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引き続きメンコで遊んでます。でも前半はほぼ世界観の説明です。後半は会話が多めです
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【システム】ジャンル名:ファンタジーさんがアップを始めました。
??「この話を読んでから、お前は次に『てめーこれを言わせたかっただけだろ』と言う」
右腕の服の袖口の辺りを出発点に、俺の指の間からはワイヤー繊維のようなものが無数に渡って放出されている。実はこの繊維、出かける前にデュークの胴体を絡めとった糸と同じものなのだけど、かなり万能なんだぜ?
強度や材質を変えたり長さや細さを変えたりするのはお手のもので、短くたこ糸代わりに切り取って使ったり要らない雑誌をまとめたり、殴り合う寸前の者たちの動きを絡めとって止めたり。もちろん繊維自体の色も変えられるからお裁縫にも重宝する。この前は突然取れてしまった右袖のカフスボタンを縫い直すのに、繊維サマには非常にお世話になったものだ。
つまり何を言いたいのかというと、この繊維たちは非常に優秀で、持ち主の意図通りに多彩で多様なことをやってのける。糸だけに。そう、例えば。
全体的に透明化して、先端は原子レベルにまで解体させて空気という空気に溶け込ませることとか。
事のついでに魔力の話をしよう。あぁ、身構えなくて大丈夫だ。
仕組みそのものは簡単だから、菓子食いながらでも充分理解できるし。
でも魔力って色々分野があるから、話はどうしても長くなってしまうのだ。
全部話すとなると1日じゃ足りないし、絶対どこかのポイントで説明から議論にシフトチェンジしてしまう。
そんなわけで今は大気中の魔力についてだけ、必要最低限のことを話そうと思っているから難しく考えないで良いはずだぜ。
さぁ、準備はいいか?
魔力は大気中に微細な塊で存在する魔素を元に、構成されるエネルギーの総称である。
どれくらい微細かというと、化学の原子表に載るくらいには細々としている。だから普通は見えないのだけど、大気中の魔素は群体になりやすい。しかも群体は大気中で反発し合い、莫大な力を生み出す。それが魔力と呼ばれる力になるんだ。
魔力になった魔素は一般的に魔眼と総称される特殊な目を持った者や、精密機械のスキャナーなどには姿が観測できるらしい。
大気中の魔素は呼吸によって体内へ取り込まれる。食べ物を食べたりベットで眠ったりなどと普通に過ごしていれば、体内の魔力切れの心配はまずないな。魔素は循環によってほぼ無限に産み出せる物質だから。
とはいえ所詮は若干量。精々普通の生活で取り込まれた分を賄える程だ。
この大気中の魔素はバランスが取れていると見るか、不釣り合いだと見るかで今も議論が飛び交っている。まだ解明されていないこともあるらしいから、話題には尽きないらしい。
魔力もとい魔素って奥が深いよな。
で。
既にわかってるかもしれないけど、この世界に魔法は存在する。呼吸するだけで簡単に魔素、言わば魔力が貯められるから魔法は誰でも使える日々の暮らしのお供だ。更に一番魔力を消費するツールでもある。
魔法は、体内へ貯めていた魔力と大気中の魔素を利用して放たれる術。消費する魔力は圧倒的に体内蓄積魔力の方が多いものの、多少は術者の周りを漂う魔力も加わる。だから大気中の魔力が減ると、あぁ誰か魔法使ったんだなとわかる仕組みになっているんだ。
まぁ一般的に使われる魔法は言う程魔力を消費しないから、目くじら立てるまでもないんだけどさ。問題になる魔法は大体、1つの国家が一瞬で塵になるくらいの消費量を誇る大魔法ばかりだし。極論を言えば、一般向けの魔法なら同時に100万、100億の術者が使っても大丈夫だ。
大分反れてしまったけど、話を元に戻そう。
ただ今、ケビンとクエバスという坊主のメンコ対決の真っ最中だ。試合は互いに譲らない展開で、見ているこちら側まで熱くなってくる。全くもって目を離せない。
そんな俺の指の間には先端を原子レベルに分解し、大気中に溶け込ませた透明な繊維サマがいらっしゃる。実は坊主たちが来るもっと前から張り巡らせていた繊維サマは、警報装置のような役割を担い、逞しくお仕事をしなすっていたのだ。その頼もしい繊維サマから、3度目の坊主の攻撃の直後に俺は受け取った。
この場に漂っていた魔素が激減したというサイレンを。
* * * *
魔力の減少。
上手く信じられなくて、瞬きをした。当然結果は変わらずに、手の中で転がっている。指で繊維たちを遊ばせながら、俺は唾を飲んだ。繊維たちが知らせたのは呼吸程度で無くなる量を余裕で超過している。何故こんなにも減少した?
いや、そもそも。いつ、誰が、どこで。
こんなにも魔力が減少するような術を、魔法を使った?
手を握りしめる。我ながらあまりにも思考が粗末で、拙かった。
背中に流れていく一筋の汗を実感にする。誰にも悟られないように静かに息を吸って、長めに吐く。体内の脈動が徐々に、徐々に潜まっていくのを確認してからゆっくり目の前を見た。
全体を見れるように、俯瞰で捉えられるように。まずは落ち着いて、それから何が起こったのか機械的に整理して処理する。
そうしないと、知りたいことや知らなくてはいけないことが、わからなくなってしまうから。見えなくなってしまうから。
最初はなんで、いきなり魔力が減少したのかから考えてみた。
普通に考えれば誰かが魔法を使ったと考えていいと思う。繊維たちが感知した魔力の減少量は確かに大きいけれど、一般的な魔法の範囲内だったからな。でも、魔法をこの場のメンツが使った形跡はない。
加えて俺も魔法を使った瞬間を見ていない。この時点で妙だ。
一般向けの魔法は少ない魔力で使用できるのと同時に、『発動した』という事実がわかりやすい。例えば火を熾すなら術者の近くで炎が生まれ、周囲を涼しくしたければ術者を起点にして風が起こるという具合に、目に見えて結果がわかるものばかり。要は派手で単純なのだ。
なのに『発動した』ことがわからなかった。年端もいかぬ子供たちなら兎も角、坊主の用心棒たちや俺みたいな大人が全員『発動した』事実が認識できないのはまずない。というか魔法発動を感知できていなかったら、ボディーガードなんて即刻クビ案件である。
つまり原因は『魔法であって魔法ではないもの』であり、魔法とは別物だ。
だったらそれは何か。
もう一度、繊維たちに意識を集中した。
右手をじっと見つめると、透明なはずの繊維たちの場所が浮かび上がってくるようにわかった。そのまま先端をたどり、一番反応が強かった場所を絞り込む。張り巡らされた回線を駆ける電流のごとく繊維たちをたどっていって、行き着いた場所で俺は目を剥いた。まさか、犯人は――。
パシンと打ち付ける音が思考をうがつ。
それが合図で急速に視界が開けた。
よどみなくもどこか落ち着きすら感じさせる黒が広がる空に青い月。
目の前では筋肉質の男衆とあどけなさいっぱいの少年たちが、ケビンと坊主を囲んでいるのがわかる。合計で数えるのが億劫になりそうな頭数であるものの、視線の全ては中央の二人と二人の間にある箱へ注がれていた。
その箱の上では今、1枚のメンコが浮かび上がる。
薔薇の蔓を身にまとい、祈りを捧げる娘を移したメンコが箱の上から落ちることはなかった。
メンコはその身に宿す娘の恥じらいを隠すかのごとく翻り、反対側の箱の縁へ逃げる。繊細にして鮮烈な攻撃だった。
一連の荒事から舞台上が静けさを取り戻すと、観客の少年たちから口々に声が漏れた。
「あぁー!ケビン惜しいー!」
「もうちょっとで取れたのにー」
「ひっくり返したのすごくキレイだったよ!」
「まだまだ負けるなー!」
声は激励に変わる。
自然と少年たちはケビンを応援するようになっていた。
「ふふ、またか。それならドンドン差をつけるまでだ!」
坊主は応援へ特に触れることなく、新しいメンコを振り上げて舞台へ墜とす。
相変わらず勝負の舞台、もとい箱の強度が心配になるくらいの轟音をあげた。
近くで坊主のメンコが生み出す暴風を直に食らったケビンのメンコは風を背に踊り上がって、坊主とは反対側のケビンの近くの縁へ着地する。
でも坊主の場合、これだけでは終わらない。坊主の攻撃の余波が残る箱は微妙に震撼し、メンコを動かして地へと土をつけさせた。
瞬時に坊主の後ろから拍手が上がる。
「流石ですクエバス様!」
「類い希ない強さ、憧れますぞ!」
「もう勝負は決まったようなものですな!」
口々に闊達な声が上がる。既に勝った気でいるものも少なくなくて、誇って笑い合う者も多い。それを聞いて、少年たちの間から不安な気運が流れ出した。
俺は男たちを見やる。
猛禽類の男共は変わらずに笑い合ったり坊主を褒めている。
だけど、よく見てみるとたまに数名がチラチラと少年たちを見ていた。今の状況を少年たちへ必要以上に見せつけるように、声を出していたのだ。
俺は大きめにため息をついた。
子供たちの意識の矛先が、集まってくるのがわかる。
すがるような視線を避けるかの如く、もったいぶって俺は口を開けた。
「はぁーあ、すごい差がついてるなぁ。確かにこれはヤバいかもしれないなぁ」
そして、人一倍明るい声を出す。
「でもケビンなら負けないぜ」
「なぁに言ってんだよ兄ちゃん」
すかさずリーダー格の男が口を挟んだ。
「そっちのケビンっていう坊やはさっきから不調じゃあないか。なのにクエバス様はさっきから連取してんぜ、勝負はもう見えてんだろ?」
「それはどうかな」
俺は静かに笑って返す。
あまりにも俺が落ち着いていたからか、男は驚きで声を詰まらせた。
「勝負はまだ終わっちゃいない、だから今勝敗なんて見えねぇよ」
「何言ってんだ、頭イかれちまったのか兄ちゃん。折角話のわかる賢いヤツだと思ってたのによ」
「いーや?俺は正気だぜ」
「だったら尚更!この状況わかんだろーが!」
男は苛立ちをを隠さずに、吠えた。
気にせずまた笑うと、男はむすっとした顔で腕を組んだ。
俺の周りの少年たちはオロオロと男と俺を見る。
そんな子供たちに俺は歯を見せて笑った。
「大丈夫、まだ勝負はわかんねぇよ」
「だってケビンはまだ諦めてないだろ?」
言ってから俺はケビンを指した。
ケビンは動いてなかった。
俺たちが言い合いをしている最中でも、不動のまま箱を見つめていた。今の状況に絶望していたのではない。
逆だ。
背筋は伸びていた。背中の服の皺が幾重にも重なっている。
肩は上がっていた。おもちゃのロボットのように平らな横のラインが出来ている。
肌は赤っぽかった。特に耳なんて、上の方はもう真っ赤になっている。
「勝負捨てたやつがあんなに必死になって考え込むか?今もしっかり土俵に立てると思うか?俺はできないと思うぜ」
「でもなぁ」
「ヤバいじゃん」
「あいつ強いしさ」
「ケビン初心者だよ」
少年たちは俺の言葉へ弱々しく反論していく。
思っていたより精神的なダメージが大きいみたいだ。子供って純粋だし、特に今は元々不安だったものを助長されていることもある。仕方ないか。
俺は少年たちの視線に合わせてかがむ。
「大丈夫だよ。アイツの実力や負けん気の強さを、君たちは知ってるだろう?短いけど、今夜一緒に遊んでいたんだからさ」
ゆっくり頷いていくのを見て俺は柔らかく笑う。
「俺たちにやれることはまだある。応援しよう、力一杯ケビンを元気づけるんだ」
「おーえん?」
「どうして?」
「役に立つの?」
疑問を口にする子供たちにウインクする。
「ツラいときにこそ、心からの応援って響くんだ。温かい気持ちになってくる。一人じゃないって思えてくる。普段の自分からじゃ想像できないようなパワーが出てきて、何でも出来そうになるんだ」
一斉に顔を上げて見つめる少年たちを俺は見渡して力説する。
「今は確かにケビンは大変なときだと思う。だからこそ、みんなで支えるんだ。力を貸して上げるんだよ」
だから応援しよう、ともう一度呼びかけた。
それを合図に子供たちはケビンや坊主へ振り返る。
数多の瞳を見て、俺は一息ついた。
「いけー!ケビンー!」
「頑張れ!」
「僕たちがついてるよ!」
「あきらめるなよー!」
少年たちは晴れ晴れとした顔で元気な声を出し始めた。
次回「一番良い決着で頼む」
リュー「もしかして・・・やったか?」
デューク「や っ て な い」
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???「てめーこれを言わせたかっただけだろ、・・・はッ!?」