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七話 謁見前の思わぬ出会いなのである

早めの時間に投稿してみる


 大きい個体ともなると三十メルド程もあるという魔物、ギガント族すらも容易に潜ることができるとツェッペリン公が豪語していた通り、城の門は巨大という他ない。

 様々な吸血鬼を招く為、そういった巨体の眷属が来ても大丈夫であるように設計されているらしい。吾輩もいつか自分の城を持つ時に参考にさせてもらうつもりだ。


「エミリー様、これはどのように開けば良いのですか? 巨大すぎて、押してもビクともしませんが……」

「ん、簡単だぞ。身内として承認されてさえいれば、魔力を通す事であっさりと開くのだ。このようにな」


 不思議そうに巨大な扉を押したり引いたりするアーシェを下がらせ、魔力を手に溜めてそっと触れる。

 すると轟音とともに、ゆっくりとではあるが扉が開いていった。当たり前だが侵入者ではこうはいかない。

 アーシェに言った通り、ツェッペリン公から“身内である”と認められるか、客人として招待された者にのみ許された特権だ。


「ほぇー……」


 間抜けな声を上げる眷属を見て笑いつつ、気を引き締めて正面に向き直る。

 ツェッペリン公ほどの大物ともなれば不心得者が侵入する事すら容易ではないが、だからと言って配下の者達が弛んでいるなどという事は全くない。

 最強クラスの吸血鬼に仕える者もまた、それ相応の強さを持ち、並々ならぬ忠誠心でもって「主を守る」という気概を常に抱いているのだ。


 例えば、吾輩はこうして難なく入れる程に信用されているが、それを利用して反逆しないとも限らない。

 下剋上を夢見る者は多く、上に立つ者は油断など一切してはならない。

 それが吸血鬼という生き物だ。


「人間の国では王がバカだろうとそうそう革命など起きはしないが、魔界ではそうもいかん。愚かな頭はすぐに刈り取られるのが常識だ。故に、最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)ともなれば“どの御方も”超然とした切れ者揃いなのだよ」

「なるほど……」


 面倒だが、ここは既にツェッペリン公の手中。

 迂闊に生意気な言葉遣いなどをすれば、すぐに伝わってしまう。故に、吾輩もちょっとばかり気をつけなければならん。


 はー。

 早く出世したい。

 何故この吾輩がヘコヘコせねばならんのだ。


「いいか。この城にはツェッペリン公配下の吸血鬼という方々も多くいらっしゃる。つまり、ここでは吾輩は最底辺の存在であり、それに仕える貴様はもはや虫けら同然だ。これから見るだろう相手は全て王族のつもりで接しろ」

「か、畏まりました……吸血鬼社会も大変なのですね……」

「まぁな。やたらと便利なくせにそういうところは妙に古めかしい」


 門を潜ると今度は長い長い庭園があり、屋内に入るにはまだしばらく歩かねばならない。

 その時間を利用し、改めてアーシェに注意を促してやる。

 それだけ吸血鬼とは気難しい輩が多いのだ。


 だから吾輩はあまり顔を出したくないのだが、我慢するしかない。所詮最底辺の吸血鬼でしかない今は。

 そして、ふと遠くを見ると人影が映った。

 ちっ。


 静かに頭を下げ、それを見たアーシェも慌てて頭を下げた。

 そして、吾輩に気付いた人影が近寄り、正体を見せる。


「エミリーちゃんじゃなぁい。今日も可愛いわねぇ」

「ありがとうございます、ミリュネイア公。ツェッペリン公のお城に顔をお見せになられるとは、珍しいですね」

「まぁねぇ。ほら、そろそろ武闘会のシーズンじゃなぁい? ツェッペリンの奴に、面白そうな子はいないか聞きに来たのよぉ」

「なるほど、それはまた奇遇な……」

「あらぁ? そっちの子は……」

「はい。吾輩の眷属です」

「へぇ」


 吾輩が“公”と付けて呼んだ事から分かるだろうが、この女はツェッペリン公と同格の最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)が一人。

 「美」を探求し、吾輩と気が合う数少ない存在。

 ミリュネイア・フォルニールだ。


 こやつがわざわざ来たという事は、今回の武闘会に見所のある輩でも出場してくるのかもしれんな。

 まぁ、下級ではないのだろうが。


 気張っていた割にカチンコチンになっているアーシェの頭を引っぱたき、自己紹介をさせる。

 まったく、相手がミリュネイアでよかったな。

 これが短気な輩だったなら、今頃殺されていてもおかしくはないぞ。


「は、初めましてです! あ、アーシェと申します!」

「うふふ、初めまして。最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)が一人、ミリュネイアよぉ。エミリーちゃんとはよく“美しさ”に関して議論を交わさせてもらっているわぁ。よろしくねぇ」

「よ、よろしくお願いします!」


 うむ。

 アーシェがこの姿に進化していてよかった。

 万が一スケルトンのままだったなら、有無を言わさず吾輩ごと消し飛ばされていただろうからな。


 今にして思えば、吾輩って結構危ない綱渡りをしていたのでは……。


「ミリュネイア公。実は吾輩もそろそろ武闘会に顔を出してみようかと思いまして」

「そうなのぉ? エミリーちゃんの眷属ともなれば、下級なんて瞬殺でしょうねぇ。早くワタシたちの所まで上がってきなさいな。あなたなら既に上級吸血鬼(アークヴァンパイア)程度の力は最低限持ち合わせているでしょぉ?」

「そうあればいいと思ってはおりますが」

「……ま、他のバカたちは気にしないでいいわよぉ。どうせすぐあなたに抜かれるのだし」


 うむ。

 バカばかりしかいない吸血鬼の中にあって、ミリュネイアのような存在はなかなか貴重だ。

 いや、彼女だからこそ最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)になれたのだろうな。

 眷属を連れてはいないようだが、やはり覇者の風格というものを漂わせている。正直、戦って勝つにはまだ力が足りないと自覚せざるを得ない。


「エミリーちゃん」

「はい、何でしょうか」

「その子、もしかして〈ドールブレイダー〉? ほら、一時期話題になったじゃない」

「流石に鋭いですね。その通りです。ドールブレイダーの死体が魔物になっていまして。それを眷属にしたのですよ」

「なるほどねぇ。なかなか面白い事になりそうだわぁ」


 ほほう、さすがはミリュネイアだ。

 こやつからすれば脅威でも何でもないだろう、生前のアーシェを覚えているとは。

 上に立つ者ほど油断も隙も無いということだな。わかってはいたが。


 にこにこと微笑んでいたミリュネイアだったが、ふと何かを思い出したように両手を打ち鳴らし、可愛らしく謝罪してきた。


「ごめんねぇ、エミリーちゃん。用事があるのを忘れていたわぁ。今度改めてじっくりとお話しましょぉ?」

「はい。お忙しい所をお引き止めして申し訳ございませんでした」

「ううん、参るわよねぇ。もっとゆっくりしたいわぁ……っと、いけないいけない。それじゃまたねぇ~」

「はい、またお会い出来る日を楽しみにしております」


 そんな感じで、何やら用事があるらしいミリュネイアは、手を振りながら優雅に掻き消えた。

 パスポートではなく、自前の転送魔法を使ったのだろう。


 はて。

 あのミリュネイアが大急ぎで帰るような用事か。

 気にしても仕方ないのだが、気になるな。



 いや、まぁいい。さっさとツェッペリン公に会わねば。



「……っはぁ~……あれが、最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)ですか……凄まじい威圧感でしたね……」

「そうか? 慣れてしまえば何てことは無いぞ」

「というか、最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)と友人関係にある下級吸血鬼(レッサーヴァンパイア)ってどういう事ですか」

「吾輩に突っかかってくる吸血鬼どもの気持ちが分かったか?」

「ちょっとだけ」

「ふん」


 どっと疲れた様子のアーシェの言を軽く受け流し、さっさと進む。

 この城はやたらとだだっ広いからな。

 最奥部にいるツェッペリン公の部屋まで、かなり距離があるのだ。


 できれば誰とも会わずに行ければいいのだが、そうもいかんだろうな。

 ツェッペリン公配下の吸血鬼も多く住み着いているし、何回か鉢合わせる事になるだろう。

 しかしまぁ、初っ端からミリュネイアと会えたのは運が良かった。

 彼女に比べれば、この城に住む吸血鬼どもなど虫みたいなものだ。無論、ツェッペリン公は除くが。

 最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)特有のあの威圧感に慣れてしまえば、他の吸血鬼と鉢合わせても冷静でいられるし、ツェッペリン公ともいくらか落ち着いて話が出来るだろう。


 まぁ、アーシェが口を開く機会はそうそうないと思うが。



 その後、案の定何人かの吸血鬼と遭遇したが、アーシェは眷属らしく冷静に対処できていた。

 比較的吾輩を認めてくれている連中ばかりだった事も幸いだったな。

 完全に吾輩を敵視してくる輩と出会った場合の、アーシェの反応が心配だ。いらぬ問題を起こして欲しくはない。



 ……ひとまず頭を切り替えて、ツェッペリン公との謁見に集中するか。

 一応、それなりに親しいとはいえ目上の相手だ。

 失礼の無いようにしなければならん。

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