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新たな眷属に目をつけたのである

新年あけましておめでとうございますなのである。

更新忘れてたぜ


 遂に、遂にこの時がやってきた。

 下級吸血鬼(レッサーヴァンパイア)という最底辺の階級とおさらばし、吾輩の名を魔界中に轟かせる、その第一歩。長かった……。


 下級眷属武闘会が、遂に開催されるのだ。


 が。

 今はそれより大事な事がある。


「まず、私の妹の本名はシェリル・ランドルフ。断じて“ミント”などという名ではありません」

「つまり、あの女が勝手に名付けたわけか」

「恐らく。それに、妹は……シェリルは、幼い頃に死んでいるんです。なのに、どうしてあんなに大きくなっていたのか……」

「…………」


 吾輩が知るアーシェは、例え幼子が大人になっていようと、実の妹を見間違える程薄情な奴ではない。

 となると、人間と瓜二つの姿を持ち、人間と同じように成長する眷属か。

 いなくもないが、かなりのレアモノだぞ?


「あぁ、メティシアの眷属ぅ? それならぁ、確か〈アビス・エンプレス〉っていうSSランクの魔物よぉ。本来なら下級吸血鬼(レッサーヴァンパイア)風情が契約できるような相手ではないわぁ」


 首を傾げていた吾輩だったが、突然声をかけてきた相手に気付き、振り向く。

 そこにいたのは、ツェッペリン公の城で出会った最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)、ミリュネイア公だった。


「ミリュネイア公。いらしていたのですか」

「ツェッペリンに誘われてねぇ」

「なるほど」


 あのジジイ、本当にこやつを誘っていたのか……。

 となると当然奴も来ているのだろうな。

 まったくもう。


 とにかく、気持ちを切り替えて再び考える。

 SSランクの魔物を下級吸血鬼(レッサーヴァンパイア)が従えるなど、前代未聞だ。

 それだけメティシアの才能が秀でているか、あるいは影で支援している大物がいるのか。

 恐らく後者だろうな。


「妹が、SSランクの魔物……」

「と言っても主より強かったら契約が解除されちゃうから、ほとんど生まれたままの状態なのでしょうけどねぇ」

「それならば勝機は十分にありますね。公、お聞きしたいのですが……」


 魔物にも冒険者と同じようにランクがあり、SSランクはその中でも最上級である。

 それを従える事が出来れば、大いに役立つ事は間違いない。しかもアーシェの妹だというのなら、是非とも配下に欲しい。


「主を屈服させて支配すれば、眷属も奪えるわよぉ? あなたの得意分野でしょぉ、エミリーちゃん」

「ふふっ、確かに」

「エミリー様……」


 質問をする前に答えられた。さすがにお見通しか。

 ふっふっふ、わくわくしてくるな。

 あの女の精神を蹂躙し、傅かせ、吾輩の駒としてくれよう。そして眷属を奪い取ってやる。


 ただ、心配なのが──。


「でもぉ、確かメティシアには既に主がいるのよねぇ。美しくないからワタシは嫌いなのだけどぉ、ヒルゲルボルっていう上級吸血鬼(アークヴァンパイア)よぉ。魔物コレクターとしても有名だしぃ、何かの拍子に妹ちゃんを手に入れたのかもねぇ」

「やはり、その手の輩がいましたか」

「えぇ。ついでに殺してくれない?」

「構いませんよ。一石二鳥です」

「やったぁ! じゃあお願いねぇ~」


 ──もしもメティシアの主が最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)だったのなら吾輩も引かざるを得なかったのだが、上級吸血鬼(アークヴァンパイア)程度なら問題は無い。

 武闘会が終わった後、サクっと殺してメティシアを確保すればいいだけだ。

 順調すぎて怖いぐらいだな。


 貴重な情報をくれたミリュネイア公は、用を済ませるとVIP用の観客席へと去っていった。

 わざわざ選手控え室の前まで来るあたり、そのヒルゲルボルとかいう上級吸血鬼(アークヴァンパイア)が余程気に食わないのだろう。


「あの、エミリー様」

「なんだ」

「さらっと言ってましたけど、相手は上級吸血鬼(アークヴァンパイア)……その、明らかに格上ですよね?」

「だからどうした」

「実際に戦ったから分かりますけど……強いですよ、上級吸血鬼(アークヴァンパイア)は」

「大丈夫だ、吾輩の方が強い」

「その自信はどこから……」

「さぁな。そんな事より武闘会だ。そろそろ始まるぞ」

「あっ、はっ、はい!」


 確かに吾輩は未だ下級吸血鬼(レッサーヴァンパイア)

 ヒルゲルボルと比べて、吾輩の方が遥かに格下だ。

 だが、実は既に何人もの上級吸血鬼(アークヴァンパイア)を殺した経験がある。ツェッペリン公が密かに協力してくれたおかげで、吾輩は公の下で死刑執行人として働いていた事があるのだ。


 故に、恐るるに足らず、というやつだな。



『さぁ始まりましたぁ、退屈な日々を過ごす皆様にとって、至高の娯楽! そして、出てきた杭を確認するための偵察でもある、眷属武闘会! と言ってもまー下級なんてたかが知れてるよねー。ちゃっちゃと済ませよーよ』

『戯けが。真面目にやれ、真面目に! えー、今回は儂ことマルコ・ツェッペリンと、ミリュネイア・フォルニールも解説として加わっておる。無論、目的はエミリーちゃんの姿を見ることなのじゃが、ついでにな』

『あなたも真面目にやりなさいねぇ、ツェッペリン。そういうわけだからぁ、割と楽しめると思うわよぉ?』


 選手控え室の前にある壁にもたれ掛かっている吾輩とアーシェの耳にも、アナウンスが響いてくる。

 特製の音響魔法により、会場中で実況と解説の声が聞こえるようになっているのだ。


 解説はまぁ、ツェッペリン公とミリュネイア公。

 本人が言っていた通り、お目当ては吾輩だ。

 直接吾輩の名を出してくれた事にはちょっと物申したい。


 それはまぁさておくとしてだ。


「何故実況にまで大物が来ている……」

「えっ、さっきの可愛い声がですか?」

「ああ。最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)のお一人だ」

「ええっ!?」


 たかが下級眷属武闘会ごときに、最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)が三人も来るなど贅沢にも程がある。

 それにしてもあやつとは別に親交など無いのだがなぁ?


『あっ、言わなくても分かってると思うけど、実況はこのアタシ! ヴェーチェル・アインだよーっ!』

『夜の君(笑)じゃの、くはははっ!!』

『んだとジジイ、やんのかコラ!』

『まぁまぁ、二人とも喧嘩しないのぉ』


 天真爛漫なヴェーチェル公をツェッペリン公が挑発し、それをミリュネイア公が宥めるという何ともカオスな空間が出来上がっている。

 これ、まともに運営できるんだろうな?

 最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)同士の大喧嘩で会場が吹き飛んだりしないよな? 吾輩早くも心配なのだが。


 本当に、ヴェーチェル公は何故来たのだろう。


「仲良しですね」

「どこがだ。下手を踏めば大戦争になりかねんぞ」

「さ、さすがにそこまでは……」

「ならんとも言い切れん」

「あ、あはは……」


 恐らく観客たちは呆気に取られているのではないだろうか。

 普通、吸血鬼たちの頂点に立つツェッペリン公たちがここまで同じ場所に集う事はほとんど無い。

 何故なら、対立している者同士がぶつかり合い、ほんの些細な事から魔界中を巻き込んだ大喧嘩に発展しかねないからだ。


 武闘会の運営側も、よく許可したな。断りきれなかったのだろうか。



『あー、もうっ! さっさと始めるよっ!』

『その前にルール説明じゃの。今回から色々と変わっておってな、今までは眷属だけが舞台に上がって戦っておったのじゃが、今回からはその主である吸血鬼にも出てきてもらう。無論、直接戦うのはあくまで眷属なのじゃが、主には眷属を魔法で補助する事が認められたのじゃ』


 ここで初耳の情報が入り、吾輩とアーシェは顔を見合わせた。

 いいのか? 圧倒的に有利なのだが、本当にいいのか?


『そうそう、それ忘れてた。あっ、もちろん吸血鬼が敵の眷属に攻撃するのはダメだよ? あくまでサポートだけ。例えば、【フィジカル・ブースト】で自分の眷属の身体能力を上げたりとか、その程度』

『後は指示を出したりもできるわねぇ。これで多少は白熱した戦いが見られるかと思いますーなんて言っていたわぁ。運営スタッフが』


 なるほど。

 三人も最上位吸血鬼(ロードヴァンパイア)が見に来ている事から、彼らを退屈させてしまわないようにする為の策だろう。恐らく運営スタッフが即興で考えたに違いない。


 並の下級吸血鬼(レッサーヴァンパイア)ならば補助などしたところで大した変化は望めんが、吾輩は違う。

 幸運なことにダンジョンで実証済みだが、アーシェの動きが劇的に変わるのだ。これで負けの目は無くなったに等しい。



 それでも油断は禁物。

 改めて戦術を組み直していると、実況のヴェーチェル公が投げやりに叫んだ。


『えーと、それじゃあ始めるよ? まずは第一試合……えっと、誰だこいつら。ふぉ、フォルモント? 対、ジグラフ選手! さっさと出てきてぱぱっと終わらせてー。アタシもエミリーちゃんを見に来たんだからさー』



 ……だから何故に?

 吾輩、別にあんたとは接点もほとんど無かったはずだぞ?

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