二話 眷属が美少女に進化したのである
一日一話投稿するか、思い切って二話投稿するか。
でもあんまりストック無いしなぁ(:3_ヽ)_
カタカタと骨を鳴らしながら、アーシェが猛烈な勢いでゴブリンを狩っている。
吾輩たちが今いるのは、ツェッペリン公の領域の端。
最も弱い魔物たちが住み着く、なんとも平和な田舎だ。
汚らわしいゴブリンどもは、自分たちを蹂躙して回るピンク色に恐れ慄き、ひたすらに逃げ惑うばかりである。
結論。
暇だ。あまりにも安全を優先しすぎたな。
やがて、アーシェがゴブリンのリーダーを討ち取り、嬉しそうに骨を鳴らした事で、この惨劇は幕を閉じた。
相当な数を倒したはずなのだが、やはり所詮ゴブリンはゴブリンという事なのか、我が眷属が進化する気配は欠片も見られない。
ひとまず脳内に記憶してある魔物の分布図を思い起こし、もっと手頃なエリアをピックアップしてみる。
うーむ……。
「アーシェ」
「カタッ?」
「ここより西にしばらく行くと、数多の男性冒険者たちを殺害し、無数の女性冒険者たちを攫い、強姦してきたというふざけたゴブリンの部族が住んでいると聞く。全員ぶち殺すぞ」
「……カタッ!!」
今となっては種族が違うとはいえ、同じ女である事に変わりはない。
無理矢理襲って子を孕ませるというふざけた行為をしてきたゴブリン部族に対し、アーシェも激怒したようだ。
もちろん吾輩も怒っている。
奴らはこの辺りのゴブリンとは強さの桁が違うと聞くし、アーシェの糧となってもらうには丁度いいだろう。
吾輩とアーシェ、怒れる二人の乙女は、疾風のごとく突き進み、ひたすら西へ西へと向かっていく。
この日、一つの卑劣なゴブリン部族が壊滅した。
あまりにも汚らわしい連中だったので、戦闘……もとい蹂躙の様子は割愛させてもらう。
そして。
「うむ。アーシェ、どうだ? 何か変わったことはないか?」
「カタ……?」
卑劣なゴブリンどもを塵も残さず滅してやった後、貧相なゴブリン部族の集落跡にて、吾輩とアーシェは休憩している。
奴らの吾輩を見る目があまりにも気持ち悪かったからな、ちょっと疲れてしまったよ。
美しいと言うのは本当に罪なものだ。あんなケダモノですらも魅了してしまうのだから。
さて、吾輩の問いを受け、自らの身体を見回すアーシェだったが、特に何も無いようだ。
むむぅ、何か条件でもあるのか? 進化というものは……。
と、その時だった。
【個体名:アーシェ・ランドルフ、種族名:ビューティフル・スケルトンが、特殊な進化の条件を満たしました。本人の意志により、これより特殊進化を行います】
「なんだ?」
「カタッ? カ、カタッ!」
どこからともなく声が聞こえた。
もしや、これが噂に聞く〈世界の声〉というものだろうか。
声によれば、ようやくアーシェが進化するらしい。特殊な進化という事は、やはりただ敵を倒すだけではダメなのか。
まぁ、条件を満たしたらしいし問題無いか。
というか貴様、特異種だったのだな。
普通のスケルトンは白いよなぁ、とは思っていたが。
アーシェの身体が黄金に輝き、何故かピンク色の繭のようなものに包まれていく。
そして、待つ事数分。
すっかり様変わりしたアーシェの姿が、そこにあった。
「……エミリー様」
「……人間、か?」
「いえ。〈世界の声〉からすると、どうやらデュラハンの特異種であるようです」
「人間のようにしか見えんが……首が取れるのか?」
「はい。お美しいエミリー様にお仕えするため、生前に似せた姿を一回り以上美しく仕上げたものだ、と〈世界の声〉は言っておりました」
「ほほう……」
まるで人形のように、いや、それ以上に美しい顔立ちと、抜群のスタイル。
白く陶器のような肌も相まって、人間離れというか、魔物離れした天上の美を造成している。
無論、吾輩の方が美しいがなっ!
スタイルも吾輩の方がイイしっ!
……うむ。
もうこれ以上貴様は進化しなくていい。
後は〈クラス〉を極め、その肉体の能力を上げていけば問題はなかろう。
実際、トップクラスの強さを持つ魔物の中にも、一度しか進化をしていない者はいるしな。
…………おっと、いかん。
「アーシェよ。とりあえず服を着ろ。こんなところを誰かに見られたら厄介な事になるぞ」
「あっ……す、すみません! ずっとスケルトンだったから、頭から抜けてました!」
「いや、吾輩もだ。慣れとは怖いものだな。あー、少々待て。幸い、サイズは似たり寄ったりだし何とかなるだろう」
「えっ?」
煌めく銀色の髪を飾るリボンはあるものの、元々スケルトンだったのだから当然服など一切着ていない。
つまり、今のアーシェは正真正銘素っ裸だ。
こやつの裸体を眺めて良いのは主である吾輩だけであり、赤の他人に見せびらかして良いものではない。
我々吸血鬼をはじめとする魔族や、冒険者に代表される人間どもと種族を問わず、ブラドガルド中に普及している空間魔法【アイテムボックス】を使い、保管してある吾輩の古着を与えてやる事にした。
「これは、まさかエミリー様の……!?」
「貴様にやる。進化の祝いだとでも思え」
「あ、ありがとうございますっ!!」
「さっさとそれを着ろ。貴様の裸体を楽しんで良いのはこの世で唯一、吾輩だけなのだからな」
「は、はい!」
ふぅ。
ひとまずはこれでいいだろう。
もし今後もスケルトンの眷属を増やすような事があれば、進化したらすぐに服を着せられるように準備しておかねば。
それにしても、スケルトンから一気にデュラハンへと飛んでいくとは、魔物とは何とも不思議なものよな。
吾輩たち魔族や人間どもには進化というものが無い故、よくわからぬ感覚だ。昇級は進化とはまた別物なのだよ。
「その首は割と容易に取れてしまうのか?」
「そう、かもしれません。気を抜くとぽろりと落ちてしまいそうです」
「ふむ。チョーカーでも調達した方が良さそうだな。せっかくの美しい顔が早々もげられてはかなわん」
「ご、ご迷惑をおかけして申し訳ございません……」
「いや、気にするな。貴様は吾輩の眷属なのだからな。面倒を見るのはごく当たり前の事だ。そういえばちょうどいい素材がアイテムボックスの中にあったような……」
いかにも申し訳なさそうな表情を浮かべているアーシェの頭を撫で、額に軽く口付けをしてからアイテムボックスを漁り、お目当ての物を探し当てる。
基本的に一人で様々な事をこなしてきた吾輩は、実に多彩な魔法を習得しているのだ。
マジックアイテムを作り出す【クラフトマジック】も、下手な職人より余程上手いと断言できるぞ。
早速、アイテムボックスの中にあった〈ドラゴンレザー〉を素材に、アーシェの首が取れぬよう【固定化】の魔法を込めたチョーカーをクラフティングしていく。
うむ。
まぁこの程度の品なら目を瞑っていても作れるな。
「これもやろう。進化祝いだ」
「……! ありがとう……ございます!!」
「うむ。今後の活躍に期待しているぞ」
「はい! 必ずやお役に立ってみせます!」
デザインもクソもないつまらぬチョーカーなのだが、アーシェは随分と気に入ってくれたようだ。
感極まって涙すら浮かべている。
この分なら今後も問題なく付き合えるだろう。
下手に言語を解するようになると、主人に反抗し始める眷属も居ると聞いたことがあるが、こやつに限っては全くそんな心配はいらなそうだ。
これもひとえに吾輩の魅力故だな。
ま、ドラゴンと言えど強さはピンからキリだ。
今の吾輩でも、中途半端な輩程度なら簡単に始末し、素材を剥ぎ取る事ができる。
よって、ここで使ってしまっても困ることは無い。
さてさて、改めて生まれ変わったアーシェの力を確認し、今後の計画を練っていかねばな。
首がぽろりしちゃう以外、ほぼ人間。