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ケビンくんが未知の世界を知るようです(意味深)
前回の後書きで散々ふざけましたが、本当にR指定入ったりアブノーマルに近いアングラなことはしていたり、ということはないのでご安心ください。
加えて少し生意気なガキんちょが出てくるのでご注意ください。
「着いたぜ」
たどり着いたのは郊外に近い東南の区域。主にベットタウンとして栄えているだけに、この時間帯になると少し静かだ。
その街中で今俺たちはとある建物の前に立っていた。
ケビンはゆっくりと2、3歩前に出た。振り替えって俺を見る。
「ここ、は?」
「あぁ、ここか?ここはな」
「すっごく楽しいところだぜ!」
ケビンは口を開けたまま俺と手を繋いで歩く。それもそうだ。建物に入ってからというもの、ケビンと同じかそれ以上の子供の姿しか見ていないからだ。
また3人くらいの少年たちが俺たちとすれ違った。
「なぁなぁ!お前どうだった?」
「僕はこれ!じゃーん!」
「おおおおお!すげー、スーレアだぁ!」
「いーな、俺も欲しー」
和気あいあいと互いのものを見せあって歩く少年たちは、キラキラと目を輝かせて手の中の“ソレ”を見せあう。“ソレ”は薄い画用紙のような材質で、正方形や丸形の中に様々なキメラや建物、武器とかが色彩良く描かれていた。
もうお気づきだろうか。
俺たちは店に来ていた。勿論食べ物屋とか雑貨屋とかではない。
俺たちが行く道の真横には、俺の背丈程の棚がずらりと並ぶ。そこには手のひらサイズの車や金属製のロボット、ふかふかのぬいぐるみやドールハウスがこれでもかと連ねていた。そう、ここはおもちゃ屋。所謂子供の楽園である。
左手に感じる力が少し強くなった。手の方向を見るとケビンが立ち止まって少年たちを、いやむしろ少年たちの手の中にある“ソレ”を凝視していた。
「お?気になるか、あれ」
「ん」
「あれはなー“メンコ”って言ってな、こう持って地面にぺシーンって叩きつけて遊ぶゲームだよ」
こう、と腕を大きく振って遊ぶ真似をしてみると、ケビンはびくりと肩を震わせた。しまった、この動作は。いくらやり方の真似でも失策だった。
おそるおそる様子を見ると怖がるどころか、興味深々に俺を見るケビンがいた。カッと見開かれた瞳には新大陸に降り立った冒険家のように活気が溢れている。
胸の奥がむず痒い。頬も力を入れていないと、だらしなく緩んでいきそうだ。
妙に温かくなった胸の内を隠すように、俺は少年の手を引いて踏み出した。
「まずはコレ」
ほい、とケビンの前にアルミのパックを数枚差し出す。正方形のそれには3つの頭を持つ犬、言い換えるとケルベロスが黒い雷を放つイラストが描かれていた。
差し出された当の本人はというと、初めて目にする物体への戸惑いと興味で板挟みになっているんだろう。固まっていた。
俺は説明することにした。
「これはな、さっきの男子たちが持ってた“メンコ”が入ってる魔法の袋さ」
「まほ、う?」
「この袋の中には“メンコ”が絶対1枚入ってるんだけどな、1枚1枚違うんだ。まずは絵。武器とか花とかがあるんだけど、それが剣とか斧とか、赤とか青とか全然違うのが描かれてる」
試しにパッケージのケルベロスを指差してみると、ケビンはこくこくと頷いた。
「次は珍しさだな。“メンコ”にはノーマルレア、レア、スーパーレア、ウルトラレアって感じで順位付けされてて、それぞれ手に入りやすい種類と入りにくい種類がある」
「な、んで?」
「え、あ、それは、いっぱい集めたりするのが楽しくなるためだな!すっげぇ珍しいのがドーン!って来たら嬉しいって思えるように、な!」
最初はしどろもどろだったけど、ケビンはなんとか理解してくれたようだ。興味深々にケルベロスだけを見つめている。良かった、夢壊さないで済んで。
いやでも俺の言ったの間違いじゃないし。取り出すまでの高揚感とか、取り出した後に一喜一憂するのとかだって醍醐味だし。まぁそれが要らぬ争いを生み出したりするんだけど、一々言っていったらゲームは楽しめない。
物事には万事、メリットとデメリットがついてくるのだから。
「こんなとこだな。とにかく夢がいっぱい詰まった袋なんだ」
あとは強さか。カード同士で戦うタイプのゲームだったら攻撃力とか防御力とかあるんだけど、まぁメンコだし。勝敗は紙の強度と形、あとは叩きつけ方くらいが決め手だろう。多分。
ケビンが目に見えてうずうずと、落ち着きがなくなっているのがわかる。
十二分に興味を持ってくれたようだ。
「はーい、じゃあ改めてケビンくん」
しめしめとほくそ笑みながら再度ケビンにパックを差し出す。
「初めての君にプレゼントフォーユー!お兄さんからの選別だ、3つまで選んでくれよな」
ニコリと笑ってからケビンの手元にパックを移す。しばらくは俺のテンションの変化に戸惑っていたケビンだったが、迷い始めた。さっきとは打って変わってパックを見て迷い出している。非常に良い傾向な光景だ。
「こ、これと、これと、こ、これ」
「こいつらだな?よし、ちょっと待ってろよ」
俺は少し離れた会計机に足を進める。ケビン自身が人差し指で示していったパックを店員に渡し、銅貨を4枚出した。店員が銅貨と交換したのを見てから俺はどこか落ち着きのない少年の元へ戻り、手渡した。
「はい、これで完ペキにこいつらはお前のだ。ちょっとは大事にしてくれよ?」
俺の言葉に頷いたケビンはすぐにぺりぺりと袋を開ける。
まず一枚目。
取り出したのは白翼のライオンが空高く吠えているメンコで、翼は店内のライトで眩く反射している。それをケビンは眩しそうに、だけどより楽しそうに灯りへかざしたり隠したりした。そんなケビンに思わず俺は頭を撫でていた。
「中々かっこいいじゃないか、良かったなケビン」
「えっ、あれレオンウイングじゃん!」
「すげー!あいついきなり人気のやつ当てたぞ!」
するとわらわらと周りにケビンくらいの子供たちが集まって来た。確かにライオンの絵の下に【レオンウイング】と明朝体っぽく書いてある。
かっこいいけどさ、何故明朝体?
それよりも。
俺は駆け寄ってきた三つ目の少年に話しかける。
「なぁなぁ、あれそんなに良いもんなのか?」
途端に、ケビンの手元に釘付けだったはずの少年の首が俺を捉えた。
「ええ!?兄ちゃん知らないの、あれちょー人気なんだよ!」
「ランクはレアなんだけど、ちょーかっこいいじゃん?だから欲しがる奴多いんだ!」
「そ、そうなのか。ごめんな、知らなかったぜ」
三つ目の少年の隣にいた褐色の少年も応戦した。口を開ける度に少年の肌の鱗が光を乱反射する。非常にメンコが好きなのだろう、少年たちの目の輝きが収まらない。
そうしている間にもケビンは2つ目を開けていた。現れたのは月桂樹の冠をした男が、剣を振り上げて先導しているようなものだった。名前は。
「【ペルセウス】って、え」
非常に聞き覚えのある名前で、目を疑った。確かにそれらしい姿をしているけどあれか、あのペルセウスか?某神話の人間やめてる人か、最後星かっこ物理かっこ閉じになった人か、かの有名な古代英雄か?って全部同じ人じゃねーか!
「うお、あいつまた人気のやつ当たったよ!」
「いーなー、俺も欲しい」
プチパニックに陥っている俺の横で、先程の少年たちはまたケビンの手元に釘付けになっていた。さっきのレオンなんとかみたいにキラキラしたりしないから、おそらくノーマルレアの類いのメンコなんだろうが。
だがしかし。ちょっとやりすぎたか、俺?
パックを開ける度、小さな見物客は増えていった。加えて周りもこの少年たちと同じような反応を取る中、空けるのに夢中で聞こえてないのかもしれない。
ケビンは淡々と最後のパックを開ける。
その手には、長い白髪の女性が目を閉じている姿が写されていた。右手では本を抱き込み、左手では柄に入った短剣を握る姿は豪華な加工も相まって神々しい。
だけど何より目を引いたのは異様に黒い、むしろ真っ黒と言って差し支えのない女性の肌だった。
「うわぁぁあ、あいつ【黒曜の乙女】まで当てちゃったよ!?」
「噂の新しいウルトラレアの!?す、すげー!俺初めて見たよ【黒曜の乙女】!」
俺の横の少年たちは興奮を隠す気もない。頬を蒸気させて腕をブンブン振り回している。そんな姿は見ていて非常に微笑ましい、微笑ましいんだけどさ。
【黒曜の乙女】を見る。周囲の観客たちの歓声を我関せず涼しい顔をして輝く姿に、俺は何故か少し末恐ろしさを感じた。
そういえば、昨日天界で神災課へ贄の書類渡しに来た奴がこの【黒曜の乙女】とそっくりだったような。いや、やめておこう。これ以上は不毛だ。対応していた職員が突然わめきだしたこととか、カウンセラー室にしょっぴかれてたこととか知らないし、知らないし。俺はまだ正気でいたい。
笑顔を張り付けてケビンへ話しかける。
「おお、いいの当たったみたいだぜ?良かったな」
「ん」
ケビンは頷き、再度メンコへ目を落とした。
一番見やすい位置にある【ペルセウス】を見て頬が緩んでいる。
同じ種族だから親近感もあるのだろう、一番お気に入りのようだ。
「じゃあ早速遊ぶか。さて、じゃあ適当に外にでも」
出ようぜ、とは最後まで言わせてもらえなかった。
「なぁなぁ!お前、俺たちと一緒にやろうぜ!」
「いや、僕とバトルしようよ!」
「先に俺っちとやんねーか!」
我先にとパック開封ショーの小さな観客たちが、ケビンに詰め寄ったからだ。
前のめりになって俺が僕がと連呼する少年たちにケビンは目をぱちくりとさせて、固まった。予想外の展開で、完全に頭の回線がショートしてしまったようだ。こればっかりは仕方ない。しかし、押し寄せる少年たちの勢いが強すぎる。
これ以上放っておけば悪意は0でも少年たちによってケビンが潰れかねない。
俺は少年たちとケビンの間に割って入った。
途端にブーイングが少年たちから嗷嗷と鳴り響く。
「何すんだよにーちゃん!」
「邪魔すんなよー!」
「かんけねーだろ!」
中々の言われようだった。特に最後の坊主、俺バリバリ関係者なんだけど?
だがこれくらいのブーイングは想定内。改めて俺は口を開いた。
「君たちは勢い良すぎなんだよ、こいつが話せないだろ?」
そう言ってケビンを前へ出すと、少年たちははっとしてからだんだん申し訳なさそうな顔つきになった。
「そっか、ごめんな」
「ごめんね、君大丈夫?」
口々に謝ると、ケビンは静かに頷いてから笑った。つられて謝った少年たちも笑顔になる。良いことだ。ちょっと眩しい気もするけど、俺は子供特有の純粋さ溢れる光景を噛み締めていた。
「うっせー!ぶがいしゃはすっこんでろー!」
噛み締めていたらミサイル級の横槍が入った。飛んで来た方向を見ると坊主が一人いた。長い爪に当たらないようにゴツゴツとした拳を握り締め、鳥類特有の鋭い眼光で俺を睨んでいる。あの目付きは多分生まれつきとかではない。ケビンに駆け寄っていたときにチラッと見たが、もう少し目元は緩かった。
え、なんでそんなにキレられてんの俺?まだこの少年には何もしてないぞ?何も。
「じろじろ見てんじゃねー!キモいんだよ!」
「おいお前ふざけんなよ」
思わず声が低くなってしまった。我ながら大人げない。坊主は目に見えてビクついている。いやだっていきなりキモいとか言い出すし、言い出すし。
自分より遥か年下の坊主に言われたら、流石にカチンとくるだろ?
そういえば、この坊主の声。
さっき俺を無関係扱いした声と似ている。
方向も確かこっちだったような気がするし。もしかしてこいつか?
もう一度鳥類の坊主を見る。俺と目があった途端、怯えるように肩を震わせた。
よく見てみると、うっすら涙目になっている。考え直してみると、坊主の言動も子供の純粋さが満ちていたと思う。ケビンたちとはベクトルが全く違うが。
やっぱり俺、大人げなかったな。
「が、ガンつけてんじゃねーよ!」
ごめんな、と謝りかけた口のまま時が止まった。坊主は言ってすぐに踵を返して店の外へ駆け出す。出ていくのを見送ってから、俺はやっと動けるようになった。
自然と右手へ視線が落ちた。握ったり放したりするのを4、5回繰り返す。
よっしゃ、坊主お前、覚えておけよ?
拳を握り締めながら、鳥類の少年が去っていった方向を見て俺は静かに笑った。
次回「坊主襲来」
リュー「もう戻ってくるのかよ。やめろ来るな、こっち来んな」
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