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八話 変態との謁見なのである

書いてる内にいつの間にか変なやつと化していたツェッペリン(:3_ヽ)_


 ツェッペリン公が待つ謁見室の扉を開け、ゆっくりと中に入る。

 奴の事だ、吾輩が訪れた事はとっくに承知済みのはず。

 であるならば──。



「来たか、エミリーよ」

「ええ。やはりバレていましたか」

「ふん。当たり前だ」


 ──お供を侍らせる事はせず、たった一人で部屋の奥に立つ男。

 遠い古の時代から、最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)であり続ける、まさに生きる伝説。

 吸血鬼の中の吸血鬼。


 吾輩の師であり、ライバルであり、超えるべき壁。

 マルコ・ツェッペリン。


 同じ最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)であっても、やはりミリュネイアよりも存在感は上だ。



 そして──。



「パンツ、見せてくれ」

「お断りだジジィッ!!」

「なぁっ!? 何故じゃ!」

「何故もクソもあるかっ!」



 ──その凄まじい覇気を台無しにする程に、スケベでもある。

 もちろん、他の者達が居る時はこやつも自重しておる。が、今は吾輩とアーシェ、そしてこやつしかおらんからな。

 覇者としてのイメージを壊さぬよう、配下の者どもは全員外に追い出してあるのだろう。いつもの事だ。


 ま、無駄なあがきだと思うがな。


「ああ、相変わらずエミリーちゃんは可愛いのう! そのツンツンした感じがまたたまらんわい!」

「ええい離れろケダモノ! 吾輩の足に纏わり付くなっ!」

「ふはは、スーベスベじゃぁ~!」

「頬擦りするなっ! このっ、このっ!!」

「あふんっ」


 最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)としての身体能力を無駄使いし、目にも映らぬスピードで這い寄ってきたかと思うと、このハイスペックエロジジイは、吾輩の足にスリスリと頬を擦りつけてきた。気持ち悪いんだよこのぉ!!


 全力を持って、殺すつもりで何回も何回も身体を踏み潰してやったが、当然奴にダメージはない。それどころかむしろ嬉しそうである。



「…………」

「お? 遂に眷属と契約したんか」

「……ええ、まぁ」


 ここで、ようやくアーシェの存在に気付いたようだ。

 吾輩のパンツを見ようと四苦八苦しながら、左の目玉だけを器用にぐるんと動かしている。

 はっきり言って、すごく気持ち悪い絵面だ。

 外見ではいかにも帝王らしい強面できちんとした服装をしているだけに、殊更気持ち悪さが際立っている。


「ふむ」

「あ、あの?」

「ふむふむ」

「あの……何か?」

「うん、興味なし。やっぱりエミリーちゃんが一番じゃ」

「は、はぁ……」


 地べたに這いつくばるド変態スタイルから改まって、今度はアーシェをじろじろ観察したかと思うと、ジジイがそんな事を言い出した。

 どうもこいつは吾輩だけを見ていればそれで満足らしい。こんなところに美しさの弊害が出てしまうというのは、ちょっとばかり納得出来ないものがある。

 吾輩は何もこんなド変態のために美を探求しているわけではないのだ。


 そして。

 糸が切れたように大真面目な表情に戻り、最初の位置へと戻っていく。

 パンツなど見せてやってはいないが、満足したようだ。


「で。今日は何の用じゃ?」

「近く眷属武闘会が開催されるでしょう。それに出るつもりなのですが、ツェッペリン公のダンジョンで時間を潰そうかと思いまして。一応、許可を頂きに参った次第です」

「あ、そんな事か。別に勝手に入ってもええと言っておろうに」

「いえ、筋を通さねば他の方々から文句を言われますので」

「面倒なガキどもめ。やはり儂が皆殺しにしてやろうか?」

「おやめください。近い将来に奴らをごぼう抜きにするという、吾輩の楽しみが無くなってしまいます」

「くはは、そうじゃったな!」


 まるで先のやり取りが無かったかのような空気だが、いちいちこれに取り残されていてはこのジジイと付き合う事はできん。もう吾輩は慣れたから大丈夫だが、アーシェは……。


「えっ、あの、えっ?」


 ああ。やはり戸惑っているな。

 あまりの変わりように混乱し、完全に置いてけぼりにされてしまっている。

 気持ちは分かるが、諦めろ。これがツェッペリン公だ。


「そういえば、よくよく見ればその女はあれか。〈ドールブレイダー〉か?」

「はい。たまたま公のダンジョンに生前のこやつが現れ、例の悪魔に殺されたようでして。死後魔物と化していたのです」

「なるほどのぉ。あの辺りは空気中の魔力濃度もかなりのものじゃし、影響を受けて魔物化してもおかしくはないか」

「これもツェッペリン公のおかげです。ありがとうございます」

「感謝するならパンツを見せておくれ」

「嫌です」

「じゃよなー! くはははっ!!」


 突然自分の話題になった事で、挙動不審だったアーシェがビクリと反応した。

 やはりツェッペリン公も生前のアーシェを知っているのか。

 最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)ともなれば、徹底した情報収集は基本なのかもしれぬな。覚えておかねば。


 かつて魔王が倒された事からも分かるが、人間というのは魔族と比べると虚弱な者ばかりのくせに、時折突然変異なのか狂ったように強い輩が現れる事がある。

 そういった輩の出現を感知する為にも、情報収集は怠るべきでないのだろう。


「んー。可愛いことは間違いないんじゃがの。どうもエミリーちゃんに慣れすぎてしまうと、いまいち惹かれんのよ」

「当然です。吾輩は世界一美しいですから」

「知っとる知っとる。実際、お主を娶ろうと画策しておるバカの数も相当なモンじゃぞ? その割にいじめっ子のように振る舞うのがちっとばかし理解出来んが。子供か」

「吾輩は家庭に入るつもりなど毛頭ありませんよ」

「だから知っとるて」


 容姿こそ褒めたものの、アーシェをばっさり切って捨てると、本当に興味が無いのだろう、吾輩との会話に集中し始めた。

 うむ。アーシェ、貴様は空気となっていればいい。こやつの相手を出来るのはやはり吾輩しかおらぬようだ。


「そういえば先ほどミリュネイア公とお会いしましたが、今回の眷属武闘会には、誰か見所のある若者でも来るのですか?」

「ああ、あの女から聞いたんか。んー、そうじゃなぁ。エミリーちゃん程ではないが、ハールという小僧はそこそこ才能がありそうじゃ」

「噂には聞きますね。ハールとメティシアという二人の吸血鬼が、近頃頭角を現しているとか」


 レメストリアでアーシェにも教えた名だが、一応ツェッペリン公のアンテナに引っかかる程度にはできるという事か。

 所詮は下級吸血鬼(レッサーヴァンパイア)……と言いたいところだが、吾輩自身も同じだからな。もしかしたら同類なのかもしれん。

 納得するまで鍛え上げてから一気に出世するタイプだとしたら、思っていた以上に厄介かもな。


「ああ、そうそう。それじゃ、メティシアじゃ。なんか一人足りなくね? と思っとったんじゃよ。あの子もそこそこ才能がある方じゃと思うぞ」

「ほう、かのツェッペリン公がそこまで言うとは……」

「いずれ儂をも超えるだろうエミリーちゃんには、遠く及ばんよ。あのドールブレイダーを眷属にしたともなれば、尚更お主が警戒する意味は無かろうさ」

「いえ。油断は大敵です」

「それもそうじゃな、くはははっ!」


 やたらと吾輩を持ち上げてくれるが、どれだけいい気分にさせたところでパンツは見せんぞ。

 何せ正当な評価なのだからな。

 吾輩はそのうち必ず、このツェッペリン公やミリュネイア公をも傅かせてみせる。


 そして魔界全土に手を広げ、人間界をも食い尽くすのだ。


 さて、どうやら警戒すべきなのはやはり、ハールとメティシアの二人だけしかいないようだな。

 さっさとダンジョンへ行って時間を潰すか。

 一応、武闘会に向けてアーシェを鍛えてやる必要もあるしな。吾輩自身を鍛え上げる事も当然忘れるつもりは無い。


 時間はいくらあっても足りん。


「それではツェッペリン公。ダンジョンをお借りします」

「うむ。あー、エミリーちゃんが出るなら儂も今度の下級眷属武闘会には顔を出すかのう! ミリュネイアの奴も誘っておこ」

「……失礼します」

「まさかのスルー!? 本当に行くからな!? 嫌って言っても行くからなーっ!!」



 間違いなく騒ぎになるから来るんじゃない。

 貴様はもっと最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)としての自覚を持て。

 内心溜め息を吐きつつ、アーシェを連れて吾輩は退出した。

 その足で城内のワープポータルに赴き、かつてアーシェが死んだあの場所とは別のダンジョンへと飛んでいく。


 さて、一週間か……。

ツェッペリンはただのエロジジイではなく、本当に強いです。エロいけど

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