆記や技術考査も終わり短いが夏休みに入る。
休みだからといって遊んでいられるほどカネに余裕はないし、賄いがないと食費も厳しいからパラディーゾでのバイトに行くのは変わらないけど。
そして今はランチタイムからフルタイムで働いている。
そしてランチタイムはかなり修羅場だ。
「ランチはディナーに比べてかなり忙しいんだな」
桜田さんが苦笑しながらいう。
「これでも多少はマシなんだけどどうしても12時から12時半位が一番重なるわね。
前も言ったけどランチタイムとかは11時半から13時までだけど」
俺は首を傾げた。
「そりゃまたなんで?」
やっぱり桜田さんが苦笑していう。
「そりゃ、会社とかのお昼休みの時間だからだよ。
お昼休みはどこもだいたい同じだからね」
ようやく合点がいった俺はなるほどとうなずいた。
「なるほど、近くの会社員の人もここに食べに来たりするのか」
「そりゃもちろん。
それにディナーと違ってコースでゆっくり食べるわけじゃなくて、ランチセットでババっと食べていくしね」
「そりゃそうだよな、ランチで何千円も出せないわ」
「やっぱり時間もないしね。
皆いそがしーのよ」
そこへオーナーが声をかけてくる。
「夏休みは観光のお客さんも増えるから、これからウエイトレスのバイトもやとうよ」
そんな話をしていたらドアが開いて中に声がかけられた。
「ウエイトレスの面接を受けに来ました。
笠羽茜です」
オーナーがニコニコして受け答えをしてる。
「うん、待ってたよ、じゃあこちらに座って。
履歴書を見せてもらおうかな?」
「はい、これになります」
うーん、なんかどっかで見たような気がするんだけどな。
「ねえねえ桜田さん、あの子どこかで見たことある気がしない?」
そういうと桜田さんがジト目で見てくる。
「あのね、あの子もクラスメイトだよ。
ちゃんと顔ぐらい覚えておきなよ」
そうだったのか。
「あーうん、ごめん、顔とか名前覚えるの苦手でさ」
「あの子もホントはコック志望みたいなのよね」
「女の子でコックはやっぱり大変なんだろうね」
「なんだかんだで男の職場、だからねレストランも料亭も料理人は力がいることも多いし。
まあ、当面はあの子もウエイトレスからだけど、場合によってはコックになることもあるかもね」
「パラディーゾだとウエイトレスからコックになることもあるの?」
「そういうこともあるわよ、最もかなりの例外だけどね」
「むむむ、新たなライバル登場ってわけか。
せっかくケーキくらいは作らせてもらえるようになったのに」
桜田さんニヒヒと笑っている。
「まあ、そんな甘くはないけどね、特にお兄ちゃんは」
俺はウンウンとうなずく。
「ほんとチーフは求道者だからな。
アン・プチ・パケやイデミ・スギノのオーナーたちもそうなんだと思ったけど」
うーんと腕を組んで桜田さんはため息を付いている。
「お兄ちゃんが厳しすぎるのもコックさんがなかなか続かない理由の一つかもしれないけどね。
でも、お兄ちゃんも店の将来を考えてやってることだしなかなか難しいのよね」
「味や接客を妥協しちまったら店も潰れちまうかもしれないしな」
面接が終わったらしくオーナーと女の子がいっしょにこっちへやってきた。
「新しいバイトのウエイトレスで雇うことになった笠羽茜さんだ。
二人はうまく仕事を教えてあげてくれ」
俺はオーナーのうなずいた。
「わかりました、よろしく笠羽さん」
「うんわかったわ、パパ、よろしくね」
笠羽さんがニコと笑いながらいう。
「はい、よろしくおねがいしますね」
俺は笠羽さんに聞いてみた。
「笠羽さんはここは夏休みのだけのバイトなのかな?」
笠羽さんは横に首を振っていう。
「ううん、学校が始まったら昼とかは来れないけど夜は続けていくつもり」
なんか焦ったようにいう桜田さん。
「そ、そうなの?」
「うん、できればコックとして働かせてもらえればって思ってます」
「そう……」
俺も彼女に追い抜かされないようにしないとな、これはうかうかしていられないぜ。