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三話 眷属と交流するのである

本日二話目。

あまり投下するとストックが無くなるんですけどね。


 夜。

 それは、我々吸血鬼に代表される“闇の魔族”たちが活発に動き出し、逆に人間どもは拠点へと引き返し、思い思いの時間を過ごす、魔と人の境界線。


 わざわざ“闇の”魔族などと表現した通り、魔族の中にも人間と同じく昼行性の者どもはいる。それらは我々闇の魔族と比べて力で劣るためか人間と仲が良く、人間からは〈亜人〉などと呼ばれ、魔族とは別の存在として考えられているようである。


 例えば耳長のエルフとか、チビで髭もじゃのドワーフとかな。

 昔は闇の魔族として知られたワービーストも、今では昼行性となり、〈獣人〉として人間社会に馴染んでいる。


 もしかしたらそのうち、我々吸血鬼もそうなるのかもな。

 だが、少なくとも今の吸血鬼どもでは、人間と仲良くするなど不可能に思える。理由は簡単。無駄にプライドが高く、他者を見下すバカが多いからだ。

 よりによって最も数が多い下級吸血鬼(レッサーヴァンパイア)の連中が、一番その傾向が強い。

 人間ごとき、エルフごとき、などなど。他種族を見下す言葉を何度聞いたことか。だから奴らは阿呆なのだ。



「エルフやドワーフが魔族だったなんて、知りませんでした……」

「らしいな。永き時を生きる吸血鬼ならともかく、人間の寿命は短い。昔の事はさっさと忘れるのが種族的特徴なのだろうよ」


 今はこうして、開けた空間を利用して仮の拠点を作り、所謂キャンプファイヤーの真似事をしながらアーシェの話を聞いている。

 人間界の事情や、彼女の過去などをだ。尤も、過去の話はともかくとして、彼女が人間として生きていた五年前の情勢などを聞いても、あまり意味は無いのかもしれんが。


「そういえば、貴様は何故あのダンジョンに一人で来たのだ? パーティーだったか、複数人で来れば命ぐらいは助かっただろうに」


 とりあえず不思議に思っていた事を聞いてみる。

 人間としてのアーシェが死んだあの場所は、人間からも恐れられる最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)の有力者、ツェッペリン公の領域の内にあり、間違いなく「魔境」と呼んで差し支えない難所であるはずだ。

 そんな所に一人で来て生き残れると自惚れるほど、こやつはバカではないと思うのだが。


「えっと……生前の私はそこそこ名の知れた冒険者でして。吸血鬼も何人か倒した事があるんです。それが地元の権力者の目に留まったみたいで。難攻不落と恐れられるあのダンジョンの攻略を命じられたんです。一応、依頼という形ではありましたけど、断りきれませんでした」

「は。阿呆な貴族のボンボンに殺された、というわけか。まぁおかげで貴様と出会えたのだから良いがな」

「あはは……。あの、〈ドールブレイダー〉っていう冒険者、聞いたことがありますか?」

「ん? んー……」


 ドールブレイダー、はて……。

 どこかで聞いたような、聞いてないような……。


 ああ。


「思い出した。よく吾輩に突っかかってきた陰険な上級吸血鬼(アークヴァンパイア)を倒したという事で、一時期吸血鬼どもの間で話題になった奴だな」

「そ、そうなんですか。あの、実はそれ、私なんです」

「……へー」

「あんまり驚かないんですね……」


 聞いておいてなんだが、別にまだそこまで貴様に興味があるわけでもないしな。

 一応、眷属なのだから記憶はしておくが。


 しかし、虚弱な人間の身で上級吸血鬼(アークヴァンパイア)を倒した、か。

 冒険者という奴らの一部はそれこそ怪物のように強い者もいると聞くが、アーシェもその手の輩だったのだな。これは良い拾い物をした。


「何故ドールブレイダーなどと呼ばれるようになったのだ?」

「それは私の戦い方が関係しています。スケルトンだった頃は魔力がほとんど無かったので、直接敵を斬っていましたけど」

「今はどうだ?」

「はい。今なら、生前のスタイルも再現できるかと」

「やってみろ」

「畏まりました」


 アイテムボックスに溜め込んである魔物の肉をもきゅもきゅと貪りながら、武器を持って立ち上がるアーシェの姿を観察してみる。

 眷属はそう簡単には主に刃を向けられないので、リラックスしていても全く問題は無い。


 アーシェが何やら詠唱をし、両手を合わせると、空間を裂いて大量の人形が現れた。

 ちょうど人間と同じぐらいのサイズであり、造形もなかなかリアルだ。どれもこれも可愛らしい服を着ているし、良いセンスをしている。

 そして、全ての人形の手には、ロングソードが握られていた。


「このように、たくさんの人形を呼び出して、それを指揮する形で戦うのが私のスタイルなんです。雑魚を相手にする時はまず私が前に出ることはありません」

「なるほどな。なかなか面白い事をする」

「ありがとうございます。でも、あの悪魔にはまるで通じませんでしたし、エミリー様のお役に立つ為にも違うスタイルを模索するべきかなと思っています」

「いや、それでいいんじゃないか? 人形一つ一つの戦闘能力を上げれば、あの悪魔程度なら問題なく倒せるだろう。さすがにツェッペリン公本人を相手にするには不足だが」

「そう、でしょうか」

「付け焼き刃のスタイルなど、本物の強者には通じんよ。壁にぶつかるまで、貴様はそれを突き詰めていけばいいさ」

「なるほど……」


 人形を用いた演舞を披露した後、全てを自分の空間へと収容し、アーシェは再び吾輩の隣に座った。


 さて。

 見たところ、こやつは対集団戦闘にも向いているようだ。

 タイマンでも数の暴力を使えるのは有利だ。現時点でも中級吸血鬼(ミッドヴァンパイア)へと昇級する事は容易だろう。

 並の下級吸血鬼(レッサーヴァンパイア)の眷属が、あの人形軍団を打ち破れるとは思えんからな。


 だが、ふと思う。

 元々有名な冒険者だったと言うなら、ぱっと見では人間と区別が付かない今のこやつならば、普通に人間の街へと入り、また冒険者として活動を再開できるのではないか?

 吾輩だって美しすぎるだけで、見た目は人間と変わらんからな。吸血鬼の特徴である不健康な肌も、美容に気を使っている吾輩とは無縁だし。


 さて。それなりの街を一つ支配すれば、中級吸血鬼(ミッドヴァンパイア)に昇級したりはしないだろうか?

 街一つが、イコール、村数個分とカウントされるのであれば、可能なはずだが。

 試してみる価値はあるか?

 何より、下級吸血鬼(レッサーヴァンパイア)の眷属どもを吾輩のアーシェが蹂躙する様子を見ても、面白くないしな。


 武闘会に出るのは、上級へ昇級する頃でもよかろう。


「アーシェよ。吾輩は昇級したいのだが、街を一つ支配してみようと思う。中に入ることは可能か?」

「私もエミリー様も外見は人間と区別が付かないので、潜り込む事は容易いかと。しかし、支配ですか? そうなると眷属を増やすのでしょうか? それとも、私が……」

「あー、落ち着け。貴様を手放す気はない。ささっと街に入り、ちょっとばかり名を上げて権力者と接触し、そいつを魅了して裏から街を支配すれば良いだけだ。眷属の内にも入らん程度だろ」

「なるほどっ! さすがエミリー様です!」


 吸血鬼社会の事や眷属武闘会の事に関しては、既にこやつに説明してある。

 大物吸血鬼に関しては、まぁ現時点で接触する事はまずありえんから別によかろう。奴らも奴らで、支配した街々の管理で忙しいだろうしな。

 吾輩のような下級吸血鬼(レッサーヴァンパイア)に構って来るとすれば、中級吸血鬼(ミッドヴァンパイア)上級吸血鬼(アークヴァンパイア)の連中だ。

 奴らはどうも暇らしく、やたらと吾輩に突っかかってきおる。まぁそのおかげでツェッペリン公との縁ができたのだから、感謝してやらなくもないが。

 眷属武闘会に顔を出せば、間違いなく絡んでくるだろうな。あー、今から憂鬱だ。相手をするのが面倒くさい。


「聡明な権力者が相手だとやりにくい。バカなボンボンが治めている街などは知らんか?」

「五年前の話になってしまいますが、私の地元がまさにそれだったかと。アレがまだ健在ならば、エミリー様のお美しさからして間違いなく奴の目に留まるでしょうし」

「代替わりしている事も有り得るが、行ってみる価値はあるか。どの道、ハズレだったとしても情報収集はする必要があるしな」

「はい。では、ご案内します。多少歩く事になってしまいますが……」

「構わん。ああ、金はあるか?」

「アイテムボックス内に、いくらか貯金がございます」

「なら良し。行くとしようか」

「はい」


 こうして吾輩とアーシェは、アーシェが一度目の死を迎える原因となったバカなボンボンが治めているはずの街へと向かって歩き始めた。

 望むならば、アーシェの復讐を手伝ってやる事も吝かではないが、どうなのだろうな。

平然と人間の街へ行くスタイル

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