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九話 眷属武闘会が始まりそうなのである

エミリー様は意外と子供っぽいところもある。


 ツェッペリン公と謁見し、ダンジョンに潜り始めて六日目。

 いよいよ明日、眷属武闘会が開催されるわけだが、その前にアーシェが今どれだけ戦えるのかをチェックする必要がある。


 そんなわけで、絶賛戦闘中だ。

 もちろん相手はアーシェである。


「踊れ、剣の人形っ!」

「ふむ」


 美少女を模したやたらとリアルな人形が何体も、剣を持って吾輩に襲いかかってくる。

 それぞれが上手く連携し、回避して隙が生まれた所を別の人形がすかさず狙ってくるという、なかなかえげつない戦法だ。


 ひとまず立ったまま身体を捻って避け、二撃目を狙ってくる人形には魔力を弾丸にして吹き飛ばす形で対処。

 それでもめげずに今度は数体まとめて吾輩を串刺しにしようと飛びかかってくるも、それらもやはり魔力を爆発させて全員吹き飛ばした。


「うー……!」

「本体は動けんのか? この程度では吾輩に傷一つ付けられんぞ。よくこれで上級吸血鬼(アークヴァンパイア)を倒せたな」

「人間だった頃とは魔力の質が変わっているので、ちょっと制御しづらいんです……これでも慣れた方なのですが」

「なるほどな」


 道理で温い攻撃だと思った。

 とすると、今は人間だった頃より弱くなっているのか? 場合によっては武闘会で苦戦する事もあるかもしれんな。


「人形の数を減らしたらどうだ?」

「……やってみます」


 アーシェがパチンと指を鳴らすと、何体かの人形が消えていった。恐らくアイテムボックスにでも収納されたのだろう。

 早速仕切り直してみると、やはり先程よりは動きがよかった。それでも吾輩には通じんが。


「人形に魔法を使わせる事は?」

「人間だった頃はできませんでしたが、今はまだ試していないですね」

「人間時代の考えに縛られすぎだ。もっと柔軟になれ」

「は、はいっ!」

「そうだな……人形の前に貴様の魔力の噴出口を設置する感じか。簡単な魔法で構わん、実践あるのみだ」

「やってみます!」


 これまでひたすらにダンジョン内の魔物を狩り、魔物としてのアーシェの〈クラスレベル〉を上げる事に集中しすぎたな。対人訓練は今日が初めてなのだ。明日はもう武闘会だというのに。

 ちなみに、クラスレベルを上げるというのは進化とはまた別の話だ。


 うーむ。何か、魔物である事を活かした戦術は無いものか。

 デュラハンの特異種、だったか? となると……。


 ぐぬぐぬ唸りながら苦戦しているアーシェを余所に、吾輩は一つ閃いた。

 ピコーンと丸い玉が点灯したような思いだ。



 アーシェがやっていたように両手を合わせ、密かに作っておいた吾輩特製の人形軍団を呼び出す。


「えっ!?」


 驚きのあまり面白い顔になっている我が眷属をスルーし、魔力の噴出口を各人形たちの胸に設置。

 そして、横一線に並んだ人形たちから、一斉に闇の魔法が飛び出した。

 うむ、こんな感じか。



「見ていたか?」

「…………わ、私の人形……あっさり真似されてる……しかも魔法使ってた……」

「おい、何を呆けている」

「はっ!! すみません、すみませんっ! 見てましたっ! そりゃもうばっちりがっつり見てましたっ!」

「なら良い」


 そういえばこやつには言っていなかったし、知る者はそう多くないが、吾輩はいくつもの強力な特殊技術(スキル)を持っている。

 その一つが〈記憶の書庫メモリーズ・アーカイブ〉と言って、一度見たものをいつでも思い出し、よっぽど特別なものでない限りはどんな魔法や戦術でもすぐに習得できる。

 つまり、吾輩はとっくにアーシェの人形軍団と同じものを使えたのだ。


 この機会にちゃんと説明しておいてやろう。



「はー、なるほど。特殊技術(スキル)ですか……」

「うむ。まぁそれはさておき、貴様は一応デュラハンの一種だったはず。そうだな?」

「あっ、はい。その通りです」

「ならば闇の魔法に秀でているはずだ。恐らく、それなら人形にもすぐに使わせる事ができるだろう」

「すみません、ありがとうございます! 早速練習を……」

「実践した方が早い。再開するぞ」

「えっ、ちょっ」



 ふははは。人間界での地味な仕事の仕返しだ!

 今度は吾輩が貴様をいじめ抜いてやるぞっ!!



 その後もひたすら戦闘し、アーシェの目が死にかけた頃、奴も人形軍団に魔法を使わせるという戦法に慣れた為、訓練を切り上げる事にした。

 後はゆっくりと休み、万全の調子で武闘会に臨むだけだ。





 翌日。つまりは眷属武闘会当日。

 会場があるレメストリアの街にて。


「いよいよですね……」

「下級は今日一日で終わる。明日は中級が舞台に上がり、上級はまた別の会場となるのだ」

「と言うことは、中級吸血鬼(ミッドヴァンパイア)の方々と顔を合わせる事もあるのですか?」

「まぁな。何度も言うが、中級以上と出会った場合は喧嘩を売られても買うなよ。面倒な事になるからな」

「相手が下級吸血鬼(レッサーヴァンパイア)ならば構わないのですか?」

「ああ、同じ階級であるわけだからな。さすがにそんな奴らにまでヘコヘコする必要はない。それでもまぁ、そやつらの面倒を見ている上の奴らが出張ってくる事もあるが」

「なるほど……」


 ちなみに、ツェッペリン公が言うには上級眷属武闘会で優勝したとしても最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)になれるわけではないらしい。

 名を売るには絶好の機会だが、それで昇級できるほど頂は低くないという事だ。


 恐らく、支配している街や村、あるいは国の数、と言った方面が、最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)への昇級に関係しているのだと思う。後は経済力や吸血鬼本人の強さなどだろうか?



 そして、ようやく会場に辿り着いた。

 まだ早い時間である為、他の吸血鬼は……。



「ん?」


 なんと、居た。

 吸血鬼というやつは大半が時間にルーズなのだが、何とも見所のある若者もいるのだな。


 えーっと、あやつは……誰だ?


「やぁ、初めまして! 間違っていたら申し訳ないのだけど、君があのエミリー・ヴォルガノンさんかな?」

「…………」


 敬語を使うべきか、タメ口でいいのかが分からないため、ひとまずコックリと頷く事で肯定しておく。

 恐らく下級だと思うのだが……。


 困惑する吾輩を余所に、突然声をかけてきた赤髪の男は、人懐っこい笑みを浮かべて自己紹介をしてきた。


「あっ、ごめん! 僕はハール。ハール・ビリディオンさ。同じ下級吸血鬼(レッサーヴァンパイア)同士、一緒に中級に上がれるといいね!」


 あー。

 こやつが噂のハールとやらか。

 妙に爽やかだな。生まれる種族を間違えたのではないか?


「たしか、中級に上がれるのは優勝した眷属の主だけではなかったか?」

「前まではそうだったんだけどね。今年から、優勝していなくても戦いぶり次第では何人も昇級できるようになったんだよ! 知らなかったの?」

「……うむ」

「そっか、そっか。まぁそういう事だから、お互い頑張ろう!」


 これはいい情報を聞いた。

 というか、ツェッペリン公め。どうせ知っておるのだろうし、教えてくれてもよかったろうに。


 さて、隣にいるのがこやつの眷属か。

 うーむ……。


「貴様の眷属は、その悪魔というわけか」

「うん、そうだよ。君の方は……人間?」

「いや、デュラハンだ」

「ああ、なるほどね。それにしては可愛すぎる気もするけど……」

「吾輩の眷属だからな。美しくて当然だ」

「ははっ、そうなんだ」


 悪魔を眷属として従える吸血鬼、か。

 どことなくツェッペリン公を彷彿とさせるな。

 もしやこやつ……。


「貴様、ツェッペリン公に憧れておるのか?」

「っ! なんでわかったの!? そ、その通りだよ! だから、ツェッペリン公と親交が深いと噂の君とは仲良くしておかなくちゃと思ってね! つい声をかけちゃった!」

「そういう事は心の内に留めておくものだぞ、少年」

「うっ、たしかに……」


 やっぱりこやつ生まれる種族を間違えただろう。

 絶対人間界で騎士あたりでもやっていた方がいいぞ。

 あまりにも馬鹿正直すぎるし、吸血鬼同士の腹黒い探り合いなんぞ、とてもできそうにない。


 しかし、まぁ。

 憧れておるらしいツェッペリン公の耳に届く程度にはできるというのだから、油断はできん、か。


「ふふっ……」

「な、なに? どうしたの?」

「いや。あまりにも貴様が吸血鬼らしくないんでな。つい笑ってしまった。許せ」

「あ、いや。よく言われるから……」

「だが──」

「え?」

「──吾輩は嫌いではない。それではまたな、ハール」

「…………う、うん。またね……」



 バカではなさそうだし、魅了しておいて損は無さそうだ。

 適当に吾輩の尻でも追わせておくとしよう。


「エミリー様って、悪女ですね。いえ、小悪魔?」

「ふはは、何のことだ?」

「まぁ、いいんですけど」


 ハールの小僧が吾輩の背をぽーっと眺めている事に気付いたのだろう、アーシェがそんな事を言ってきた。

 別に悪い事はしてないし、勝手にあっちが惚れただけのこと。気にする必要などまったく無い。

 精々吾輩の役に立ってくれたまえよ、少年。



 気だるげにしている受付に話しかけ、下級眷属武闘会への出場登録を済ませた吾輩は、まだまだ時間があるのでアーシェと談笑でもしている事にした。

 しかし、あまり目立つ場所に居るとウザったい輩が寄ってくるため、人目につかない所に移動しておく。



 ……またしても先客がいた。

 流れからすると、正体は何となくわかる。



「初めまして。貴様がメティシアとやらか?」

「うひゃっ!? そ、そうだけど何よ……って、あーっ!! あんたが噂のエミリー・ヴォルガノンね!?」

「うむ」


 やはりメティシアとやらだった。

 これはまた、何ともやかましい女だな。

 眷属は……おや、珍しいな。吾輩のアーシェと同じく、人間と見分けがつかんタイプか。


「……っ!! 万年下級吸血鬼(レッサーヴァンパイア)と言われるあんたが出てくるなんて、どういう風の吹き回しかしら?」

「そろそろ昇級しておきたいと思ってな。吾輩より弱い者どもにヘコヘコするのは、もう飽きた」

「ツェッペリン公に愛されているからって、あんまり図に乗らない事ね! 武闘会で思い知らせてあげるんだから!」

「直接戦うのは眷属なわけだが、まぁ吾輩のアーシェは貴様のような小娘の眷属には負けんよ」

「なんですって!? その言葉、そっくりそのまま返してあげるっ!!」

「そうか」


 あー。

 こやつはハールとは違って大半の吸血鬼と同じタイプか。

 吾輩がツェッペリン公と親しくしている事を知って嫉妬しているのだろう。

 ま、この手の輩は適当に相手をするに限る。


「……その、ねぇ」

「なんだ?」

「どうしたら、その。そんなに可愛くなれるの……?」

「……は?」

「な、なんでもないわよっ!! ふんっ! 行くわよミント! こんな奴と一緒にいたら落ちこぼれがうつっちゃうわ!」

「あー、うむ。じゃあな」


 聞き間違いか? いや、確かに聞こえたぞ。

 もしやあの娘、そこらの吸血鬼とは違うのか?

 無理矢理喧嘩腰を演じているように見えたぞ。


 ま、あやつの態度と実力次第では今後も付き合ってやるか。



 さーてさて、武闘会はまだかなー。



「あの、エミリー様」

「どうした?」

「さっきの女が連れていた眷属……もしかしたら、私の妹かも、しれません……」

「……なんだと?」


 おお、思わぬ所で接点が生まれたぞ。

 これはあやつに聞いてみなければなるまい。

 もし本当にアーシェの妹がメティシアの眷属だとしたら、契約の経緯を問いただす必要があるからな。

色々と詰め込みすぎた気も。

それはそうと、なんかなろうで読んでたらセキュリティ警告がどうのこうのって引っかかるようになったのですが、なんなんでしょうね。

めっちゃ使いづらくて困ります。

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