イデミスギノには味へのこだわりは流石というべきしか感想がないぜ
さて、桜田さんとの約束をした日曜日になった。
「んーこんなもんか」
この前桜田さんと一緒に買物にいって買ったスラックスとジャケットを身につけて、待ち合わせ場所のパラデーゾに向かった。
「あんまり待たせるとまずいし今回は30分くらい前に行くか」
で、30分前には到着したはずなんだが、なんと桜田さんはすっごいおめかししてすでに待ってた。
「あー、ごめん、早すぎるかと思ったんだけど、もしかして待ってた」
桜田さんが慌てたようにいう。
「べ、別に待ってないから大丈夫よ。
さ、そんな急がなくてもいいけどとりあえず行きましょ」
「うん、楽しみだね、イデミ・スギノ」
俺がそういうと桜田さんは嬉しそうに笑っていう。
「そうね、楽しみよね。
たまには銀座とかも」
横浜駅から京浜東北線の上野方面行きに乗り東京駅の一つ前の有楽町駅で降りる。
「やっぱり東京は人が多いんだな」
「横浜だってそんな変わんないわよ、さあ行きましょ」
「お、おう」
そこから約10分ほど歩いてお目当てのイデミ・スギノの前に到着。
店はシックな喫茶店っぽい感じに見えた。
ちなみにオーナーの名前は杉野英実だけどフランスではHは発音されないのでイデミ・スギノになるらしい。
そしてもともとは神戸にお店が有ったけど阪神淡路大震災があって東京に進出したらしいな。
「アン・プチ・パケに比べるとシックな感じだね」
「そうね、そういうのも一つの方向性なんだと思うわ、さて並びましょう」
開店前なんだけど行列ができてるのは流石というべきか。
まあ、休日にしか来れない人間のほうが多いのが普通だししょうがないな。
「開店前から行列ができてるくらい人気なのかぁ」
「そりゃそうよ、だって日曜日だもの」
「日本人は行列が好きだからしょうがないよな」
「そういうこと」
そしてやはり並んでるのは女の子やカップルばかりだ。
さすが東京でも五指に入るという人気店だな。
「やっぱりここでも男一人で行列に入って並ぶ勇気はないなぁ」
「そうよね、意外と女一人で食べてる人も多いみたいだけど」
「男一人は流石にいないし、本当桜田さんがいてくれてよかったよ」
「ふふん、感謝なさいな」
「十分感謝してるって。
バイトも楽しいし」
「ん、それは良いことね」
そんなバカ話をして時間を潰しつつ待つとようやく店に入れテーブルに案内された。
開店直後のせいなのかショーケースの中にほとんどケーキはない。
「ショーケースの中にケーキが入ってないってすごいな」
「それはそうよ」
そしてケーキのメニューが来たけどやっぱりいっぱいある。
しかも生菓子ではショートケーキ・シュークリーム・モンブランなどの定番菓子は一切置いておらずほぼ全てがオリジナル菓子なのである、焼き菓子はパウンドケーキとかフィナンシェとかがあるけど。
一番美味しい最良の状態で提供することに強いこだわりを持ってるのでムースは口溶け・味わいを重視するためにギリギリの量しかゼラチンを加えない。
冷やすものは凍りかけるギリギリで客に出すし、パイなら焼き立て、フルーツは旬のフルーツしか使わない、さらに菓子の鮮度に徹底してこだわり、生菓子は当日限り、焼き菓子も少量をこまめに焼いて3日程度で補充という徹底ぶりだそうだ。
そのスタイルが素晴らしいと思える。
なのでイートイン限定の菓子も多い。
桜田さんがにまっと笑っていう。
「じゃあ今回も、二人で半分ずつ食べていっていろいろ食べられるようにしてみましょう?」
「ん、そうしよう、今回は俺も選ぶけど」
「じゃあなににするの?」
「アンブロワジーとスーボアとネオとカラメルティかな」
「じゃあ私はアラビックとブレジリエンヌにフランボワーズティ」
桜田さんのおすすめでケーキをオーダーしてもらい、ドリンクはアールグレー。
アンブロワジーはアンブロジアとも呼ばれる神々の食べ物の名前のチョコレートとピスタチオのムースで持ち帰りはできないイートイン専用の菓子。
スーボアは木苺・苺・ブルーベリー・カシスのムース。
ネオはミルクチーズのムースとマンゴージュレ、マンゴームース。
アラビックもチョコレート系でコーヒージュレの絶妙なアクセントが素晴らしいと聞く。
ブレジリエンヌはコーヒとキャラメルのムース。
やがてケーキと飲み物が次々に運ばれてきた。
「じゃあ、まずはアンブロワジーから」
ナイフで切り分けてフォークで口に運んでみた。
「うわ、チョコはパリパリなのに中のムースはしっとりしててスッゲーうまい」
「すごいわよねー」
さすが神々の食べ物と言われる長年愛されてきたメニューだ。
次はアラビックに挑戦。
「ふおお、これはまた別の意味ですごいな。
濃厚そうに見えてあっさりとしたチョコが甘ったるくなくてコーヒージュレの絶妙なアクセントがすごいいいな」
「同じチョコ系って言ってもぜんぜん違うのがすごいわねー」
そしてスーボア。
「木苺の酸味と苺の甘味、ブルーベリーの酸味とカシスムースの甘味が交互に口に広がるな」
「甘酸っぱい絶妙なハーモニーよね」
それからブレジリエンヌ。
「おふ、上だけ食べると超にがいな」
「上と下を一緒に食べないとだめみたいね」
「なるほどキャラメルムースの甘みとコーヒーの苦味が合わさりながらもムースの風味を邪魔せずうまく溶け合ってるな」
最後にネオ。
「さっぱりとしてるミルクチーズのムースと酸味の強いマンゴージュレが有ってるな」
「結局味の違うものをどうやって反発しないように合わせるかってことなのかもしれないわね」
「うん、きっとそうだね」
ただケーキは美味しいし接客も丁寧なんだけど、なんか上から目線でマニュアル通りの心が全くないものにみえるな。
アン・プチ・パケに比べると店内の空気が微妙に感じるけどこれが威圧感ってやつかもしれない。
銀座の超人気店だからなんだろうけどそこはあんまいいと思わんな。
お値段も結構するし好き嫌いが別れる理由もなんかわかる気がする。
ケーキの状態を優先してるんだろうけど接客が良くないことでリピートはなしという口コミが多いのも納得、そして食べ終わったらさっさと店を出る。
「うん、美味しかったけど接客がいまいちな感じだったな」
「そうね、でも場所も場所だしそういうものなのかもしれないわね」
「いいところは見習って駄目なところは真似しないようにすればいいか」
「そうね、その辺は難しいところよね」
最高にうまいものを食べてもらうための方法を考えるのはいいけど、それを接客で台無しにしてるのはいまいちもったいない気がするな。
「桜田さんの時間があれば品川の水族館でも行く?
上野の動物園とかでもいいし」
「水族館と動物園か、じゃあ水族館にしましょ」
「じゃ、品川で降りていこう」
イデミ・スギノが味はともかく接客はいまいちだったのもあってせっかく付き合ってくれた桜田さんにちょっと申し訳なかったんで言ってみたけど水族館楽しんでもらえればいいな。